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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
42/122

移動

 電車はガタゴトと田舎の田園風景を走っていた。

「ところで今日の相手って、どんなチームなんですか」

 繭は隣りに立つ野田に訊いた。

「まっ、勝てねぇな」

「いきなり・・」

 いきなり野田は絶望的なことを言う。

「去年二部にいた降格組だぜ」

 仲田が言った。

「そうなんですか」

 繭たちが属する金城町商店街女子サッカー部は、三部の地域リーグに属していた。

「あれは強いな」

 仲田が言った。

「ああ、確実だな」

 野田が続く。

「知ってるんですか」

「一回だけ、皇后杯で当たったことがあるんだ」

 野田が言う。

「その時はどうだったんですか」

「まったく歯が立たず」

 野田はその太い眉を逆八の字に逆立て、力強くきっぱりと言った。

「まったく・・、ですか・・」

「ああ、まったくだったな」

「シュート打った記憶がないもんな」

 仲田が言った。

「そこまでですか・・」

「そうボコボコ。フルボッコだよ。サンドバックな」

「本当にワンサイドゲームでしたよね。自陣から一歩も出れずって感じで・・、あの試合は辛かった・・」

 志穂が心底辛そうな表情で言った。本当に辛かったのだろう。

「はは・・・」

 繭は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「降格してだいぶメンバーは入れ替わったって話だけどな」

 野田が言った。

「ああ、それでも強いんだろうな」

 仲田が言う。

「ああ、強いんだろうな」

 再び野田。

「強いんでしょうね」 

 志穂もため息交じりに続いた。

「これから対戦するというのに・・、なんか今日の試合怖くなってきたなぁ・・」

 繭は、不安に顔を曇らせた。繭は小中高と、割と強いチームに属していたので、弱小チームの感覚が分からなかった。


「ふぅ~、やっと着いた」

 寮から駅まで長い急な坂を下り、電車内では大量の部活移動の高校生とかぶり、まったく座れず、ずっと立ったまま一時間。そしてついた駅から、三十分田舎道を歩いてやっと目的の市民グラウンドに着いた。

「着くまでが一運動ですね」

「ああ」

 繭が額の汗を拭いながら言うと、全員が力なく同意した。試合前から体力的な勝負はもうすでに始まっていた。

「今日は早く着いたぁ。やっぱみんなと来てよかった」

 そんな中、かおり一人だけが、大きく伸びをし爽やかな満面の笑みを浮かべていた。

「・・・」

 そんなかおりを困惑気味に全員が見つめる。  

「それにしてものどかですね・・」

 繭が試合会場を見渡す。試合会場は、なぜか田舎の広大に広がる田園のど真ん中にポツンと立っているつぶれかけの市民球場だった。客席はなく、まばらにいる観客はみんなグラウンドのすぐ脇にゴザを敷き、銘々座っている。

「牧歌的ですね・・」

「まっ、こんなもんだ。女子サッカーは」

 野田がそっけなく言った。

「はあ・・」 

 そこだけ見ればただのピクニックだった。

「ああ」

 その時突然、仲田が叫んだ。それと共に全員が仲田の視線の先を追う。

「あっ、移動バスだ」

 繭が指を差して叫ぶ。グラウンド脇の駐車場を見ると、一台のマイクロバスが止まっていた。

「スポンサーがらみか」

 野田が言った。横に池井戸温泉と書いてある。対戦相手はその名もそのまま池井戸FCだった。

「移動バスだぜ」

 仲田が驚きを込め言った。

「すごい・・」

 志穂が呟く。

「うううっ、移動バス」

 繭が泣きそうな声を漏らす。

「うらやましがるんじゃないよ」

 野田がしかるように言った。

「でも、だって」

 繭はめっちゃうらやましかった。

「私たち移動だけで二時間以上ですよ」

「移動も試合の内だ」

「わっ」

 突然隣りから声がして、その方を見て全員がびっくりした。

「宮間さん・・、いつの間に・・」

 宮間がいつの間にか繭の隣りに立っていた。

「それが女子サッカーだ」

 宮間は腕を組み、悟った風に言う。

「ほんといつの間に・・、」

 繭は驚きで呆然としたまま、目を見開いてそんな宮間を見続けた。

「というかどうやってここまで来たんですか」

 繭が訊く。

「さっ、試合だ試合。着替えようぜ」

 それには答えず、宮間は一人更衣室兼控室として使われるグラウンド脇の町の公民館に向かって歩いて行った。

「・・・」

 全員がそんな宮間の背中を呆然と見つめる。

「疲れている様子もないし。ほんと、どうやって来たんだ・・」

 繭が呟く。そこは全くの謎だった。

「あれが宮間さんなんだ。ほんと突然やって来るんだ」

 仲田が言った。

「神出鬼没過ぎる・・」

 繭が呟いた。

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