表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
75/122

最後の攻防

 金城がツーバックになった丁度その時、鹿山のゴール前で不用意に金城はボールを奪われた。鹿山は大きく縦にボールを繋ぎ、目の前に広がる広大なスペースに向けてカウンターに入る。

 後ろには柴とめぐみしかいない。もういきなり四対二だった。その後ろからはさらに、鹿山の選手が続々と上がってくる。金城の選手は、前掛かりになり過ぎ、戻るに戻れない。

 縦に走る麦島妹にボールが出る。麦島妹の前には広大なスペースがある。めぐみが必死で追いかけるが、いかんせん、守るスペースが広過ぎ、見るべき相手が多過ぎた。当然、出足が遅れる。麦島妹は裏のスペースに入り、ぶっちぎった。

 慌てて、のり子が飛び出す。だが、遅い。麦島妹は絶好の角度からシュート態勢に入る。

「あああああっ」

 思わずベンチのたかし、信子さん、野田、仲田が絶叫に近い声で叫ぶ。

 そして、麦島妹は、シュートを放った。

「おおおっ」

 しかし、そのシュートはゴールの枠からギリギリ外れた。あまりにフリー過ぎて、逆に変に力が入りシュートの感覚が鈍った。そのおかげで、何とか金城は助かった。

「ううっ、クッソぅ」

 麦島妹が頭を抱え、悔しがる。今回のピンチは相手のミスに助けられ失点にはいたらなかった。

「ふう~」

 柴とめぐみが、ため息に似た安堵の息を漏らす。

「心臓に悪いわ」

 柴が言った。めぐみがそれに無言でうなずく。

「ふぅ~」

 ベンチメンバーも、全員一斉に大きなため息をつく。ピッチの選手たちも全員、安堵のため息をつく。全員、背中に冷や汗をかいていた

「誰だよ。ツーバックにしたの」

 交代させられて不満な野田が、わざと聞こえるように熊田の隣りで毒づく。

「リスクを侵さな点は取れん。おケツに入れずんば、オカマ掘れずじゃ」

 それに対し、熊田は一人呟くように言う。

「虎穴に入らずんば虎子を得ずだ」

 仲田がすかさずツッコむ。

 そして、この後、この攻防が何度も繰り返される。金城がほぼ全勢力で攻めては、鹿山がカウンター。もちろん、鹿山がボールを持つと、金城は一気に決定的な大ピンチになる。何度もゴールの枠を鹿山のシュートが掠める。

「心臓に悪過ぎる」

 誰もが、繰り返される決定的ピンチに、神経をすり減らしていた。鹿山がボールを持った瞬間に、金城はもう、絶体絶命な状況に自動的になってしまう。

 決定的な場面は鹿山のミスや、めぐみと柴の最後の踏ん張りとのり子の孤軍奮闘で何とか防いでいるといった状況だった。ほぼ運任せに近い。

「遂にロスタイム」

 たかしが腕時計を見ながら呟く。息つく暇もない攻守が激しく入れ替わる攻防戦に、いつの間にかあれよあれよという間に時間は経過していた。試合はロスタイムに入った。

 金城は全力で攻める。しかし、鹿山も守る。人数をかけ、リスクを冒して攻めるが、どうしても、金城は鹿山の鉄壁を崩すことが出来ない。

「もう時間がない」

 たかしがうめく。ロスタイムもあっという間に終盤に入っていた。そして、場面は、時間がないにもかかわらず、何度目かのピンチを何とかめぐみがクリアし、鹿山のコーナーキックになっていた。

