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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
76/122

歴史的勝利

 ピッ、ピッ、ピー。

 そして、ゴールが決まったその直後、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

「やった、やったぁ~」

 逆転に喜んでいた選手たちは、さらにこぶしを突き上げ、飛び跳ねる。

「勝った」

「勝ったよ」

 信じられないといった表情で、ベンチ前でたかしと信子さんは見つめ合った。

「呪いが破れた。呪いを破ったんだ」

 たかしが叫ぶ。

「遂に呪いをやぶったんだ」

二十三年間続いた呪いを、この日、金城町商店街女子サッカー部はついに、逆転勝利で打ち破った。

「本当に変わったよ。変わったんだよ」

 たかしはせり上がる感動を押し殺すように言った。

「先輩が来て、本当にこのチームは変わったんだ。生まれ変わったんだ」

 たかしは感動と歓喜に、涙がこぼれた。

「先輩、やりましたね」

 たかしは熊田を仰ぎ見る。

「当たり前じゃ」

 熊田はしかし、口元に余裕の笑みを浮かべ答える。

「こんな試合勝って当たり前じゃ。わしらが目指しちゅうは、世界じゃ」

「えっ?せ、世界?」

「そうじゃ世界制覇じゃ」

「せ、世界制覇?」

「そうじゃ、わしらが目指しちゅうんは海の向こうじゃ」

「・・・」

 たかしは、ピッチを見つめる熊田の顔をまじまじと見た。だが、その目はマジだった。

「は、はははっ、世界ですか・・、ははっ、さすが先輩、スケールが大きいな・・」

 さすがに、熊田の信奉者のたかしも、熊田の壮大な世界観にはちょっとついていけなかった。

「私たちはがんばったわ」

 その時、ピッチで喜び抱き合う選手たちの固まりの少し端では、柴が、めぐみとのり子を熱く見つめていた。

「ほんとがんばったわ」

 そして、三人は抱き合った。ツーバックから、怒涛の攻めを食らいそれを三人で防ぎ切ったその感慨は、三人にしか分からない。三人はひしと抱き合った。

「ぐはははっ、負けてやんの」

 そして一方、仲間と勝利を喜び終わった宮間は、さっそくうなだれる鹿山の選手たちの方に行き、ここぞとばかりに意地悪く鹿山の選手たちを指差し笑う。

「ははははははぁ」

 相変わらずスポーツマンシップの欠片もない。

「ググググっ」

 鹿山の選手たちは、悔しさで歯嚙みしながら、宮間をものすごい形相で睨みつける。が、宮間は容赦ない。

「負けてやんのぉ~。ざまあみろ。がはははっ」

 今までの恨みつらみをすべて吐き出すように、宮間は、鹿山の選手たちの目の前で、本当に嬉しそうに笑う。

「グググッ」

 しかし、試合に負けてしまえば、さすがの麦島姉妹もぐうの音も出ない。あの顔にこびりついた嫌味なニヤニヤ笑いも完全に消え、その端正な顔面は引きつっていた。

「がっ、はははははっ」

 その表情を見て宮間はさらに喜び、腹の底から思いっきり笑う。この辺は本当に根性が歪んでいる。

「宮間さんは相変わらずだな・・汗」

 その姿を遠目に野田が呆れる。

「ああ・・汗」

 仲田も、その隣りの志穂もそれにうなずく。

「やっぱり人格的にちょっと問題あるよな・・」

「ああ」

 付き合いの長い、宮間の側近たちも、さすがにその人格に疑問を感じた。

「べぇ~」

 その時、繭も、宮間の隣りに行き、麦島姉妹の前で両手の親指を頬に当て、手の平をヒラヒラさせて舌を出した。普段繭はこういうことをする人間ではないのだが、繭は麦島姉のラフプレーに本当に怒っていた。

「べぇ~」

 繭は、麦島姉妹にむかって思いっきり舌を出した。

「あいつ、なんだかんだ言って、宮間さんに似て来たな・・汗」

「ああ・・汗」

 野田が呟くと、仲田と志穂がうなずいた。


 試合終了の選手同士のあいさつが終わり、ベンチ前に選手たちが戻って来ると、金城の選手たちは、再び喜び合うべく、宮間を中心に円陣を組み、体を寄せ合い、体をゆっくりと沈めていく。

「勝ったぁ~」

 そして、勝利の雄たけびと共に、拳を突き上げ飛び跳ねた。

「やったぜぇ~」

 選手たちは一気に喜びを爆発させた。そして、あらためてみんな繭の頭を祝福を込めてみんなで叩く。今日の殊勲は、やっぱり、繭だった。

「お前はすごい、お前はすごい」

 野田たちは容赦なく、繭の頭を勢いよくぺしぺし叩く。

「わっ、わっ、やめてください。やめてください」

 しかし、輪の中心で、みんなに祝福の洗礼として頭を叩かれながらも繭は嬉しそうだった。

「やった。やったよ」

 たかしは、選手たちの喜び合う光景を見て一人涙目になっている。金城の勝てない、本当に勝てない歴史を骨身に染みて知っているだけに、この勝利は格別な感慨があった。

 今目の前の金城の選手たちは歴代の選手たちがどうしても成し遂げられなかった、金城町商店街女子サッカーチームの歴史を塗り替えたのだ。

「やったんだ。やったんだよ」

 たかしは熱い涙を流した。

「やったんだよ」

 この時ばかりは、普段おっとりしているたかしも熱くなった。

「やった・・、やった・・」

 そんなたかしの隣りでは、信子さんが自身のハンカチで、そんな一人熱くなるたかしの涙をやさしく拭いてあげていた。

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