新事実
「ところが違うんだな」
野田が得意げに言った。練習が始まる前、繭とかおりは、野田に、二人で話していた疑問を訊いていた。
「違う?」
繭が野田の顔を覗き込む。
「うちにはまだもう一人いるんだな」
「えっ、もう一人いるんですか!」
かおりと繭は二人同時に叫んだ。
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
かなり濃いキャラのメンバーに驚いていた二人は、ここにまだ更にもう一人いることに更に驚いた。
「今入院してるんだ」
「入院!」
二人はなぜ入院しているのかは、なんだか怖くて聞けなかった。
「どんな人なんですか」
「まあ、それは見たら分かる」
「・・・」
「あだ名が闘将なんだ」
「闘将・・・」
やっぱり、なんだかすごそうだった。
「女性ですよね・・?」
「当たり前だろ」
「それにもう一人いたんだよ。去年まで」
そこに、仲田がやって来た。
「もう一人いたんですか」
「そう、でも、辞めちゃった」
「そうそう」
「・・・」
なぜ辞めたのかも、二人はなんだか怖くて聞けなかった。
「そうだったんですか。でも、まだ一人交代枠足りませんよね」
かおりが訊いた。
「そこは創意と工夫だよ」
野田が胸を張って言った。
「創意と工夫?」
繭とかおりはお互い顔を見合わせた。
「あかねのママにユニホーム着せてベンチに座ってもらったこともあったな」
仲田がさらっと言った。
「えっ!」
繭とかおりは驚いて同時に叫んだ。
「もちろん試合には出てないですよね・・」
繭とかおりがおずおずと訊いた。しかし、そこで一瞬の沈黙が生まれた。
「出たんですか・・」
「ケガと退場が続いてな・・」
「・・・」
すごい、すご過ぎる。うすうす気づいてはいたが、二人の想像など、このチームは遥かに超えていた。
「ママ、思いっきりトゥーキックだったもんな」
「そうだったな。ははははっ」
しかし、野田と仲田は笑っている。
「・・・」
繭とかおりは笑うどころではなかった。
「信子さんは絶対嫌がるからな」
野田が言う。
「そうそう、運動音痴なんだよな。信子さん」
「目の前のボール空振りしてたもんな」
「うん」
「そういえば監督を女装して出すって案もあったな」
「そうそう。あれなかなか良い案だと思ったんだけどな」
「なんでダメになったんだっけ」
「なんでだったかな」
野田と仲田は首を傾げる。
「・・・」
なんだか話がすごい方向へ行く。そんなことは考えるまでもなくダメだろう。繭とかおりは思った。
「まあ、新人が入ったのだって三年振りくらいだからな」
野田が繭たちを見た。
「そうだったんですか」
「いつも、入ってもすぐ辞めてっちゃうんだよ」
「そうそう。三日とかな」
「その日のうちってのもあったな」
「気付くと、夜逃げしてんだよ」
「寮の荷物がなくなってるの。朝見ると」
「それでそのうち入ってこなくなったな」
「うん」
「何が気に入らないんだろうな」
「なあ」
二人は首を傾げる。
「・・・」
繭とかおりは茫然としたまま立ち尽くす。
「最近の若い奴は根性がないからな」
「・・・」
根性の問題なのだろうか・・。繭は思った。
「まあ、でもお前らが入ったから、交代枠がやっとうまったよ。ははははっ」
野田が豪快に笑う。
「笑い事じゃない気がするけど・・、それに次の試合はやっぱり足りないし・・」
繭は呟いた。
「まだ一人足りないけど、またあかねのママに頼むか」
野田と仲田はそう言ってまた豪快に笑った。
「・・・」
「・・・」
繭とかおりは言葉もなく立ち尽くしていた。




