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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
30/122

まだまだ続く地獄の練習

 熊田のあの無茶苦茶で過酷な練習は続いていた。繭は、大学の準備や引っ越しの準備で、ここ三日間、練習には出ていなかったが、その他のメンバーは、地獄の日々が続いていた。

「そういえばなんかみんなやつれたような・・」

 いつもの練習場に揃ったメンバーを見て、改めて繭は思った。

「あいつほんと頭おかしいぞ」

 野田が繭に向かって怒りを込めて言う。

「限度がないからな」

 仲田が言った。

「というか、常識がないですよね・・」

 志穂が呟く。

「なんか自分が何やってんのか分からなくなる時があるんだ」

 野田が心底げんなりとして言った。

「それって、やばいじゃないですか」

 繭が困惑気味に言う。

「この前練習の帰りに幻覚見そうになったよ」

 仲田が言った。

「最近食欲がなくて・・」

 志穂が続けて言った。

「それ、逆に弱ってるじゃないですか・・」

 みんな大丈夫なのか・・?繭は心配になった。他の選手も、頬がこけ、目の奥に疲労感を宿しているのがありありと見えた。

「お前ら学生だからいいけど、あたしら、仕事だからね。昼間。もう、ほんと大変だよ」

 野田が言った。

「そうそう、仕事どころじゃないよ。疲れ過ぎてさ」

 仲田が言う。

「仕事中、寝そうになったよ」

「ミスして上司にめっちゃ怒られるし、同僚の嫌味な女たちには笑われるし」

「私のラインなんか立ち仕事ですよ」

 志穂が、げんなりとした調子で言った。

「あっ、でも、宮間さんはなんか元気そうですね」

 ふと宮間に目がいき、繭が宮間を見ると、他の選手たちとは違い余裕の表情をしている。

「ん?ああ」

 野田がそれに答える。

「宮間さんも練習してたんですよね。みんなと」

「ああ」

「宮間さんの別名知ってるか」

 その時、突然横から仲田が言った。

「いえ・・?」

「鉄の女だよ」

「鉄・・」

「さんざん朝まで酒飲んで、練習とか出れる人なんだよ。一睡もせずに試合出れちゃう人なんだよ」

「全く寝てないのに持久ラン、トップだよ。このチームで」

 野田が怖い話でもするみたいに言った。

「そうなんですか・・」

「まともに付き合ったらマジ死ぬからな」

 仲田が言った。

「最初、知らなくてさ。うちらも。それでまともに付き合っちゃって、みんな三日で倒れたから」

 野田が言うと、隣りの仲田、志穂が同時にうなずく。

「志穂なんか、もう訳わかんなくなって、一人でうわ言みたいになんか呟いてたんもんな」

「あの時の記憶、ほんとないんですよね」

 志穂が、首を傾げ言った。

「・・・」

「それにあの人働いてないし」

 野田が言った。

「えっ、じゃあ、昼間何やってるんですか」

「謎だね」

「・・・」

 このチームは、やはり知れば知るほど恐ろしい。繭は思った。

 

「あああああぁ」

 野田がグラウンドにぶっ倒れながら呻いた。

「ぐおおおおっ」

 仲田もぶっ倒れながら呻く。

「うううっ」

 志穂もその隣りにぶっ倒れながら小さく呻いた。やはり、今日も見事なほどの、地獄の練習だった。

「まじで死ぬぞ」

 さすがの宮間も、熊田にキレる。

「大丈夫じゃ。死んだらちゃんと埋めたるきに」

「埋めるな」

 野田たち全員が一斉に突っ込むが、ボロボロの選手たちをしり目に、熊田は相も変わらずのほほんとしている。

「こんな練習してたら試合どころじゃねぇよな」

 野田が呟く。

「試合前にボロボロになっちゃいますよ」

 志穂が言う。

「ほんとだよ」

 仲田がそれに同意する。

「さてっ、」

 宮間がソックスを下げ、立ち上がる。

「帰るぞ」

 宮間が野田たちに言った。

「何ゆうちょる」

「は?」

「まだ折り返し地点じゃぞ。練習はこれからじゃ」

「何~!」

 選手たち全員の悲鳴にも似た叫び声がグラウンドに響き渡った。そのあまりの声に大きさに、隣りの公園で遊んでいた子供たちが一斉に何事かと振り向いた。

「あっ、めぐみちゃん」

 繭が叫ぶ。熊田の言葉を聞き、繭の隣りに立っていためぐみが気を失ってぶっ倒れた。

「めぐみちゃん、めぐみちゃん」

 繭が倒れためぐみの巨体を揺するが、口から泡を吹いて完全に白目を剥いていた。


「繭、繭」

 早紀が、机につっぷす繭を揺り動かす。

「もう講義終わったよ」

 他の学生たちは、もう講義室を出て行くところだった。

「う、うう~ん」

「どうしたの。最近、授業中寝てばっかり」

「う~ん、練習が、地獄の日々なんだよ」

「なんか文法がおかしくなってるよ。繭・・」

「うん」

 しかし、繭はそう言ってまた寝てしまった。

「疲れてるんだな」

 早紀はそんな繭を微笑みながら見つめた。


「こんな過酷な日々は高校以来だよ」

 大学の帰り道、繭はため息交じりに空を見上げながら早紀に言った。

「まだ、ちょっと前じゃん」

「うん、あの過酷な日々が終わったと思ったら、もっときつい日々が待っていたよ」

「そうなんだ。でも明日休みなんでしょ。だったら気分転換に明日、買い物行かない。まだ大学で使うものとか色々欲しいものあるんだ」

「ごめん、明日試合なんだ」

「あっ、そうか。日曜日は試合なんだ。大変だね」

「うん・・」

 いつもそうだった。友だちと遊びたい日はいつもサッカーの試合があった。

「だから私はサッカーやめたかったのに」

 繭は空に浮かぶ雲に向かって呻いた。

「あっ、そうだ。じゃあ、私、明日、応援に行くよ」

「えっ」

「繭の応援に行くわ。私」

 早紀は良いことを思いついたと、目を輝かして繭を見る。

「えっ、いや、いいよ」

「どうして?」

「えっ、なんだか悪いし・・」

 繭はあのチームを早紀に見られたくなかった。

「そんなことないよ。私、女子サッカーって見たことないもん。あっ、そうだ。友だちも連れて行こ」

「えっ、友だちも!」

 それは更に嫌だった。

「いや、サッカーなんてつまんないし、それに日に焼けちゃうよ」

「大丈夫だよ。日傘に日焼け止め塗っていくから」

 繭の真意など全く伝わらず、早紀は一人盛り上がっている。この辺り、早紀は天然であった。

「・・・」

 困った・・。内心繭は思った。

「絶対見られたくない・・、あのチームを・・」

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