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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
122/122

ヤジ

 ピーッ

 そして、試合は再開する。

 試合が再開しても、相変わらずボールがとれず、三宅工業にいいようにボールを回される。金城の選手たちは、それに合わせボールを追いかけ追いかけ走りに走らされる。

「何の罰ゲームだよ」

 仲田が必死にボールを追いかけ走りながらぼやく。仲田は、野田と並び、金城サッカーチームの中で一、二を争う持久力の持ち主だった。その仲田が、しんどいと感じていた。

「全然勝てる気がしない・・」

 繭が呟く。これは、前回を上回る大敗になるのでは、と嫌な予感が繭の脳裏をよぎる。実際に対峙してみて個々の能力の差を、繭は強烈に感じていた。しかも相手は、チームとしてよく訓練され組織化されていた。しっかりと論理的に構築された戦術の下に選手たちが連動して動いているのが分かった。動きに無駄がなく、連携がスムーズだった。多分、監督やコーチにも経験豊富な優秀な人材がいるのだろう。

「これが一部にいた実業団のチームなのか・・」

 繭は心底、上のチームとの力の差を感じた。

「でも、意外とブラジル人大したことないな・・」

 だが、意外と助っ人外国人はあまり大したことなかった。繭は、相手チームの助っ人はあまりすごいと感じかった。ブラジル人といってもみながみなうまいわけではないようだった。

「何でわざわざ日本に呼んだんだ・・」

 何なら、他の日本人の方がうまかった。ドリブルも何なら繭の方がよっぽどうまい。

「イメージで見ちゃいけないな」

 繭は思った。


「麗子動けっ。お前はダンゴ虫か」

 宮間の大きな声がピッチに響き渡る。宮間がピッチ上の麗子に向かってヤジを飛ばす。宮間は試合展開に苛立ち、相手チームに向かっていたヤジは、敵でなく、味方に向かい始めた。

