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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
119/122

変装

 次の試合、真っ黒なサングラスをして、そして、初夏だというのに、トレンチコートを着た、怪しげな男が金城女子サッカーチームのベンチすぐ後ろの観客席に座っていた。足元は下駄である。頭はあのスズメの巣のようなもじゃもじゃ頭。熊田だった。

「あーあー、聞こえちょるかどうぞ」

 熊田は片手に持ったトランシーバーを口元に当てる。

「聞こえますどうぞ」

 それを、すぐ目の前のベンチ前のたかしが受ける。なぜかたかしも熊田と同じ真っ黒のサングラスをかけている。

「バックトゥザフューチャーか」

 それを見て、野田がツッコむ。

「こんなこったろうと思ったよ」 

 野田が呆れながら言った。

「何が完璧な作戦だよ」

 仲田も呆れている。

「滅茶苦茶バレバレな気が・・」

 志穂が困惑気味に言う。熊田はその容貌が、普段から相当に怪しい男なのに、さらに怪しいものになっていた。

「まったく、アホ過ぎて怒る気力もねぇよ」

 野田が毒突く。

「確か観客席にいるのは、別に問題ないし、トランシーバーも問題ない気がするんですけど・・」

 そして、志穂は呟きながら、首を傾げる。実際に志穂の言う通りだった。変装する必要などまったくなかった。

「変装しなくても・・」

 志穂がさらに困惑気味に呟く。

「いいんだよ。もうあいつは何でもしてくれ」

 野田が諦め顔で言った。

「そんな投げやりな・・汗」

 その隣りで繭がそんな野田にツッコむ。

 すると、そこに何やら怪しげな人間がやって来た。

「ん?」

 繭たちがその人物を見る。どこかで見たことのある顔だった。

「あっ、宮間さん」

 繭が素っ頓狂な声を上げた。確かに宮間だった。大げさな黒縁メガネをかけ、髪型を変え、さらに髪の色を変え、ユニホームの背番号を変えていたが、そのまんま宮間だった。

「えっ、宮間?誰それ」

 しかし、宮間は、もう完全にバレバレなのにしらばっくれる。

「バレバレですよ。宮間さん」

 野田が呆れながら言う。

「私は間宮です」

「もう・・」

 野田たちは脱力しそうに心底呆れる。

「大丈夫、完璧な作戦があるとか言っていたのはこれだったんですか」

 野田が言った。宮間は昨日、熊田と同じこと言っていた。

「それで昨日珍しく美容院に行くとか言ってたんですね」

 仲田。宮間はいつもは、その長い髪を後ろで束ねてポニーテールにしているのだが、今日はその髪に少しパーマを当て三つ編みにしていた。色も栗色から真っ黒になっている。

「なんか変だと思ったんだよなぁ」

 野田。

「完璧だろ。この変装は」

 しかし、宮間は何を根拠にしているのか一人自信満々である。

「わざわざ新しくユニホームまで作ったんですか」

 野田が宮間のユニホームを見る。背中にローマ字でマミヤと書かれたユニホームを宮間は着ていた。背番号も七なのに、十七になっている。

「おう、スポーツムラキに行って、作ってもらったんだ」

 ドヤ顔で宮間は言う。

「またそんな・・」

 野田が呆れる。金城町女子サッカー部のユニホームは、金城町商店街にあるスポーツショップムラキが提供していた。

「手が込んでるなぁ」

 仲田が呆れながらも感心する。

「なっ、完璧だろ」

 宮間はさらにドヤ顔で三人の顔を見る。

「メガネかけたままどうやって試合に出るんですか」

 そんな宮間に、志穂が珍しくツッコむ。

「静江だって眼鏡かけてんじゃねぇか」

「あれは、極度の近視で、コンタクトではダメなんです。そのことはちゃんと日本女子サッカー協会に報告して許可をもらってます。それにあれはスポーツ専用のゴーグル眼鏡です。宮間さんのは普通のメガネじゃないですか。サッカーやってるうちに絶対にどっか飛んできますよ。ていうか、主審から許可が出ませんよ」

 野田が言う。

「じゃあ、どうしろって言うんだよ」

「いや、だから出場停止で試合を見ているしかないでしょ・・汗」

 野田が当たり前のことを言う。

「よしっ、じゃあ、今日から、あたしが志穂だ。お前が宮間な」

 だが、宮間は、全然諦めないどころか、志穂の肩を叩きながら、また無茶なことを言い出す。

「じゃあ、私が試合に出れないじゃないですか」

 志穂が訴えるように言う。

「まあ、高々三試合だ。我慢しろ。さっ、ユニホーム脱げ」

「なんて無茶苦茶な・・」

 さすがの志穂も顔を歪める。

「さっ、脱げ」

 しかし、宮間はめげない。

「もう、いい加減にしてください」

 堪らず野田が叫んだ。いつもは、師弟関係のように、宮間の言いなりだったが、さすがに野田も大きな声を出した。

「ちぇっ、なんだよ、まったく」

 宮間はめがねを外して、地面に叩きつける。

「なんだよ、まったくはこっちのセリフです」 

 野田が切り返す。

「大丈夫だよ。分かりゃしねぇよ。三部だぜ三部。草サッカーみたいなレベルだぜ」

 逆ギレ気味に宮間が言う。

「熊田もいねぇっていうじゃねぇか」

「いますよそこに」

 繭が、ベンチの後ろを指さす。

「何っ!」

 宮間が驚いてそこを見る。あれだけ目立ち、誰もが気づいているのに、宮間は全然気づいていなかった。

「あれが、権蔵?」

「あれで気づかない方がすごい・・汗」

 繭が呆れる。どうやら二人は感性も似ているらしい。

「試合に出たい気持ちは分かりました。でも、今日は抑えてください。お願いします」 

 野田は、今度は低姿勢で宮間を説得する。

「また問題が起こると今度はチームに処罰が下る可能性があるんです」

 仲田も言った。

「・・・」

「ねっ、宮間さんお願いします」

「お願いします」

 野田と仲田が交互に説得する。

「ったく、分かったよ」

 ちょっとキレ気味だったが、さすがに渋々、宮間は了承する。まったく納得していない表情がありありと出ていたが。

「大人しくしていてくださいよ」

 野田がそんな宮間に念を押す。

「ああ」

 宮間は不満顔で、ベンチ裏の観客席に向かって歩いて行った。

「何か心配だなぁ」

 しかし、その背中を見て仲田が呟く。

「絶対に何かやらかしそうだよなぁ」

 野田。

「あの宮間さんが一日大人しくしているわけがないですからね」

 志穂が言った。

「それにしても、発想が瓜二つなところが怖いですね」

 ベンチの後ろの観客席に座る熊田と宮間を交互に見ながら繭が言った。

「ああ」

 野田たちが答える。

「まったく一緒だったからな」

 野田が言う。

「ビビるくらい一緒だったな」

 仲田。

「感性まで一緒でしたからね」

 志穂。

「ほんとこれから思いやられるよ。ただでさえ強烈なキャラが二人だぜ」

 野田がため息交じりに言った。


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