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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
68/122

開始早々

「うおおおっ、今日はぜってぇ勝つ」

 試合開始のホイッスルを待つ宮間の気合は最高潮に達していた。

「あっ」

 しかし、宮間の気合と裏腹に、金城は開始早々いきなり失点してしまった。

 麦島姉妹がキックオフすると、鹿山はボールを一回下げ、その後、最終ラインからすぐにロングでいきなりゴール前に蹴りこんできた。それがなぜかディフェンスとディフェンスの間にぽっかりと空いていた隙間に走りこんだ麦島姉にかんたんに合ってしまい、いともあっさりと金城は失点してしまった。

「・・・」

 気合いの入りまくっていた宮間だったが、一度もボールを触ることすらなく、頭上を超えていくボールをただ見送っただけで、チームは失点していた。

「お前ら弱過ぎ」

 ゴールを決め、意気揚々と自陣に帰る途中、立ち尽くす宮間の隣りを通り過ぎざま、麦島姉妹がニヤニヤと笑いながら言い放った。

「ぐぐぐっ」

 怒りに震える宮間の顔は、これ以上真っ赤になりようがないほど真っ赤になっていた。

「失点すんなっつってんだろ」

 怒りの持っていき場のない宮間は、ディフェンス陣に向かって怒鳴り散らした。

「そう言ったって・・」

 柴もいきなりの失点にショックが隠せない。ディフェンス陣はみな茫然としている。いくら金城が連敗続きだった弱小チームでも、普段なら絶対に入らないような形での失点だった。

「呪い・・」

 茫然とする野田が思わず呟いていた。

「いきなり失点・・」

 ベンチ前でも、たかしと信子さんがあまりに早い失点に愕然としていた。

「やっぱり・・」

 二人の頭にも、呪いの言葉が浮かんだ。

 このいきなりの失点のダメージは大きかった。ただでさえ一度も勝っていない相手。やはり今日も勝てないのかと、誰しもの頭にそんな不吉な考えがよぎった。ベンチメンバー、そしてその前に立つたかしと信子さん、そして、ピッチ上の選手たちに何とも言えない不穏な空気が漂った。

 その後、試合が再開しても、金城はどこかちぐはぐで、うまくボールが回せない。選手たちの連携もうまくかみ合わず、動きも鈍かった。鹿山はそこを突いて、攻勢をかける。金城は、気付くと防戦一方になっていた。

「何やってんだよ。もっとプレスかけろ」

 宮間が味方に叫びまくる。しかし、金城の選手たちは相手選手に一生懸命プレッシャーをかけるのだが、なぜかどうもうまくプレスがはまらず、守備がズレていく。しかも、やっとボールを奪い、前に繋げても、前線でボールキープできず、すぐに鹿山に攻勢をかけられてしまう。その繰り返しがさらに金城を疲弊させた。

「繭、何やってんだよ」

 宮間が繭に怒鳴る。

「前でボールキープしろよ」

 繭は、やはり完全に意気消沈したままだった。試合が始まってもまったく身が入っておらず、動きも鈍く試合中ミスをしてばかりだった。前線でコンビを組むかおりはポストプレーもできたが、サポートなしでは、さすがに限界があった。

「ぐぐぐっ、繭~」

 宮間の怒りはさらにつのる。

 しかし、宮間が怒っても当然試合の流れが好転するわけはない。むしろ逆に、状況はさらに悪くなっていった。

 悪循環が悪循環をつくり、ちぐはぐさがちぐはぐさを作っていき、鹿山に攻勢をかけられる金城はまったく自分たちのペースに持っていけない。

「繭、繭、繭」

 前線でまったくキープできない繭を宮間は怒鳴りまくる。しかし、怒鳴れば怒鳴るほど繭の動きはさらに鈍くなっていく。

「お前、代表呼ばれたからって調子こいてんじゃねぇぞ」

 宮間はついに、試合と関係ないことまで言い出した。 

「調子なんかこいてませんよ」

 繭も、たまりかねてついにキレた。

「プレーに出てんだよ。あたしは代表選手ですよって」

「ひどい。そんなこと思ってませんよ」

「思ってんだよ。お前は」

 宮間は容赦なく繭を罵倒する。

「まあまあ」

 堪らずかおりが間に入る。が、ピッチ上での選手同士のけんかがさらに、空気を悪くする。それは自動的に鹿山を利するだけだった。

「ボールキープも出来ねぇのかよ」

 宮間は捨て台詞を吐いてその場を離れた。

「うううっ」

 しかし、宮間に対する繭の憤懣は頂点に達した。もともと、調子が出ないのは宮間のせいだった。

 そして、金城は再びピンチを迎える。何とか一人で状況を打開しようと無理くり前にボールを運ぼうとドリブルした宮間がボールを失うと、逆カウンターの形になり、金城は速攻を食らった。決定機を作られたが、しかし、これは相手のシュートミスに助けられる。

