ハーフタイム
ピーッ
金城にとって、やっとといった感じでハーフタイムに入った。
「お前ら何やってんだよ」
ベンチに集まる選手に、さっそく宮間が怒鳴り散らす。宮間は、にっくき麦島姉妹に何としても勝ちたかった。その熱い気持ちが絡まわりし、暴走していた。
「勝つ気あんのか」
「・・・」
選手たちは黙っていたが、その間には不穏な空気が漂う。
「そういうあんたは何してたのよ」
その空気を切り裂くように麗子が言い返した。
「なんだと」
「あんただってボール取られてカウンターされたじゃない」
「そんなの関係ねぇ」
「関係ないって、あんたどこまで自己中なの」
「ああ?お前がちゃんと守備に帰ってたら問題なかったんだよ」
「なんであたしなのよ。全然関係ないじゃない。私、右サイドにいたのよ」
麗子は宮間がボール奪取された時、まったく関係ないはるか遠くにいた。
「いや、あれはお前のせいだ」
「だからなんでよ」
あまりの無茶苦茶な話に、麗子の声も裏返る。
「まあまあ」
そこにうまいこと信子さんが間に入り、宮間と麗子に水の入ったペットボトルを渡す。そこでいったん、二人は黙った。
「さあさあ、みんなも水分摂って」
信子さんの言葉に選手たちも、いったん高ぶった感情を落ち着け、水を飲み始める。しかし、気性の荒い宮間はやはりそれでは収まらない。
「繭、なんだお前のあの気の抜けたプレーは」
その矛先は、たまたま近くにいた繭に向かった。
「お前が前線でキープしてたらこんなことにならなかったんだからな」
宮間は、今度は繭に全責任を被せ始める。
「全部私のせいですか」
ピッチ上での宮間の発言に対し腹に据えかね、興奮していた繭も今日は言い返す。
「全部お前のせいだ」
しかし、宮間は言い切った。
「ひどい」
さすがに繭も、目が赤く吊り上がった。
「私の部屋は畳無くなったんですよ」
繭は叫んだ。
「え?」
そこで畳の話?その場にいた選手全員が繭を見る。
「だからなんだよ。畳くらい」
「ひどい、畳くらいって・・」
繭は怒りに震えた。
「私は毎晩板の上に寝ているんですよ。夜ももうろくろく寝れなくて、朝起きたらいつも体がバキバキで、もう、大変なんですよ」
「知るかそんなこと」
「ぐぐぐぐっ」
宮間のその物言いに、繭は怒りで顔を真っ赤にした。
「落書きしたのだって宮間さんでしょ。あれ落とすの大変だったんですよ。顔だって真っ赤になって、どれだけみんなに笑われたか」
繭は、宮間を指さし、声を震わせ、いつになく大声を上げ叫ぶ。
「全くいつまで言ってんだよ。しつこい奴だね」
しかし、宮間はまったく自分が悪いとすら思っていない。
「ううううっ」
宮間のその全く反省も謝罪もない態度に、繭の怒りは怒りを越え、ありとあらゆる憤懣の感情がうねり、逆巻き、そして、爆発した。
「私は、私は、もう、畳が寝不足でバキバキの、もう、もう、大変だったんだぞ」
繭は興奮の極致に達し何かが切れた。言っていることがもう支離滅裂で文章になっていなかった。
「畳は私の青春だったんだぁ」
そして、繭は叫んだ。
「ん?」
「?」
「?」
「?」
その場にいた全員の頭に、はてなマークが浮かんだ。
「ま、まあ、言っていることは無茶苦茶だけど、気持ちは分かるな・・」
野田が戸惑いながら言う。
「う、うん・・」
隣りの志穂も戸惑い気味に頷く。
「子どもじゃねぇんだから、いつまでもすねてんじゃねぇよ」
しかし、宮間は言い放った。
「わあぁ~」
そのセリフにとうとう繭はキレた。
「畳の恨みは恐ろしいんだぁ」
繭は叫びながら宮間に飛びかかった。
「わたしがどんだけどんだけ、辛い思いをしたか・・」
そして、繭は宮間の胸に飛びつくと、その小さな拳で猫パンチを宮間のその胸に打ちつける。
「わあああ~」
繭の溜まりに溜まった思いが爆発した。
「あああああ」
繭は叫ぶ。
「くそっ、うっとうしい。やめろ」
宮間はしかし、繭の猫パンチなどまったくダメージを感じていない。
「こなくそぅ」
そして、宮間は繭をガッシと掴むと、そのバカ力で小柄な繭を投げ飛ばした。
吹っ飛ばされ繭は、ゴロゴロと地面を転がっていった。そして、転がっていった果てに、仰向けに止まった。
「繭ちゃん・・」
微動だにしない繭に、かおりが、心配の声を漏らす。
「うっ、うっ、うっ」
起き上がろうとすらしない繭は、そのまま顔を上に向けたまま泣き始めた。
「わあぁぁぁ~ん、もう殺せぇ。殺せぇ」
そして、訳の分からないことを叫びながら、手足をじたばたさせ、駄々っ子のように激しく身をくねらせた。
「繭ちゃん・・」
その姿に、かおりが困惑気味に呟く。
「宮間さんやり過ぎですよ」
さすがに堪らず野田が宮間に言う。
「なんだと」
「そうよ。由香、あんたちょっとやり過ぎよ」
柴も言う。
「そうですよ」
仲田も続く。
「今回は宮間さんが悪い」
野田。
「そうですよ。さすがにやり過ぎですよ」
志穂も今日は言う。
