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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
15/122

メンバーたち

「宮間さん、ブレーンバスターは」

 野田の叫び声がグラウンドに響き渡る。宮間たちの喧嘩は、いつしかプロレス技の応酬に変化していた。

「ぎゃー」

 続いて、麗子の鋭い叫び声がグラウンドに響いた。宮間の繰り出すブレーンバスターが決まったらしい。

 しかし、それを聞いても柴は全く動じる様子はない。これもいつものことなのだろう。

「・・・」「・・・」

 繭とかおりの二人は更に不安が募る。

「あっ、キャメルクラッチ」

 仲田の鋭い声が走る。宮間はそのまま連続技に入ったらしい。

 その時ふと、繭は、宮間たちの喧嘩の輪から少し離れた所で、一人不敵な笑みを浮かべる女の子に目がいった。

 それごと何かの入れ物みたいにパカッと取れそうなきれいなオカッパ頭に、薄い眉と唇という何とも幸薄そうな陰りの濃い女の子だった。しかし、ユニホームを着ているという事はこのチームの選手なのだろう。

「ああ、あの子は大黒ちゃんよ。うちの司令塔やっているの。彼女はパスがとてもうまいのよ」

 繭の視線に気付いた柴はにこにこと答える。

「司令塔?」

 司令塔どころか、繭にはサッカー選手にすら見えなかった。文化系の根暗女子といった感じだ。

「常に落ち着いている冷静沈着な選手で、すごく頼りになるわ」

「そうなんですか・・」

 しかし、繭はあの人から、自分に向かってパスが出てくるところを全く想像できなかった。

 繭が困惑していると、またその近くで別の選手が目に入った。今度は大柄で、顔もゴリラみたいにごつく、目つきの鋭い怖い感じの女の子だった。

「ああ、あの子はめぐみちゃん。うちのセンターバックやってるの。顔は怖いけど、とってもやさしい子よ」

 また柴が繭の視線を追って答える。

「どう見てもやさしそうには見えないな・・」

 こちらもサッカー選手には全く見えない。サッカー選手というより、女子プロレスラーといった感じだ。しかし、確かに気が小さいのだろう。宮間たちの喧嘩を心配そうな表情で見つめている。

「ぐぉ」

 その喧嘩の中心では宮間の鈍いうめき声が響いた。反撃に出た麗子のアックスボンバーが宮間の喉元に決まったらしい。

 その時、繭はまた別の選手が目に入った。

「あ~ん、ケンカしちゃいや~」

 その子は人さし指を口にくわえ男に甘えるように、極端な内股で宮間たちの喧嘩を遠巻きに見ながら、腰をくねくね動かしている。

「あ、あの人は?」

「ああ、あの子はかすみちゃん。かすみちゃんはフォワードだから、二人とかぶるわね」

「ええっ」

 あの人がライバル。なんだか繭は複雑だった。

「かすみちゃんは足が早いのよ」

「そうなんですか」

「多分、このチームで一番足が速いんじゃないかしら」

 その時また別の選手が目に入った。今度はメガネをかけたガリ勉タイプと言った感じの女の子だった。

「あ、あの人は?」

「ああ、あの子は静江ちゃんよ。あの子はボランチをやってるの。ボール奪取とマンツーマンディフェンスが得意なのよ」

「は、はあ」

 しかし、勉強は出来そうだが、背は低いし、スポーツが得意そうには全く見えない。何だか他のメンバーを見ても不安が募るばかりだ。

「あっ、あのぉ~」

 その時、繭の隣りで同じように困惑していたかおりが、おずおずと口を開いた。

「あの人も、このチームの人なんですか」

 かおりはグランドの片隅に佇むようにしてボーっとしている、少し大柄な女の子を指さして言った。ちょっと太めの体形に他のメンバーとは違う緑の長袖のユニフォームを着ている。

「ああ、のりちゃんね。のりちゃんは、このチームのゴールキーパーよ」

「ゴールキーパーだったんですか!」

 繭とかおりは、驚きながらあらためてのりちゃんを見た。その体型と、雰囲気から、とてもゴールキーパーには見えなかった。というかスポーツ選手にすら見えなかった。見るからにどんくさそうで、頭もすこぶる鈍そうだった。

「守護神があの人か・・」

 二人は言葉もなく、茫然とした。

「大丈夫よ」

 何が大丈夫なのかよく分からないが、柴は不安そうに見つめる繭とかおりに全く問題ないといった自信満々の表情で言った。

 しかし、そう言われても、二人は全然大丈夫に思えなかった。

「大丈夫か。このチーム」 

 二人はますます不安にかられていった。

「まあ、個性的なチームだけど、きっと楽しいわよ」

「はあ」

 二人の不安など全く気にする風もなく、柴は相変わらずにこにこと、微笑んでいた。

「あっ、そろそろ喧嘩も収まりそうね。じゃあ、何か困ったことがあったら言ってね」

 柴はそう言うと、やさしい笑顔で二人に軽く手を振ると、宮間たちの方へと行ってしまった。

「・・・」

 多分・・、このチームでまともなのはこの人だけだろう。柴の背中を見つめ二人は思った。

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