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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
47/122

早く早く

 点を取り、また一気に金城の士気が上がった。しかし、まだ一点負けていることに変わりはない。いい流れの時に早く追いつきたい。金城は攻めを急いだ。

 しかし、相手もさるもので、金城がボールを失うといちいち大きくクリアして時間を稼ぎ、何とかこのまま前半を終わらそうとする。地味だがそれが金城を、苛立たせ、焦らせ、じわじわと苦しめていく。

 それでも早く追いつきたい金城はスローインも急いだ。繭はサイドラインを出たボールを持つと、すぐにスローインをしようと急いで振りかぶり助走をつけた。

「わっ」

 その瞬間、繭は足元に何か異変を感じ、思いっきり振りかぶり、そのまま投げようとしていた体とボールに急ブレーキをかけた。

「わわわっ」

 何とか間一髪ファールスローは避けた繭だったが、バランスを崩し倒れそうになった。それを何とか思いっきりつま先で踏ん張りこらえ、なんとか体勢を立て直す。

「ふぅ~」

 そして、繭は違和感を感じた足元を大きく腰を曲げ覗き込むように見た。

「・・・」

 そこには、一人のちっちゃな女の子がまっすぐ繭を見上げ、立っていた。

「・・・」

 繭は何事かと目をしばたたかせ、その女の子を見つめる。

「おねえちゃんだ」

 子どもは、しかしまったく無邪気に笑顔でそんな繭を指さしている。

 それはピッチ脇でゴザを敷いて観戦していた家族連れの子供だった。このレベルのサッカーの試合では、今回のようにピッチのすぐ脇で観客が観戦していることもあるため、選手と観客の距離がやたら近く、こういうことも度々起こる。

「がんばってね」

 女の子が繭に笑顔を向ける。繭は呆然としているが、しかし女の子は相変わらず無邪気だ。

「ははは・・」

 繭はどう反応していいのか困惑しながらも、観客を無下にもできず、それに笑顔で答える。 

「・・・な、なんかやりにくいな」

「繭、早くしろ」

 宮間が怒鳴った。

「は、はい」

 繭は顔を上げ、すぐ横の家族連れを気にしながら、スローインを投げた。

「・・・」

 その後、ピッチに戻った繭だったが、試合の緊張感と、ピッチ脇の牧歌的な雰囲気のギャップがなんともアンバランスで、なんとも不思議な違和感が残った。

 ピーッ、ピーッ

 その後、結局金城は追いつけないまま前半は終了した。

「さあ、これを食べて」

 ベンチに戻ってきた選手たちの前で、たかしがにこやかに巨大なタッパーを開けた。

「わあ、なんですかこれ」

 繭が中を覗き込む。

「レモンのはちみつ漬け。疲労回復に良いって本に書いてあってね。早速昨日作ってみたんだ」

「へぇ~、いただきます」

 繭が一つつまむ。

「あっ、おいしい」

「うん、おいしい」

 隣りのかおりも目を輝かせる。疲れた体に、レモンの酸味とはちみつの濃い甘さが堪らなく染み渡った。

「ほんとだこれおいしい」

 他の選手たちにも大好評だった。たかしはそんな選手たちが食べる姿を至極満足そうな笑顔で見つめた。

「よかったですね」

 信子さんが声をかける。

「うん、徹夜で作った甲斐があったよ」

 たかしはその後もマネージャーの信子さんと一緒に、選手たちに水や麦茶、スポーツドリンクなどを渡したり、氷嚢を作り選手の疲労や痛めている患部を冷やしたりと、なんやかやとかいがいしく選手たちのケアに動き回った。

「しかし、監督は完全にマネージャー化しとるな・・」

 野田がそんな姿を見つめて呟く。

「え、ええ・・」

 繭もなんだかそう思っていた。

「もともと、そんな感じだったけど、最近は更に加速しとるな」

 仲田も呟く。

「・・・」

 案外そっちの方が向いているのかもと、繭は思ってしまった。

 そして、試合は後半戦へ。

後半に入ると相手はワントップ以外全員ドン引きで、ガッチガチにディフェンスを固めてきた。こうなるといくら金城がボールを持てていても厄介だった。一度カウンターを食らっている金城は、カウンターも気にしなければならず、攻めに全てをかけるわけにもいかない。試合は自然と膠着状態になっていった。

「クソッ」

 宮間が思わず呟く。

 時間だけが虚しく過ぎていく。金城の選手たちは焦る。だが、焦れば焦るほど、攻めの形ができず、相手の術中にはまっていく。

「うううっ」

 ピッチ上の繭も何とも歯がゆさと焦りを感じていた。しかし、さすがに繭がテクニックがあるとはいえ、ここまで密集して人が多いと、どうすることもできなかった。

 金城の選手たちはなんとかこの状況を打開しようと、高さのあるかおりの頭に合わせようとも試みるのだが、やはり、かおりはまったく恐ろしいほどのトンチンカンな距離感で空振りをする。

「ダメだ」

 そのあまりのズレにクロスを上げた野田などは、顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちる始末だった。

 気付けば早くも後半の三十分に近づいていた。

「うううっ」

 繭が唸る。

 攻めの勢いは金城にあるのだが、ペースは相手が握ってしまっている。しかし、金城の攻めはそんな状況に対して打開策もなく、完全な頭打ちだった。

 その時、ベンチ前で熊田が志穂を呼び、横に置くと、ピッチの選手に指を差しながらそれを右に左に動かし始めた。

「あっ、先輩が何か手を打つんだ」

 たかしが、信子さんに興奮して言う。

「そうみたいですね」

「先輩にはこういう時の、何か奥の手があるんだ、きっと」

 たかしは期待に胸を膨らませ、信子さんに力強く言った。

「先輩なら何とかしてくれる。そういう人なんだ」

 たかしは目を輝かせた。 

 指を動かし続ける熊田が何か呟いている。

「・・・」

 そんな熊田を隣りの志穂が見上げる。

「どちらにしようかな・・」

「そんな決め方・・」

 熊田は、運を天に任せていた。熊田だけはこの状況下でも焦りなど微塵もなく、一人呑気だった。

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