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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
19/122

練習は続くよどこまでも

「な、なんか蹴りにくいな」

 繭は、シュート練習をしていてふと気づいた。

「そういえばそうだね」

 繭の後ろに並んでいたかおりもうなずく。

「あっ、なんかあそこ盛り上がっている」

 よく見ると、ゴール前の辺りが妙に盛り上がっている。

「なんで、あそこだけあんなに盛り上がってるんだろう」

 二人は首を傾げた。

「マウンドだよ」

 二人の後ろに並んでいた野田が、怒気を込めて言った。

「マウンド?」

「野球の」

「ああ」

 このグラウンドは野球で使うグラウンドだった。

「サッカーなんて、やる場所ねぇんだよ」

 野田が吐き捨てるように言った。

「・・・」

 日本はどこもかしこも野球、野球、野球だった。サッカーなどやっている人間は圧倒的少数派だったし、まして女子サッカーなど、皆無に等しかった。

「厳しいですね」

「厳しいな」

 選手たちは、マウンドの盛り上がりに、時折足を取られながら、それでも懸命にシュート練習に励んでいた。

「コラッ、魂を込めて打たんか。魂を」

 シュートを外しまくる選手たちに向かって、熊田の怒声がグラウンドに響き渡る。

「魂ったってなぁ」

 野田が、隣りの仲田を見る。

「大体なんでこんなシュート練習ばっか延々やってんだよ」

 仲田も愚痴る。

「他にもあるだろう、やらなきゃいけない練習が」

 野田が怒りを込めて言う。

「宮間さんもなんか言ってくださいよ」

 仲田が宮間を見るが、宮間は練習前のケンカもあって疲れ切っていた。

「もう・・」

 野田と仲田は呆れるしかなかった。

「なんで、シュート練習ばっかなんだよ」

 たまらず野田が熊田に向かって叫ぶ。

「シュート打たんでどうやって勝つんじゃ」

 熊田が二人に向かって叫び返す。

「うっ」

 二人は黙った。ど正論だった。

「まっ、確かにそうだな」

 二人の後ろで宮間が一人呟いた。

「宮間さん、どっちの見方なんですか」

 野田と仲田が、突っ込む。

「うん・・」

 宮間はそれには答えなかった。


 結局昼過ぎから始まった練習はそのまま日没まで続こうとしていた。

「ああ、今日は家に帰ろうと思っていたのに」

 沈みゆく夕日を眺めながら繭が呟く。

「私も・・、今日、どうしよう」

 かおりも困った表情で呟く。二人とも家が遠いので、今から帰ったのでは、かなり遅くなってしまう。それに疲れ切っていて、家に帰る気力もない。

「明日、大学行かなきゃいけないのに・・」

「私も・・」

 二人は困った。

「・・、やっぱり寮に泊まるしかないよね」

 繭はかおりを見た。

「・・、うん・・」

 かおりも繭を見て、うなずいた。二人は全く泊まる準備をして来ていないし、それよりなにより練習に参加し、チームのメンバーを見て、なんとなく不安を感じていた。

「・・・」

 二人は黙って沈みゆく夕日を見つめた。

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