「誰がダンゴ虫よ」

 麗子がその言葉に即キレて、ピッチから言い返す。

「動きがダンゴ虫なんだよ」

「私のどこがイモ虫なのよ」

「いや、ダンゴ虫です。麗子さん」

 近くにいたかおりが隣りからそっと訂正する。

「そんなことはどうでもいいんだよ」

 そんなかおりに野田が怒る。

「全部だよ」

「まあ~」

 ダンゴ虫と言われ麗子は顔を真っ赤にする。

「誰がダンゴ虫なのよ」

「お前だ」

 宮間はそう言って、ベンチ裏から思いっきり麗子に向かって指を差す。

「まあ」

 麗子の顔は怒りでさらに真っ赤になる。

「許せないわ。下りて来なさいよ」

 麗子はピッチサイドギリギリまで行って叫ぶ。

「おう、行ってやらぁ」

 宮間は観客席を下り始める。二人はピッチと観客席で喧嘩を始めてしまう。

 その声の大きさに、敵選手やベンチメンバーたちも呆然と金城のベンチの方を見ている。

「うわぁ、恥ずかしいな」

 ピッチで繭が、顔を伏せる。繭は仲間と思われたくなかった。

「まあまあ、抑えて、抑えて」

 二人の喧嘩をベンチでは志穂、ピッチでは野田と仲田が慌ててとめにはいる。

「まあまあ、相手にしないでください。麗子さんはイモ虫じゃないですから」

 野田が、麗子をなだめる。

「いや、だからダンゴ虫ですよ・・」

 かおりが訂正するが、二人共聞いちゃいない。

「相手にしちゃだめですよ。今は試合に集中しましょう」

 野田と仲田が必死になだめて、何とか麗子を試合に戻す。 

「茜(野田)もっと前に行け」

 しかし、試合が再開すると宮間は、今度は野田をやじり出す。

「行けるわけないよ。こんなに攻め込まれてんのに」

 野田がぼやく。ほぼワンサイドゲームで、チーム全体が押し込まれているのに、サイドバックだけが前に行けるはずもない。

「行けっつってんだろ」

 しかし、そんな状況など関係なく、宮間はいきり立つ。

「無茶言うなぁ・・」

 そんな宮間に慣れている野田は、相手にしないように聞こえない振りをする。

「お前、聞こえてんだろ」

 しかし、そんな野田を熟知している宮間も負けてはいない。

「うわぁ、めんどくさいなぁ」

 野田は顔をしかめる。目の前の相対している敵よりも宮間は厄介な存在だった。

「繭走れ、お前はイモ虫か。何でそんなに足が遅いんだよ」

 野田のやじりに飽きると、今度は繭に怒りの矛先が向く。

「もっと速く走れ、お前はイモ虫かこの野郎」

「ううっ、そこまで言わなくても」

 繭も足が遅いことは気にしていた。

「どうせ私は短足ですよ」

「そこまでは言ってないよ・・汗」

 かおりが諭すようにツッコむ。繭は少し被害妄想的なところがあった。

「繭、無視だ。聞こえない振りをしろ」

 野田が繭に囁くようにアドバイスする。

「はい・・」

 しかし、聞こえない振りをしろと言われても、宮間の声はデカい。しかも、なぜかよく通る。

「まゆぅ~」

 繭が無視をすると、声はさらに大きくなる。

「まゆぅ~、まゆぅ~」

 そして、しつこい。

「うう~っ、メンタルを侵される・・」

 走らされ、ただでさえ肉体的にきつい中、味方からメンタルまで追い込まれる繭だった。 

「何で前に行かねぇんだよ。お前ら根性なさ過ぎなんだよ」

 そんなことにはまったく頓着せず、さらに宮間は、いきり立ってヤジを飛ばす。

「根性で前に行けたら誰も苦労しないよ」

 野田がぼやく。

 そして、宮間は次々と金城の選手たちをやじり、逆に味方選手たちを怒らせ、落ち込ませていく。 

「ほんと害悪でしかないな・・」

 野田がため息交じりに言う。

「ほんと・・」

 かおりもため息交じりに呟くように言う。かおりも散々、のっぽだ木偶の棒だスズメのとまった電信柱だと罵られていた。

「敵より厄介ですね」

 繭が言う。相手チームが強敵で、それだけでも大変なのに、さらに敵が増えていた。

「しかも、本人に自覚がないからな」

「はい・・」

 野田が言うと、繭とかおりの二人は、ため息を漏らす。

「本人はあれでよかれと思ってるからな・・」

 仲田が呟く。この日一番走っている仲田も散々、根性なしだナマケモノだと罵られていた。

「アホか何やっとんじゃ。おまんら」

 すると、そこに今度は熊田が、金城の選手たちに向かって怒鳴り始める。

「やる気あんのか」

「うわっ、あいつまで」

 野田が顔をしかめる。

「なんなんだようちのベンチは。うちらを貶めたいのか」

 その横で仲田が嘆くように呟く。

 試合が再開すると、熊田と宮間の二人が左右からステレオで共に、バカデカい大きな声でベンチ裏から様々な罵詈雑言に近いヤジを飛ばしまくる。

「う、うるさい・・汗」

 繭がベンチ裏の二人を見る。 

「あの二人マジでうるさいな」

 野田が嘆くように言う。

「今日は二人ですからね」

 繭が答える。

「一人でもうるさいのに」

 仲田が愚痴るように言う。

「まだベンチにいてくれた方がよかったですね」

 かおりが言う。

 その後、二人のヤジが気になって金城はミスを連発する。

「もっと集中せんか」

「お前のヤジが気になって試合に集中できねぇんだよ」

 野田がキレる。

 しかし、二人のヤジは、やむどころかさらにその苛烈さを増す。あまりに激しいので、二人は滅茶苦茶目立っていた。相手ベンチの人たちも何事かとさっきからずっと金城のベンチの方を見ている。

「は、恥ずかしい」

 繭がその光景を見て呟く。

「見るな繭」

 それを野田がたしなめる。

「えっ」

「あの人たちは、勝手に応援に来ている変な人たちってことにしよう」

「ええっ」

「だから絶対に見るな」

「は、はい」

「あの人たちは関係者じゃない。いいな」

「はい」

「無視だ。何があっても無視だ」

「は、はい・・」

 もう手遅れな気がしたが、それしかないと繭は言われた通り二人を無視した。


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