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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
73/122

繭爆発する

 何とか乱闘は収まり、再び試合は再開された。しかし、大乱闘の後で、双方の選手たちは異常に興奮している。試合は当然荒れてくる。当たりは強くなり、球際は厳しくなり、スライディングは深くなる。双方の選手は、ファールギリギリのところまで、相手を追い込んでいく。

「なんかすごい試合になってきた・・」

 たかしも心配になって来るほど、試合は肉弾戦の様相を呈してきた。

 しかし、金城の選手たちは、チームとしての一体感があった。共通する敵がはっきりすると、人間とは異常に団結するものらしい。さっきまでのケンカが嘘のように、チームは団結していた。

「あの宮間さんと麗子さんが協力している・・汗」

 野田と仲田が、二人を見て茫然とする。宮間が麗子をサポートし、麗子が宮間のスペースを開ける。小気味のいい連携がそこにはあった。

「共通の敵は、仲間意識を作るんだな・・」

「ああ・・」

 二人は今目の前にある現実の光景であるにもかかわらず、信じられない思いで見つめていた。

「奇跡だわ」

 信子さんもベンチ前で呟く。それは長年このチームでマネージャーを務めてきた信子さんでも、今まで見たことのない光景だった。

 しかし、状況は悪かった、もう後半も三十分を回り、残りロスタイムも入れて二十分もない。この時間帯で二点のビハインド。普通に考えて絶望的だった。

 しかも、相手は守りをさらに堅固に固めてきている。力の差があったとしても、なかなか難しい展開だった。

「このままじゃ終われない」  

 だが、金城にはこの絶体絶命の状況をひっくり返せる、隠れた核弾頭があった。

「絶対、許さない」

 繭は怒っていた。そして、怒りに燃え立つ繭はすごかった。若干十七歳で日本代表に呼ばれただけあって、もともと三部リーグレベルの選手ではなかった。

 繭は、密集した中央を離れ、右サイドに流れると、そこでボールを受け、そこからドリブルを始めた。繭はなぜかスペースのあるサイドの方ではなく、そのガッチガチに固めた鹿山のツーラインのディフェンスラインのど真ん中に突っ込んでいく。繭はそのままなんの迷いもなく、狭い方狭い方に向かってドリブルしていく。当然、相手はさらに密集して繭に襲いかかる。しかし、繭は足は遅かったが、その重心の低い、安定感のある小刻みなドリブルは、狭く、相手がいるほどその真価を発揮した。タイミングとボールタッチだけで、狭い相手ディフェンダーの密集したエリアを、繭はスルスルと抜けてゆく。相手も必死で足を出すのだが、繭の細かいタッチと独特のリズミカルなドリブルは、取れそうでなぜか取れない。繭はそのまま相手DFを引き連れ翻弄したまま、最終ラインまで行ってしまった。

 そして、繭に集まるセンターバック二人をあざ笑うかの如く、その二人の股を、連続して、たったツータッチでボールを通すと、抜き去った。

「!」

 相手センターバック二人は何が起こったのかすら分からない。

 そして、繭は足元に少し深く入り込み過ぎたボールを、しかし、バランスをまったく崩さず、しかもノーステップで右足を振り抜き、飛び出す相手キーパーの左肩上をぶち抜き、ゴールに叩き込んだ。

「やったったぜ~」

 繭は叫んだ。珍しく繭はものすごく興奮していた。それだけむかついていたのだろう。今まで沈黙していた繭に、ついに火が付いた。

「す、すごい・・」

 野田も思わず呟く。

「一人でやりやがった・・」

 仲田。

 見方の選手たちも、みな喜ぶのも忘れ驚愕していた。

「繭ちゃんすご~い」

 かおりが繭の下に駆け寄り繭を抱きしめる。それによって、はたと自分たちが一点取ったということに気付いた他の選手たちも繭の下に集まり祝福する。それほど、味方の選手たちも繭の圧巻プレーに茫然としていた。

「す、すごい」

 たかしもベンチ前でうめく。

「・・・」

 鹿山の選手たちなどは、言葉もなく立ち尽くしている。

 そして、燃える繭の勢いは止まらなかった。

 今度は左サイドからドリブルを始めると、今度はサイドを切り裂く。鹿山の選手たちも一度やられている相手だけに、かなり気合と人数をかけて繭に食らいつく。しかし、やはりボールが取れない。

 そして、あれよあれよという間にペナルティエリアの左サイドに出た繭は、さらに縦に行く。それを、今度は絶対にやらせないぞとむきになって、三人の鹿山の選手が必死で食らいつく。しかし、それを手玉に取り、繭はさらに縦に走る。と、見せかけて、突然鋭い切り返しをした。あまりに以外で鋭く深い切り返しだったため、ついていた相手選手三人はその切り返しについて行けず、同時に足を滑らせ、すっころんだ。

 そして、前の空いた繭は、間髪入れずゴールまでほとんど角度はなかったが、迷わずサイドステップでカーブをかけ気味に、鋭くシュートを放った。それはゴールキーパーの左手の下、左脇をぶち抜いた。そして、反対サイドのポストに当たり、ゴールの中に転がった。

「おおおぉっ」

 観客から歓声が上がる。

「やった、やったぁ」

 金城のベンチ前では、ベンチメンバーのかすみ、志穂、たかし、信子さんがお互い抱き合い飛び上がる。ついに追いついた。

「やったぜぇ~」

 繭は右の拳を突き上げる。

「やりやがった・・」

 野田が茫然と呟くように言う。

「やりやがった。あいつ」

 仲田も茫然と呟く。

「やりやがった」

 そして、我に返った二人は喜びを爆発させ、繭の下に走り出す。繭の下に金城の選手たちが集まりその体を抱きしめ、取り囲んだ。

「すげぇ、すげぇ」

「お前すげぇぞ」

 みんなが繭を祝福し、その頭と体を叩きまくる。

「うおおお~っ」

 しかし、最高潮に興奮している繭は、そんな選手たちの中心で、右手を突き上げ、一人雄たけびを上げていた。

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