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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
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麦島姉妹

「繭ちゃん、大丈夫・・」

 起きて来た繭にかおりが思わず声をかける。

「う、うん・・」

 繭は目の下にはありありとどす黒いクマが出来ていた。

「最近熟睡出来なくて」

「畳ないもんね・・」

「うん・・」

 その返事すらに覇気がない。

「体もバッキバキなんだ」

 繭は首をゴキゴキと動かしながら力なく答える。

 繭は畳を失った日から日に日にやつれていた。布団があるにせよ床にじかに寝ているせいで熟睡できず、そこへ熊田の地獄の猛練習が追い打ちをかけ、そして、更に夜は夜で宮間に毎晩深夜過ぎまで飲みに連れまわされていた。さすがに若い繭でも、ヘロヘロだった。

「じゃあ、行ってきます・・」

「う、うん・・・」

 かおりはその力ない繭の背中を心配気に見送った。

「あれっ、繭は?」

 そこに野田が現れた。

「えっ、もう行っちゃいましたよ。大学」

 かおりが答える。

「何!」

「どうしたんですか」

「あいつ朝飯食ってないんだぞ」

「えっ!」

 かおりが慌てて食堂に入りテーブルを見ると、てんこ盛りの料理がホカホカと湯気を立てていた。その横で金さんがうれしそうにさらなる料理をテーブルに並べている。

「あいつ無しでどうするんだよこれ・・」

 かおりの横で野田が呟く。

「・・・」

 かおりはただ沈黙するしかなかった。


 よく晴れた日曜日、金城の面々は鹿山工業団地内の市民グラウンドに降り立った。この日、金城町商店街チームは隣りの県まで遠征に来ていた。この日は、さすがに遠いということで、たかしと信子さんが車を出し、寮のメンバーと足のない選手を乗せ、試合会場まで連れて来ていた。

「あっ、あのチームですか」

 かおりがすでにグラウンドに来ていた、見慣れぬユニホーム姿の選手たちを見つけた。

「そう、そう、あのむかつく、毎度おなじみの小豆色のユニホームだよ」

 野田が吐き捨てるように言った。

「あっ、双子」

 かおりが大きな声を出す。選手たちの一団の中に、小豆色のユニホームに袖を通したそっくりの顔が二つあった。身長から体型までまったくそっくりで、長い髪とやや短い髪と、髪型が違うので、かろうじて見分けることができた。

「あれが麦島姉妹だよ」

 仲田が言った。

「麦島姉妹?なんかきれいな人たちですね」

「双子で美人。だから結構有名なんだぜ。この辺じゃ」

 野田が言った。

「へぇ~」

「性格の悪さでもな」

 仲田が付け足すように言う。

「そうそう」

 野田がそれに同意すると、隣りで志穂も頷いた。

「性格の悪さ?」

「まっ、すぐ分かるわ」

 野田がそう言って、改めて麦島姉妹を見ると、麦島姉妹は、嫌味な笑いを浮かべながらこちらを見ていた。そして、他の選手たちを引き連れ金城の選手たちの方へ近づいて来た。

「デカいのとちっちゃいのが新しく入ったって聞いたけど?」

 野田たちの前に立つと、さっそく麦島姉妹の長い髪をポニーテールにした姉の方が、嫌味な笑いを浮かべ話しかけて来た。

「あっ、こいつらか」

 今度は隣りの髪の短い妹の方が、繭とかおりを指さし、やはりバカにしたように嫌味な笑いを浮かべながら言った。

「まっ、メンバー変わっても、結果は変わらないけどな」

 そこで、鹿山のチーム全員が嘲笑うように一斉に笑った。

「分かんねぇだろ」

 そこに突然、そんな笑い声を切り裂くような強烈な叫び声が響いた。

「あっ、宮間さん」

 野田が隣りを見て驚いた。いつの間にかそこへ宮間がやって来ていた。宮間は今回も、みんなと同行せず、どうやって来たのか、自分独自の方法で現場まで来ていた。

「やってみなきゃ分かんねぇだろ」

 宮間が二人に襲いかからんばかりに、ものすごい剣幕で言い返す。

「そう言っていつも負けてんだろ」

 しかし、姉は宮間の迫力にも全く動じる風もなく、そう言って笑った。

「そうそう」

 そして、妹ももうその顔にこびりついたかのような人をバカにしたようなニヤニヤ笑いで、心底おかしそうにうなずく。

「別にずっと負けてるわけじゃねぇだろ」

「い、いや、だから宮間さん・・、以前も言いましたが、ずっと負けてるんですよ。このチームには」

 それに対しては、野田が隣りから遠慮がちに言う。

 宮間が首を回し、鋭く野田を見る。

「なんでだよ」

「いや、だから・・、なんででしょうね・・?」

 野田もどう答えていいのか分からない。

「負けたことも忘れちまうようだから、いつまでたっても勝てねぇんだよ」

 姉が言うと、鹿山工業の選手たちが一斉に笑った。

「ぐぐぐっ」

 宮間は、二人の嫌味な笑いとその物言いに、今にも掴みかからんばかりに目を血走らせる。

「この野郎・・」

 宮間はもうぶちギレる寸前だった。

「宮間さん、抑えて抑えて」

 それを察し、野田と仲田と志穂が、宮間を囲み抑えにかかる。

「悔しかったら勝ってみな」

 そう言って、いきり立つ宮間を鼻であしらうようにして、鹿山の選手たちは自分たちのベンチの方へ去って行った。

「ぐぐぐっ」

 宮間の顔は今までにないくらい怒りで真っ赤になっていた。

「うううっ、試合に勝つ前にぶっ殺してやる」

「宮間さん・・」

 宮間は怒りに震え、物騒なことを呟く。

「ぶっ殺してやる」

 宮間は去って行く麦島姉妹の背中を指さし叫んだ。そして、その勢いで鹿山の選手たちの方に殴りこみに行こうとする。それを、野田たち三人とかおり、めぐみなどが必死で抑える。

「い、いや、まず試合に勝ちましょう・・、殺すのはその後で」

 必死で宮間を抑えるかおりが、やさしく宮間を諭す。

「いや、試合の後でも殺すのはダメだろ・・」

 野田は、宮間を抑えながらも冷静にツッコミを入れた。

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