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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
13/122

練習前

「たかし、今日の練習、わしにまかせてくれんか」

 自己紹介が終わり、早速、これから練習を始めようかという時、熊田がたかしに話しかけた。

「え、ああ、いいですよ」

 たかしは、少し驚いたが喜んでOKした。

「昨日、徹夜で練習メニュー考えたんじゃ」

 そう言って、熊田は嬉しそうにズボンのポケットから、くしゃくしゃになった小さな紙切れをとり出した。

「へぇ~、さすが先輩。ちょっと見せてください」

 たかしが興味深げにその紙切れを覗き込む。

「ほれ」

 熊田はその紙切れをたかしに渡した。信子さんも、たかしの隣りから興味津津に覗き込む。

「どうじゃ、たかし、わしの才能がほとばしっちょるじゃろ」

 熊田は自信満々に言った。

「・・・」

 が、熊田から渡された紙切れを覗き込んだ二人は、それを見つめたまま固まっていた。

「・・、字が汚すぎて全く読めない・・」

 たかしも信子さんも、熊田のミミズののたくったような字を読むことが全く出来なかった。

「・・・」

 二人は茫然とその暗号のような文字を見つめた。

「たかし、どうじゃ、素晴らしい練習メニューじゃろ」

「す、すごい、メニューです。さすが先輩。はははっ」

 たかしは紙切れを返しながら、笑うしかなかった。

「わしは自分の才能がこわいぞ。たかし。がははははっ」

 熊田は一人豪快に笑った。

「はは・・、はは・・」

 たかしと信子さんは、もう笑うしかなかった。しかし、その笑いは引きつっていた。

「たかし、今日はのんびりせい。わしがうまいことやるき」

「は、はい・・」

 熊田に心酔しているたかしだったが、一抹の不安を感じないではいられなかった。

「こんな奴にコーチなんて務まんのかよ」

 その時、熊田から少し離れた選手たちの一段の中で、ボソッと宮間が小声で呟いた。

「なんじゃ?」

 熊田は宮間を睨みつけた。

「うっ、なんて地獄耳」

 まさか聞こえるとは思っていなかった宮間は熊田の地獄耳に驚いた。

 熊田はそんな宮間をじっと、睨みつけながらのっしのっしと宮間の方へ歩いて行った。

「うっ」

 さすがに熊田の鋭い眼光と迫力に気の強い宮間も少し怯んだ。その取り巻き、野田、仲田、志穂も何も言えないで宮間にしがみつくように寄り添っている。

「・・・」

 ついに熊田は宮間の前に立った。そしてゆっくりと、口を開いた。

「お前酒臭いぞ」

 熊田は、自分の酒臭い息を吐きながら言った。

「お前が言うな」

 宮間と同時に野田と仲田も叫んだ。

「・・・」

 この時、野田たちが、変態だと言っていた本当の意味が宮間にも分かった気がした。

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