次々、宮間に選手たちが詰め寄る。ここにきてついに、選手たちの不満が爆発した。試合中の宮間の言動にみんな腹に据えかねていた。
「あわわわ」
突如始まった選手たちの言い争いに、監督のたかしは、泡を食ったように、おろおろする。
「宮間さんを中心にサッカーやってるわけじゃないですからね」
静江も言う。
「そうですよ。宮間さんは、わがまま過ぎですよ」
仲田が言う。
「そうですよ。少しは周りのことも考えてくださいよ」
野田。
「うううっ、お前ら」
普段、意見を言わない選手たちにまで、詰め寄られ宮間はうねった。
「お酒だって、みんな疲れてるのに自分がお酒飲みたいからって無理に誘うし」
野田。
「そうそう、毎日毎日飲みに誘われる私たちのことも少しは考えて下さいよ」
仲田が言う。
「疲れてる時に、無理に飲みに誘わないでくださいよ」
普段おとなしい志穂も今日はいつになく言う。
「酒癖も悪いし」
柴。
「うううっ、おまえら~」
宮間に対する選手たちの日頃のうっぷんも爆発した。
「宮間さん、ちょっと無茶苦茶過ぎですよ。試合に勝ちたいのは分かりますけど」
野田。
「顔に落書きはさすがにかわいそうですよ・・」
かおりはおずおずとやさしく言う。
「そうですよ。顔に落書きまでして、さすがに繭がかわいそうですよ」
仲田は強く言う。
「うううっ」
宮間はうねる。
「あんたは、デリカシーが無さ過ぎるのよ」
そこにさらに麗子が参戦した。
「麗子てめぇ」
麗子が参戦すると宮間は目を吊り上げた。
「あやまりなさいよ」
「そうですよ。今回はさすがに宮間さんが悪いですよ」
今回は野田たちも麗子の側に立つ。
「うるせぇ」
ほぼ宮間以外全員敵、宮間はまさに四面楚歌状態だった。しかし、ほぼ選手全員に責められながら、宮間は怯まない。
「うるせぇ、そんなに言うなら、全員かかって来い。コラッ」
しかも、全員と戦おうとする。
「由香・・」
さすがに柴は呆れる。
「お前ら上等だ、全員やってやる」
宮間が叫ぶ。宮間は戦う気満々だ。
「戦闘民族サイヤ人か・・」
宮間の剣幕に野田が呟く。
「全員叩きのめしてやる」
しかも勝つ気も満々でいる。
「・・・」
その凄まじいまでの戦闘姿勢に、大人数の他の選手たちの方がたじろいだ。
「そっちがこねぇなら、こっちから行ってやる。おらぁ~」
「えっ?」
宮間はそう叫ぶやいなや選手たちの中に走っていくと、体を横向きにして、ダイビングボディアタックで、選手たちの固まりに向かって突っ込んだ。
「わぁああ~」
一番前にいた野田と仲田、志穂の三人の選手たちは、横になってダイブしてくる宮間を抱える格好になり、そのまま後ろにもんどりうって倒れた。「わあああ」
その勢いで次々ドミノ倒しのように後ろの選手たちも倒れてゆく。
「うううっ」
前の選手の後頭部がもろに顔面に当たり、後ろの選手たちは顔を抑えてうずくまる。後ろで様子を見守っていた、大人しい、めぐみやかおりにまで被害が及ぶ。
「うらぁあああ」
さらに間髪入れず倒れる選手たちに、宮間はその上からフライングボディアタックをかまし、全身を使って突っ込む。
「わあああ」
それをくらった選手たちは、折り重なるように地面に倒れこむ。もう無茶苦茶だった。
「もう、あったまきた」
さすがに、チームで一番沈着冷静で理性的なキャプテンの柴もキレた。
「もう許さない」
柴は宮間に飛びかかった。
「今日はもう、絶対許さない」
そして、他の選手たちも次々、立ち上がった者から宮間に飛びかかっていく。
そして、選手全員入り乱れての大乱闘が始まった。
「わわわっ、どうしようどうしよう」
たかしは、信子さんを見てはおろおろするばかりだった。
「きゃ~、きゃ~」
乱闘は、しかし、なぜか大人しく見守っていた、心やさしいかおりとめぐみが、ことの流れとポジションの悪さで、最前線に立つ格好になり、前は宮間、後ろからは、他の選手と、もみくちゃにされていた。
「た、たすけて~」
かおりとめぐみの悲痛な叫びが木霊する。
「き、君たちケンカしている場合じゃ・・」
監督のたかしは乱闘の周囲でただおろおろするばかりで、全く頼りにならない。
「先輩止めなくちゃ、先輩」
たかしが熊田を見る。しかし・・。
「うんうん、そうじゃ、そうじゃ、殴り合え、どつき合え、どつき合いまくれ。どつき合うくらいでなきゃ、サッカー選手やない。どついてどついてどつきまくれ」
しかし、熊田は、まったくとんちんかんなことを言って、一人うなずき納得している。
「せ、先輩・・」
乱闘は静まるどころかさらに勢いを増していく。
「わあああ」
「きゃ~」
「うおりゃああ」
選手たちは掴み合い、もみ合い、引っ搔き合い、叫び合う。
「うおお、おおりゃあ~」
全員を敵に回し、たった一人味方の誰もいない宮間だったが、その戦いぶりは凄まじく、人間とは思えない暴れぶりは正に鬼神のごとくだった。
「す、すごい・・」
戦う野田たちも、呆れるほどだった。
「この力を試合で出せればねぇ・・」
信子さんはその姿を見て、呆れながら呟いた。




