表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
24/122

テントの中から・・

「あのぉ~、さっきから気になってたんですけど、あれなんなんですか?」

 繭は十杯目のご飯を食べ終わり、やっとごちそうさまを言って、椅子にもたれると食堂の片隅を見て言った。そこにはなぜかキャンプで使う小さなテントが立っている。

「私も気になってたんだけど・・・」

 かおりも首をかしげる。

「うちらもさっきから気になってたんだよ」

 かおりの隣りから、野田も顔を覗かせ首をかしげる。

「今日、食堂来たら、突然あったんだよ」

 野田の隣りの仲田が答える。

「そうなんですか・・、なんなんでしょう」

 繭が呟くように言う。そこにいる全員、首をかしげ、テントを見つめた。

と、その時、中から突然ガサゴソと音がし、テントが揺れた。

「わっ、なんかいるぞ」

 野田が叫ぶと、全員がのけぞった。

 更にテントは揺れる。そして、テントの入口のジッパーが少しづつ上から下に下ろされ始めた。

「わっ、なんか出てくる」

 野田が叫んだ。

みんな一斉にそこに注視する。一番近くにいた、繭はたまらずかおりの袖を掴む。

「かおりちゃん」

「う、うん」

 かおりも繭に身を寄せる。ジッパーは徐々に下へと下ろされていく。野田、仲田、志穂も身をくっつける、めぐみちゃんは一人、震えていた。

 遂にジッパーは一番下まで下ろされた。

「・・・」

 全員が息をのむ。

「おっ、とんかつじゃな」

 聞いたことのある、声が食堂に響いた。

「ん?」

 全員が訝しがる。

 ジッパーの開いた隙間から顔を覗かせたのは、やはり、ぼさぼさ髪がさらにぼさぼさになった権田の顔だった。

「ぎゃーっ」

 全員が叫んだ。

「何で、お前がいるんだよ」

 野田がすかさず叫ぶ。

「ああ、ごんちゃんはしばらくここに泊ることになったんだよ」

 すると、金さんが調理場から顔を覗かせた。

「ええっ、ここ女子寮ですよ」

 野田たちが金さんの方を向いて口をそろえて言う。

「家がないって言うんだからしょうがないだろ。まあ、新しい部屋が決まるまでだからさぁ」

 金さんはとりなすようにいう。

「でも、男ですよ。しかも変態ですよ。こいつ」

 仲田が、必死で抗議する。

「そうだ。男とかどうとかいう以前の問題だ」

 野田も叫ぶ。

「安心せい、わしは世界を股にかける男じゃ」

 熊田が胸を張って言う。

「だから何だ」

「安心できるか」

 野田と仲田がすぐに突っ込む。

「テントなら外に立てろ」

「そうだ。そのためのテントだろ」

「おおっ、そうじゃ、そうじゃ、しょんべん、しょんべん」

 しかし、熊田はそんな野田たちが叫ぶ声などどこ吹く風で、テントから這い出ると、そのままさっさと一人、トイレへと行ってしまった。

「おおっ、うんこうんこ、うんこもでそうじゃ。調子がええのう。今日もわしは絶好調じゃ。がはははっ」

「・・・」

 全員が、朝からうんこうんこと陽気に笑いながら、立ち去って行く熊田を茫然と見つめる。

「おいおい、あいつと同じ屋根の下に暮らすのかよ」

 野田が仲田と志穂を見る。二人とも茫然としたまま固まっている。

「ぜってぇ、やだよ私」

 我に返った仲田が叫ぶように言う

「私も・・」

 その隣りで、志穂が不安そうな表情で呟いた。

「あっ」

 その時、繭が突然立ち上がった。全員が繭を見る。

「遅刻だ!」

「あっ」

 そこで全員が、叫んだ。

「私も遅刻しそう」

 かおりも慌てて立ち上がる。

「うちらもやばい」

 野田たち三人とめぐみちゃんも慌てて席を立った。野田たち三人とめぐみちゃんは同じ金城町の丘の上に立つ、電機メーカーの工場で働いていた。

「遅刻だ、遅刻だ。やばい、やばい」

 食堂にいたメンバーは、あっという間に我先にと食堂から出て行った。

「あらあら、慌ただしいね」 

 調理場の暖簾から顔を覗かせていた金さんが、そんな背中を見送った。

「なんじゃなんじゃ。せわしないのぉ。飯はゆっくり食うもんじゃ」

 メンバーたちと入れ替わるように、熊田がのそっと食堂に入って来た。

「あんたはちょっとのんびりし過ぎじゃないかね」

 そんな熊田に金さんが言う。

「そうかのぉ」

 しかし、熊田はそんな言葉には全く意にも介さず、食堂のテーブルの席の一つにドカッと腰を下ろすと、残っていた大皿の煮物の芋を手で掴みそのまま口に放り込んだ。

「うん、うまい」

「まったく、手で」

 金さんが、調理場から出て来て顔をしかめる。

「子供じゃないんだから、ちゃんと箸を使いなさいな。箸を」

「がはははっ、わしゃ、そんなつまらんもんはいらん」

 熊田はさらにニンジンをつまんで口に放り込んだ。

「つまるとかつまらないとかいう問題じゃないだろう。なんかずれてるねぇこの男は」

 金さんは呆れるが、しかし、なぜかそんな権田をどこか憎めなかった。

「ビール飲むか」

 気を取り直して、金さんが笑顔を向けた。

「おっ、ええな」

 誰もいなくなった食堂で、また二人の酒盛りが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