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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
69/122

ハーフタイム

 ピーッ

 金城にとって、やっとといった感じでハーフタイムに入った。

「お前ら何やってんだよ」

 ベンチに集まる選手に、さっそく宮間が怒鳴り散らす。宮間は、にっくき麦島姉妹に何としても勝ちたかった。その熱い気持ちが絡まわりし、暴走していた。

「勝つ気あんのか」

「・・・」

 選手たちは黙っていたが、その間には不穏な空気が漂う。

「そういうあんたは何してたのよ」

 その空気を切り裂くように麗子が言い返した。

「なんだと」

「あんただってボール取られてカウンターされたじゃない」

「そんなの関係ねぇ」

「関係ないって、あんたどこまで自己中なの」

「ああ?お前がちゃんと守備に帰ってたら問題なかったんだよ」

「なんであたしなのよ。全然関係ないじゃない。私、右サイドにいたのよ」

 麗子は宮間がボール奪取された時、まったく関係ないはるか遠くにいた。

「いや、あれはお前のせいだ」

「だからなんでよ」

 あまりの無茶苦茶な話に、麗子の声も裏返る。

「まあまあ」

 そこにうまいこと信子さんが間に入り、宮間と麗子に水の入ったペットボトルを渡す。そこでいったん、二人は黙った。

「さあさあ、みんなも水分摂って」

 信子さんの言葉に選手たちも、いったん高ぶった感情を落ち着け、水を飲み始める。しかし、気性の荒い宮間はやはりそれでは収まらない。 

「繭、なんだお前のあの気の抜けたプレーは」

 その矛先は、たまたま近くにいた繭に向かった。

「お前が前線でキープしてたらこんなことにならなかったんだからな」

 宮間は、今度は繭に全責任を被せ始める。

「全部私のせいですか」

 ピッチ上での宮間の発言に対し腹に据えかね、興奮していた繭も今日は言い返す。

「全部お前のせいだ」

 しかし、宮間は言い切った。

「ひどい」

 さすがに繭も、目が赤く吊り上がった。

「私の部屋は畳無くなったんですよ」

 繭は叫んだ。

「え?」

 そこで畳の話?その場にいた選手全員が繭を見る。

「だからなんだよ。畳くらい」

「ひどい、畳くらいって・・」

 繭は怒りに震えた。

「私は毎晩板の上に寝ているんですよ。夜ももうろくろく寝れなくて、朝起きたらいつも体がバキバキで、もう、大変なんですよ」

「知るかそんなこと」

「ぐぐぐぐっ」

 宮間のその物言いに、繭は怒りで顔を真っ赤にした。

「落書きしたのだって宮間さんでしょ。あれ落とすの大変だったんですよ。顔だって真っ赤になって、どれだけみんなに笑われたか」

 繭は、宮間を指さし、声を震わせ、いつになく大声を上げ叫ぶ。

「全くいつまで言ってんだよ。しつこい奴だね」

 しかし、宮間はまったく自分が悪いとすら思っていない。

「ううううっ」

 宮間のその全く反省も謝罪もない態度に、繭の怒りは怒りを越え、ありとあらゆる憤懣の感情がうねり、逆巻き、そして、爆発した。

「私は、私は、もう、畳が寝不足でバキバキの、もう、もう、大変だったんだぞ」

 繭は興奮の極致に達し何かが切れた。言っていることがもう支離滅裂で文章になっていなかった。

「畳は私の青春だったんだぁ」

 そして、繭は叫んだ。

「ん?」

「?」

「?」

「?」

 その場にいた全員の頭に、はてなマークが浮かんだ。

「ま、まあ、言っていることは無茶苦茶だけど、気持ちは分かるな・・」

 野田が戸惑いながら言う。

「う、うん・・」

 隣りの志穂も戸惑い気味に頷く。

「子どもじゃねぇんだから、いつまでもすねてんじゃねぇよ」

 しかし、宮間は言い放った。

「わあぁ~」 

 そのセリフにとうとう繭はキレた。

「畳の恨みは恐ろしいんだぁ」

 繭は叫びながら宮間に飛びかかった。

「わたしがどんだけどんだけ、辛い思いをしたか・・」

 そして、繭は宮間の胸に飛びつくと、その小さな拳で猫パンチを宮間のその胸に打ちつける。

「わあああ~」

 繭の溜まりに溜まった思いが爆発した。

「あああああ」

 繭は叫ぶ。

「くそっ、うっとうしい。やめろ」

 宮間はしかし、繭の猫パンチなどまったくダメージを感じていない。

「こなくそぅ」

 そして、宮間は繭をガッシと掴むと、そのバカ力で小柄な繭を投げ飛ばした。

 吹っ飛ばされ繭は、ゴロゴロと地面を転がっていった。そして、転がっていった果てに、仰向けに止まった。

「繭ちゃん・・」

 微動だにしない繭に、かおりが、心配の声を漏らす。

「うっ、うっ、うっ」

 起き上がろうとすらしない繭は、そのまま顔を上に向けたまま泣き始めた。

「わあぁぁぁ~ん、もう殺せぇ。殺せぇ」

 そして、訳の分からないことを叫びながら、手足をじたばたさせ、駄々っ子のように激しく身をくねらせた。

「繭ちゃん・・」

 その姿に、かおりが困惑気味に呟く。

「宮間さんやり過ぎですよ」

 さすがに堪らず野田が宮間に言う。

「なんだと」

「そうよ。由香、あんたちょっとやり過ぎよ」

 柴も言う。

「そうですよ」

 仲田も続く。

「今回は宮間さんが悪い」

 野田。

「そうですよ。さすがにやり過ぎですよ」