「ふぅー」

 全員が安堵のため息を漏らす。

「ちゃんと戻れよ。お前ら」

 しかし、原因を作った宮間が、今度はディフェンス陣をこき下ろす。

「あんたが無理にドリブルするからでしょ」

 いつもは大人の対応をする柴が言い返す。

「それに由香だって、いつも帰ってこないじゃない」

 宮間は、ボランチというポジションを忘れ、攻撃に夢中で前線まで行ってしまい、守備に帰ってこないことがしばしばで、それが原因での失点も数えきれないほどあった。宮間はそういった数々の前科があった。ちなみに昨年のチーム得点王は、FWを差し置いてチーム唯一、二桁得点をしたボランチの宮間だった。 

「うううっ」

 宮間は言葉に詰まる。柴の言葉は正に正論だった。

「うるせぇ、お前らがちゃんと守ればそれでいいんだよ」

 宮間はそれでもむりくり言い返し、自分のポジションに帰って行った。しかし、この態度にディフェンス陣は、一様に怒りの表情を浮かべた。宮間の取り巻きの野田や仲田までが、表情を硬くした。

「麗子、お前動けよ」

 そして、試合が再開した後、宮間は今度は麗子に怒鳴り始める。

「動いてますわよ」

 麗子はやはり言い返す。

「お前守備さぼってんじゃねぇぞ」

「さぼってなんかいませんわ」

 二人のケンカはいつものことだったが、状況が悪い中ではさらにチームの雰囲気を悪くした。

「あちゃあ」

 野田も頭を抱えた。

 二人はもう掴み合いになりそうになっている。それを他の選手が止めに入るのだが、ピッチ上の雰囲気は、もはや最悪の状態になっていた。選手同士で不穏な空気が漂い、宮間を中心に仲間割れが起こり始めていた。金城はもう、サッカーどころではなくなっていた。

 その姿をおもしろそうに麦島姉妹が、またニヤニヤと見つめる。それがまたさらに宮間を興奮させる。

「大体な、お前らもっと走れよ」

 それでも宮間がさらに味方選手に当たり散らす。それがさらに一点ビハインドで焦るチームの雰囲気を悪くしていく。他の選手たちも宮間に対して、感情が高ぶって来ていた。

 空気が加速度的にどんどん悪くなり、それをさらに宮間がかき回す。ピッチ内では、敵と戦う以前に味方同士で一触即発の状態になっていた。

「あわわ、どうしよう」

 監督である肝心のたかしが、そんな状況におろおろして信子さんを見る。

「・・・」

 マネージャーの信子さんもそう言われてもどうしようもない。 

「あっ」

 悪い流れの時は、全てが悪い方向に流れていく。そんな最悪の状態の中、金城は再び失点してしまった。 

 普段なら絶対入らないような、ペナルティエリアのかなり外からの鹿山の苦し紛れの超ロングシュートが、スライディングでシュートブロックに入った静江の足に当たって、ふわりと浮くと、それが前に飛び出そうとしたのり子の逆を突いた形で、頭上を越え、ループシュートのようにしてそのまま入ってしまった。

「・・・」

 金城の選手たちは全員茫然と、ボールの転がる自陣のゴールを見つめた。

「・・・」

 ベンチ前のたかしと信子さんも、目を点にして立ち尽くしていた。

「前半で二点差・・」

 前半のまだ三十分すら経っていない時間に二失点。やはり呪いなのか・・。誰しもの頭にその言葉がよぎった。

「クッソ、何やってんだよ」

 怒り心頭の宮間が静江を罵倒する。しかし、静江は何も悪くない。必死でブロックに入った足にたまたま相手にとっていい形で当たってしまっただけだった。むしろ、よく足に当てた方だった。

「お前のオウンゴールだからな」

 しかし、宮間はまだ倒れたままの静江に容赦なく言い放つ。

「・・・」

 これには普段冷静沈着な静江もカチンときた。

 二失点し、ただでさえ最悪の空気が、暴走する宮間によって、どんどん悪くなっていく。宮間に対する選手たちの憤懣が、頂点に達しようとしていた。チームの状態は正に最悪だった。

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