テントの中から・・
「あのぉ~、さっきから気になってたんですけど、あれなんなんですか?」
繭は十杯目のご飯を食べ終わり、やっとごちそうさまを言って、椅子にもたれると食堂の片隅を見て言った。そこにはなぜかキャンプで使う小さなテントが立っている。
「私も気になってたんだけど・・・」
かおりも首をかしげる。
「うちらもさっきから気になってたんだよ」
かおりの隣りから、野田も顔を覗かせ首をかしげる。
「今日、食堂来たら、突然あったんだよ」
野田の隣りの仲田が答える。
「そうなんですか・・、なんなんでしょう」
繭が呟くように言う。そこにいる全員、首をかしげ、テントを見つめた。
と、その時、中から突然ガサゴソと音がし、テントが揺れた。
「わっ、なんかいるぞ」
野田が叫ぶと、全員がのけぞった。
更にテントは揺れる。そして、テントの入口のジッパーが少しづつ上から下に下ろされ始めた。
「わっ、なんか出てくる」
野田が叫んだ。
みんな一斉にそこに注視する。一番近くにいた、繭はたまらずかおりの袖を掴む。
「かおりちゃん」
「う、うん」
かおりも繭に身を寄せる。ジッパーは徐々に下へと下ろされていく。野田、仲田、志穂も身をくっつける、めぐみちゃんは一人、震えていた。
遂にジッパーは一番下まで下ろされた。
「・・・」
全員が息をのむ。
「おっ、とんかつじゃな」
聞いたことのある、声が食堂に響いた。
「ん?」
全員が訝しがる。
ジッパーの開いた隙間から顔を覗かせたのは、やはり、ぼさぼさ髪がさらにぼさぼさになった権田の顔だった。
「ぎゃーっ」
全員が叫んだ。
「何で、お前がいるんだよ」
野田がすかさず叫ぶ。
「ああ、ごんちゃんはしばらくここに泊ることになったんだよ」
すると、金さんが調理場から顔を覗かせた。
「ええっ、ここ女子寮ですよ」
野田たちが金さんの方を向いて口をそろえて言う。
「家がないって言うんだからしょうがないだろ。まあ、新しい部屋が決まるまでだからさぁ」
金さんはとりなすようにいう。
「でも、男ですよ。しかも変態ですよ。こいつ」
仲田が、必死で抗議する。
「そうだ。男とかどうとかいう以前の問題だ」
野田も叫ぶ。
「安心せい、わしは世界を股にかける男じゃ」
熊田が胸を張って言う。
「だから何だ」
「安心できるか」
野田と仲田がすぐに突っ込む。
「テントなら外に立てろ」
「そうだ。そのためのテントだろ」
「おおっ、そうじゃ、そうじゃ、しょんべん、しょんべん」
しかし、熊田はそんな野田たちが叫ぶ声などどこ吹く風で、テントから這い出ると、そのままさっさと一人、トイレへと行ってしまった。
「おおっ、うんこうんこ、うんこもでそうじゃ。調子がええのう。今日もわしは絶好調じゃ。がはははっ」
「・・・」
全員が、朝からうんこうんこと陽気に笑いながら、立ち去って行く熊田を茫然と見つめる。
「おいおい、あいつと同じ屋根の下に暮らすのかよ」
野田が仲田と志穂を見る。二人とも茫然としたまま固まっている。
「ぜってぇ、やだよ私」
我に返った仲田が叫ぶように言う
「私も・・」
その隣りで、志穂が不安そうな表情で呟いた。
「あっ」
その時、繭が突然立ち上がった。全員が繭を見る。
「遅刻だ!」
「あっ」
そこで全員が、叫んだ。
「私も遅刻しそう」
かおりも慌てて立ち上がる。
「うちらもやばい」
野田たち三人とめぐみちゃんも慌てて席を立った。野田たち三人とめぐみちゃんは同じ金城町の丘の上に立つ、電機メーカーの工場で働いていた。
「遅刻だ、遅刻だ。やばい、やばい」
食堂にいたメンバーは、あっという間に我先にと食堂から出て行った。
「あらあら、慌ただしいね」
調理場の暖簾から顔を覗かせていた金さんが、そんな背中を見送った。
「なんじゃなんじゃ。せわしないのぉ。飯はゆっくり食うもんじゃ」
メンバーたちと入れ替わるように、熊田がのそっと食堂に入って来た。
「あんたはちょっとのんびりし過ぎじゃないかね」
そんな熊田に金さんが言う。
「そうかのぉ」
しかし、熊田はそんな言葉には全く意にも介さず、食堂のテーブルの席の一つにドカッと腰を下ろすと、残っていた大皿の煮物の芋を手で掴みそのまま口に放り込んだ。
「うん、うまい」
「まったく、手で」
金さんが、調理場から出て来て顔をしかめる。
「子供じゃないんだから、ちゃんと箸を使いなさいな。箸を」
「がはははっ、わしゃ、そんなつまらんもんはいらん」
熊田はさらにニンジンをつまんで口に放り込んだ。
「つまるとかつまらないとかいう問題じゃないだろう。なんかずれてるねぇこの男は」
金さんは呆れるが、しかし、なぜかそんな権田をどこか憎めなかった。
「ビール飲むか」
気を取り直して、金さんが笑顔を向けた。
「おっ、ええな」
誰もいなくなった食堂で、また二人の酒盛りが始まった。