 志穂も今日は言う。

 次々、宮間に選手たちが詰め寄る。ここにきてついに、選手たちの不満が爆発した。試合中の宮間の言動にみんな腹に据えかねていた。

「あわわわ」 

 突如始まった選手たちの言い争いに、監督のたかしは、泡を食ったように、おろおろする。

「宮間さんを中心にサッカーやってるわけじゃないですからね」

 静江も言う。

「そうですよ。宮間さんは、わがまま過ぎですよ」

 仲田が言う。

「そうですよ。少しは周りのことも考えてくださいよ」

 野田。

「うううっ、お前ら」

 普段、意見を言わない選手たちにまで、詰め寄られ宮間はうねった。

「お酒だって、みんな疲れてるのに自分がお酒飲みたいからって無理に誘うし」

 野田。

「そうそう、毎日毎日飲みに誘われる私たちのことも少しは考えて下さいよ」

 仲田が言う。

「疲れてる時に、無理に飲みに誘わないでくださいよ」

 普段おとなしい志穂も今日はいつになく言う。

「酒癖も悪いし」

 柴。

「うううっ、おまえら~」

 宮間に対する選手たちの日頃のうっぷんも爆発した。

「宮間さん、ちょっと無茶苦茶過ぎですよ。試合に勝ちたいのは分かりますけど」

 野田。

「顔に落書きはさすがにかわいそうですよ・・」

 かおりはおずおずとやさしく言う。

「そうですよ。顔に落書きまでして、さすがに繭がかわいそうですよ」

 仲田は強く言う。

「うううっ」

 宮間はうねる。

「あんたは、デリカシーが無さ過ぎるのよ」

 そこにさらに麗子が参戦した。

「麗子てめぇ」

 麗子が参戦すると宮間は目を吊り上げた。

「あやまりなさいよ」

「そうですよ。今回はさすがに宮間さんが悪いですよ」

 今回は野田たちも麗子の側に立つ。

「うるせぇ」

 ほぼ宮間以外全員敵、宮間はまさに四面楚歌状態だった。しかし、ほぼ選手全員に責められながら、宮間は怯まない。

「うるせぇ、そんなに言うなら、全員かかって来い。コラッ」

 しかも、全員と戦おうとする。

「由香・・」

 さすがに柴は呆れる。

「お前ら上等だ、全員やってやる」

 宮間が叫ぶ。宮間は戦う気満々だ。

「戦闘民族サイヤ人か・・」

 宮間の剣幕に野田が呟く。

「全員叩きのめしてやる」

 しかも勝つ気も満々でいる。

「・・・」

 その凄まじいまでの戦闘姿勢に、大人数の他の選手たちの方がたじろいだ。

「そっちがこねぇなら、こっちから行ってやる。おらぁ~」

「えっ?」

 宮間はそう叫ぶやいなや選手たちの中に走っていくと、体を横向きにして、ダイビングボディアタックで、選手たちの固まりに向かって突っ込んだ。

「わぁああ~」

 一番前にいた野田と仲田、志穂の三人の選手たちは、横になってダイブしてくる宮間を抱える格好になり、そのまま後ろにもんどりうって倒れた。「わあああ」

 その勢いで次々ドミノ倒しのように後ろの選手たちも倒れてゆく。

「うううっ」

 前の選手の後頭部がもろに顔面に当たり、後ろの選手たちは顔を抑えてうずくまる。後ろで様子を見守っていた、大人しい、めぐみやかおりにまで被害が及ぶ。

「うらぁあああ」

 さらに間髪入れず倒れる選手たちに、宮間はその上からフライングボディアタックをかまし、全身を使って突っ込む。

「わあああ」

 それをくらった選手たちは、折り重なるように地面に倒れこむ。もう無茶苦茶だった。

「もう、あったまきた」

 さすがに、チームで一番沈着冷静で理性的なキャプテンの柴もキレた。

「もう許さない」

 柴は宮間に飛びかかった。

「今日はもう、絶対許さない」

 そして、他の選手たちも次々、立ち上がった者から宮間に飛びかかっていく。

 そして、選手全員入り乱れての大乱闘が始まった。

「わわわっ、どうしようどうしよう」

 たかしは、信子さんを見てはおろおろするばかりだった。

「きゃ~、きゃ~」

 乱闘は、しかし、なぜか大人しく見守っていた、心やさしいかおりとめぐみが、ことの流れとポジションの悪さで、最前線に立つ格好になり、前は宮間、後ろからは、他の選手と、もみくちゃにされていた。

「た、たすけて~」

 かおりとめぐみの悲痛な叫びが木霊する。

「き、君たちケンカしている場合じゃ・・」

 監督のたかしは乱闘の周囲でただおろおろするばかりで、全く頼りにならない。

「先輩止めなくちゃ、先輩」

 たかしが熊田を見る。しかし・・。

「うんうん、そうじゃ、そうじゃ、殴り合え、どつき合え、どつき合いまくれ。どつき合うくらいでなきゃ、サッカー選手やない。どついてどついてどつきまくれ」

 しかし、熊田は、まったくとんちんかんなことを言って、一人うなずき納得している。

「せ、先輩・・」

 乱闘は静まるどころかさらに勢いを増していく。

「わあああ」

「きゃ~」

「うおりゃああ」

 選手たちは掴み合い、もみ合い、引っ搔き合い、叫び合う。

「うおお、おおりゃあ~」

 全員を敵に回し、たった一人味方の誰もいない宮間だったが、その戦いぶりは凄まじく、人間とは思えない暴れぶりは正に鬼神のごとくだった。

「す、すごい・・」

 戦う野田たちも、呆れるほどだった。

「この力を試合で出せればねぇ・・」

 信子さんはその姿を見て、呆れながら呟いた。


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