「もうダメか」

 今回も勝てなかったか・・。たかしは半ばあきらめかけていた。もう時間はないし、しかも、勝つどころか状況は相手のコーナーキック。これが入ったら、もう確実に終わりだ。

 麦島姉がコーナーキックを蹴る。そのボールが、きれいな軌道で金城のゴール前に集った味方選手の頭に合っていく。

「わああっ」

 ベンチメンバー全員が叫び声を上げる。そして、ボールはゴール前の鹿山の選手の頭にドンピシャで合った。ボールは軌道を変え、金城のゴールに向かう。

「あああああっ」

 ベンチ前に立つ金城のメンバーは思わず声を出す。それは絶叫に近かった。シュートはゴールの枠を確実に捉えていた。

「おおっ」

 だが、それをのり子が、その巨体に似合わない素晴らしい反射神経で、懸命にはじいた。それを柴が慌てて、なんとかペナルティエリアの外へと掻き出す。

「ほっ」

 金城のベンチメンバーは一斉に息をつく。それは、ほぼ一点もののシュートだった。

「心臓に悪過ぎるだろ」

 野田が熊田に再び毒づく。

「大丈夫じゃ。まあ、見ちょれ」

 熊田は落ち着いて、ピッチを見続けている。その口元には余裕の笑みすら浮かんでいる。

「何?」

 野田は熊田の視線の先を見た。

 柴のクリアしたボールはそのまま左サイドに流れていった。そして、そのまま、サイドラインを割るかと誰もが思った。しかし――、

「!」

 そこに、誰か選手がいる。しかもそれは金城の選手だ。

「あっ」

 大黒だった。存在感がなく、今回も誰もがその存在に気付いていなかった。味方の選手ですらみんなその存在を忘れていた。鹿山の選手も当然誰も気付いていなかった。鹿山の選手は慌てて大黒にプレッシャーをかけに走る。しかし、時はすでに遅かった。

 大黒は、こぼれて来たボールを、ダイレクトで前線に思いっきり蹴りこんだ。ボールはまっすぐ地を這うようにして、ハーフウェーラインを越え、鹿山のディフェンスラインの裏にものすごい勢いで飛んでいく。

「!」

 そして、その軌道を目で追っていくと、その先に、ただ一人、いち早く大黒の存在を察した一人の選手が走りこんでいた。

「あっ」

 誰もが驚く。それは繭だった。

「繭ちゃん!」

 思わずたかしと信子さんが声を上げる。

 繭は完全に相手の裏をとった。相手ディフェンダーを完全に置き去りにしていた。繭は、出されたパスの先に向かって全力で走る。

 しかし、繭は足が遅かった。その後ろから、鹿山の選手が懸命に追いかけ迫ってくる。そして、ゴールからは相手ゴールキーパーが全速力で飛び出してくる。繭はその遅い足で、懸命に走った。

 大黒の地を這うように飛んでいくボールは、完全に相手ディフェンスラインの裏を取り、ゴールキーパーとディフェンスラインの間の絶妙なポイントに飛んでいた。繭はそこを目指し、懸命に走る。

 しかし、繭は懸命に走るが、後ろから相手選手たちが次々迫って来る。前からは相手ゴールキーパーも猛ダッシュで迫る。そして、終了時間も迫っていた。いつ笛がなってもおかしくない状況だった。

「繭ちゃ~ん」

「繭~」

 たかし信子さん、ベンチメンバーが祈りを込めてベンチから叫ぶ。

 大黒のパスは、やはり決して味方の動きを裏切らなかった。丁度ゴールキーパーと相手ディフェンダーが届かない絶妙なポイントにピンポイントで飛んできた。繭はそれに追いついた。

 背後から、もうすぐ後ろに相手選手が迫り、ゴールキーパーがすぐ前まで迫る中、繭はその大黒からのボールを、インサイドで軽く振れるようにして、相手ディフェンダーと、相手ゴールキーパーが取れない絶妙な場所にトラップした。そして、そのままシュートが打てるように右少し前に流した。その瞬間、背後から二人の相手ディフェンダーが追いつき、背後からシュートブロックにスライディングする。相手ゴールキーパーも全身を大きく広げ、繭に飛びかかる。

「おおおっ」

 ギリギリの展開にベンチメンバーが叫ぶ。しかし、それよりも、一瞬早く繭は、その右足を巻き気味に振り抜いた。

 ボールは飛び出した相手ゴールキーパーの左肩を霞めるようにして、飛んでいった。

「おおおっ」

 みんながそのボールの軌道を目で追っていく。ボールはゆっくりと飛んで行き、そのままゴール中央に突き刺さった。

「やったぁ~」

 入った瞬間、ベンチから何から大騒ぎだった。選手たちは繭の下に走り出す。繭もゴール前に走りこんだ勢いのまま、Uターンして仲間のところに、喜びを爆発させて走っていく。それを金城の選手の一団が、包み込むように受け止める。もう、しっちゃかめっちゃかの大騒ぎだった。

 みんなが次々繭に飛びつき抱き合った。ベンチから、野田と仲田もほんとはいけないのだが、どさくさに紛れてピッチに入り込み、その集団の中に入り込みみんなと抱き合う。

「やった。やったぁ~」

「うをぉ~」

 選手たちはみんな我を忘れ叫び猛り狂った。

「はっ」

 その混乱と狂乱の中、気付くと、繭は宮間と抱き合っていた。

「・・・」

 二人は体を離し、お互い、しばし見つめ合う。しかし、もう喜びと興奮で、いさかいなどどうでも良くなっていた。

「やったぁ~」

 二人は再び抱き合った。そして、二人は選手たちの喜びの輪に飲み込まれて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