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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
17/122

過酷な練習

「くっそぉ~、殺す気か」

 宮間がグラウンドに、思いっきり大の字に倒れ込んだ。

「クッソぉ、無茶苦茶だよな。あいつ」

 野田もその隣りに同じように倒れ込む。

「ほんと、マジ死にそう」

 仲田も更にその隣りに倒れ込む。志穂は更にその隣りに静かに倒れた。

 熊田の考えた練習メニュー、うさぎ跳び千回に、尋常じゃない数の様々な筋トレ、更に様々な形の走り込みを、もちろん尋常ない本数こなし終えた選手たちは、全員、息も絶え絶え、次々に宮間たち同様、地面に倒れ込んでいた。

「くっそ~、なんなんだよ。あいつは」

 このチームで一、二番を争う持久力の持ち主である、右サイドバックの野田さえもが、息を上げていた。

「マジで頭おかしい」

 野田と持久力を争う左サイドバックの仲田もボロボロになっていた。

「やっぱり断っておけばよかった・・」

 繭は、今日突然言われたこの練習に参加したことを、真剣に後悔していた。高校の部活も終わり、ただでさえほとんど運動らしい運動もしていなかった繭には、今日の厳しい練習メニューは、体の芯までこたえた。

「私も・・」

 隣りのかおりも一緒だったらしい。その美しい長い髪を垂らしうなだれている苦痛の表情でうなだれている。それに、二人とも高校を出たばかりの十代、体力的にもまだ大人には劣るところがあった。

「練習は楽だって聞いてたのになぁ」

 話が違うというか、ちょうど熊田コーチの就任に重なってしまった不運を繭は呪った。

「何考えてんだあいつ」

 宮間が毒つく。

「だから、変態だって言ったのに」

 野田が言う。

「そうですよ。宮間さんに知らせたじゃないですか。大変だって」

 仲田が付け足す。

「う~、そうだったか?」

 宮間はもうすでに忘れている。

「うさぎ跳びって、昭和のスポコンじゃねぇんだからさ」

 野田が叫ぶように毒つく。

「こんなに走ったの高校の部活以来ですね」

 本当に精も根も尽き果てた表情で志穂が呟くように言う。

「部活でもここまでやらねぇだろ」

 仲田が怒気を込めて言う。

「くっそぅ、とんでもねぇ奴が来ちまったな」

 宮間が怒りを込めて舌打ちをする。

「でも、あなたそっくりだわ。ガサツなところとか」

「なんだと」 

 宮間は顔を上げ、麗子を睨みつけた。しかし、顔を上げるだけが精いっぱいだった。嫌味を言った麗子も同様だった。二人は、しばし倒れたまま顔だけを上げ、睨み合った。が、すぐにまた再びグラウンドに頭を落とした。二人とも喧嘩をする体力は全く残っていなかった。


 宮間たちは一しきり毒ついた後、少し体が落ち着いてきたのを確認すると、疲れた体を起こしソックスを下ろした。

「さっ、帰ろうぜ」

 宮間の言葉をきっかけに、取り巻きの野田と仲田と志穂が立ち上がる。それを見てか、その他の選手もぞろぞろと立ち上がり始めた。

「大変な目に合っちゃったね」

 かおりが繭に微笑む。

「うん」 

 繭も微笑み返した。練習はきつかったが、終わってしまえば、心地よい疲労と高揚感が二人を包んでいた。これがスポーツの良さでもあり、醍醐味だった。後は帰るだけ、繭とかおりは久しぶりに掻いた激しい運動の汗に高揚し、心地よさを感じていた。

 その時だった。

「お前ら何しちょる」

 選手たちの後ろから熊田が怒鳴った。

「何って帰んだよ」

 宮間たちの一番後ろにいた仲田が、何分かり切ったこと訊くんだとばかりに半切れで答える。

「他に何があんだよ」

 野田も応戦する。

「練習はまだ終わっちょらんぞ」

 熊田は平然と言った。

「まだやらせんのか」

 四人は、信じられない熊田の言葉に、一斉に目を剥いて悲痛の叫びを上げた。周囲の他の選手たちも、ズッコケるようにその場に再び座り込んでしまった。

「え~、まだ、やるの」

 更にその後ろでは、天国から地獄に落とされた、繭とかおりもへなへなとその場にへたり込んでいった。

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