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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
43/122

試合前

「確かに強そうですね」

 ユニホームに着替え終わり繭たちが試合会場のグラウンドに入ると、確かに屈強そうな面構えのメンバーがすでにグラウンドに広がりボールを蹴っていた。みんな表情は引き締まり、顔は日に焼けて真っ黒だった。

「練習しまくってるって感じだな」

 野田が少し緊張気味言った。

「ああ」

 仲田が答える。

「でも、練習量ならうちだって」

 繭が言う。

「あいつの無茶苦茶な練習なんて練習じゃねぇよ」

「ほんとほんと、疲れるだけ」

 その場にいた全員が頷いた。

「さっ、うちらも始めようぜ」

 宮間が掛け声を上げると、メンバーは銘々散らばりアップを始めた。

「あれっ、大黒さんがいない」

 ストレッチをしていた繭がふと気づいて辺りを見まわす。気付くと大黒の姿はまた忽然と消えていた。

「さっきまでいたのになぁ」 

 繭はピッチの中を見渡す。

「大丈夫、あいつはほっといてもそのうち出てくるから」

 野田が落ち着いた様子で言った。

「えっ」

「よく消えるんだよ。あいつは」

 仲田も落ち着いている。

「・・・」

「でも、また気付くといるから。大丈夫。気にするな」

「どんな存在なんですか・・」

 試合前からすでに消えているのか・・。繭は改めて大黒の存在に困惑した。

「あっ、そういえば麗子さんがまだですね」

 寮以外の選手も銘々グランドに現れ揃っていたが、麗子の姿だけが見えない。

 すると、一台の黒塗りの高級セダンがものすごいスピードでグラウンドのすぐ脇まで乗り入れて来て止まった。

「まさか・・」

 繭が呟くと同時に、その高級車の後部座席のドアが開いた。中から出てきたのは、そのまさかだった。

「あらっ、みなさん早いのね」

「お前が遅いんだ」

 宮間が突っ込む。

「輝くヒロインは遅れて現れるのよ」

 そう言って、麗子はその長い金色のきれいにカールさせた髪をさらりと右手で広げるように撫でた。

「お前、権蔵に似てきたな・・」

 宮間が呟く。宮間は熊田のことを権蔵と呼んでいた。

「まあ」

 その言葉に麗子はむくれた。

「一緒にしないでもらえますこと。私はあんな野蛮人ではありませんわ」

「ん?誰が野蛮人なんじゃ?」

 そこに当の熊田が麗子の後ろに現れた。

「きゃー」

 麗子は突然現れた熊田にびっくりして思わず叫んだ。

「何をさわいじゅうんじゃ」

 熊田は眉をしかめ、そんな麗子を見下ろす。

「い、いえ、なんでもありません・・」

 麗子は、急いでその場から離れて、公民館の方へ走り去った。

「なんじゃ。あいつは?」

 そんな麗子の後姿を熊田が首を傾げ見つめた。

「まったくあいつは、動きも鈍い、頭も鈍い。来るのも遅い。ほんとどうしようもねぇな」

 宮間も一人呟くようにその背中に毒づいた。


「今日も勝つぞ」

 熊田が怒鳴るように叫ぶ。

「わしらに負けはない」

 一人気合の入った熊田の言葉だったが、しかし、ベンチ前で円陣を組んだ金城のメンバーの表情に勝てる、という感じは微塵もなかった。選手たちは完全に負け慣れし、それが深いところまで染みついてしまっていた。

 ピッチに入り、試合前の選手同士整列して対面する場面でも、対戦相手のやる気みなぎる表情とは対照的に、明らかに金城町の方は負け組のオーラがほとばしっていた。

 そんな光景を、ベンチ前で仁王立ちした熊田が真剣な表情で見つめていた。

「試合は弱い方が負けるんやない」

「えっ」

 今日もベンチスタートの繭は、選手をピッチに送り出して、丁度ベンチに戻って来たところだった。

「ビビった方が負けるんじゃ」

 熊田は誰に言うともなく呟いた。

「・・・」

 そんな熊田を繭は黙って見上げた。


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