表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
118/122

宮間と熊田

「宮間さん練習は出ましょうよ」

 繭が、繭の部屋でゴロゴロしている宮間に言う。

「あいつが畳に手をついて謝ったら行ってやるよ」

 宮間は、読んでいる漫画から目を離さずに言った。

「またそんなぁ」

 繭が呆れる。

「話が変な方に行っちゃってますね」

 志穂が野田と仲田の二人に囁く。

「ああ」

 野田。

「悪いのは宮間さんの方なのにな」

 仲田。

「そうなんだよ。謝るのは宮間さんの方なんだよ。宮間さんがみんなに謝れば済む話なんだよ」

 部屋の片隅で、三人はコソコソと宮間に訊かれないように囁き合う。

「でも、何があっても、絶対に謝らないですよね。宮間さんは」

 志穂。

「ああ、絶対に謝らないなあの人は。自分がどんなに悪くても絶対に謝らない」

 野田と仲田がうんうんうなずきながら言う。

「天地がひっくり返っても絶対に謝らないよ」

 仲田が言う。

「そうですね」

 志穂がうなずく。

「自分は世界で一番、絶対にまごうことなく正しいって思ってるからな」

 野田。

「そうそう、それ以外は全員間違ってるっていう」

 仲田。

「強烈な自己中なんだよな」

 野田。

「まさに自分を中心に世界が回ってんだよな」

 仲田。

「ある意味すごいですけどね」

 志穂。

「根性はすごいけどな。でも、ほんと大変だよ。あの人は」

 野田がため息交じりに言うと、三人は同時に宮間を見る。しかし、当の宮間は相変わらずゴロゴロしながら漫画を読んでいる。

「さて」

 その宮間が突然立ち上がった。三人は話を聞かれたのかとビクッとなる。だが、宮間は、そんな三人など目もくれず、その横を通り過ぎ、部屋を出て行こうとする。

「あっ、宮間さんどこ行くんですか」

 それを見て野田が慌てて声をかける。

「あかね」

「今から飲みに行くんですか」

 野田が驚く。これから夕食という時間だった。宮間はだいたいいつも銀月層で夕食は食べていく。

「ああ」

「ええっ」

 繭も含め全員驚く。

「おう、宮間どこへ行く」

 そこへ丁度ベッキーが帰って来た。

「おうっ、丁度よかった。飲み行くぞ」

「あかねか?」

「そうだ。行くぞ」

「おう、行くぜ」

 ベッキーはやはりノリがいい。最近は、あかねのカラオケにもはまっていた。ベッキーはせっかく帰って来たのに、部屋に荷物を置くこともせずそのまま宮間と一緒にあかねに行ってしまった。

「・・・」

 部屋にいた四人は、無言でそれを見送った。

「最近、ベッキーがお気に入りだな」

 野田が言う。

「その分、私たちは助かってますけどね」

 志穂。最近宮間はベッキーがお気に入りで、飲みに行く時は大抵ベッキーを連れて行く。今までつき合わされていた三人と繭は、それによって救われていた。

「でも、見るからに荒んでますね」

 繭が言った。宮間はあれ以来、ずっと練習にも出ず、昼間から飲んだくれていた。

「あれで寂しがり屋なとこあるからな」

 仲田。

「みんなに謝っちゃえばいいのに」

 繭が言う。

「変にプライド高いからなぁ。あの人」

 野田。

「複雑なんですね」

 繭。

「うん、あれで意外と神経細かい人なんだよ」

「えっ、そうなんですか」

 繭が驚いて野田を見る。

「うん」

「あれでけっこうナイーヴなんだよ」

「ナイーヴ・・」

 宮間を語る言葉にナイーヴという言葉が出てくることに繭はさらに驚く。

「以外・・」

 繭は呟いた。


「えっ、次の試合も監督が指揮をとるんですか」

 次の日の練習前、繭が驚いてたかしを見る。

「うん、そうなんだ」

 よく考えれば、たかしがこのチームの監督で、監督が指揮をとるのは当たり前なのだが、監督のたかしが指揮をとらないことが、選手たちの間で、もう当たり前になってしまっていて、たかしが指揮をとると言った瞬間、みんな驚く。

「先輩も三試合のベンチ入り停止なんだ」

「えっ」

「何でですか?」

「前回退場になった試合があっただろう。その次の試合、ベンチ入り停止だったのを普通にベンチにいたからね」

「ああ、そういえば」

 あまりに自然だったので誰もそのことに気づいていなかった。

「でも、あいつはいねぇ方がいいんじゃねぇのか」

 野田が言った。

「前の試合だってあいつの無茶苦茶な全員攻撃サッカーでカウンター食らいまくって自滅したって面もあるんだからな」

「そうですね。宮間さんの退場だけじゃないですよね」

 志穂が言った。

「あいつの責任も大きい」

 仲田もうなずきながら同意する。

「おっ、おまんら早いのぉ」

 そこに当の熊田が、いつものように下駄をカラコロと鳴らして呑気にやって来た。

「お前がおせぇんだよ」

 野田がツッコむ。

「何の話をしとったんじゃ」

 しかし、野田のツッコミなど蚊ほどにも効かず、熊田は呑気に話に入ってくる。

「いえ、あの、先輩がベンチ入りできないという話を・・」

「まったくわしなしでどうやって勝て言うんじゃ」

 熊田が呆れたように言う。

「のう、繭」

 そして、熊田はそう言って隣りの繭を見る。

「えっ、私ですか」

 いきなり振られ、繭は思いっきり戸惑う。

「は、はい、そ、そうですね。汗」

 繭は思いっきりどもりながら答える。

「何言ってんだ。前回お前のせいでぼろ負けだったじゃねぇか」

 野田が叫ぶようにツッコむ。

「まあ、そんな時もある」

 しかし、熊田はやはり呑気だった。

「何呑気にそんな時もあるとか言ってんだよ」

 仲田も叫ぶ。

「すべての試合に勝つことは無理じゃ。風は北から吹く時もあるし南から吹く時もある」

「何うまいこと言ってんだよ」

 野田。

「サッカー言うんは、時に魔物が住んどるんじゃ」

「何訳の分かんねぇこと言ってんだよ」

 仲田。

「今の時代はサッカーも理論の時代なんだよ。Jリーグを見てみろ。そういうチームが勝ってんだよ」

 野田が熊田に言う。日本でもJリーグが発足し、日本のサッカーは短期間で目覚ましい進化を見せていた。

「サッカーは理屈やない」

「じゃあ、なんなんだよ」

「サッカーは根性じゃ」

「だから、それがダメだって言ってんだよ」

 野田が叫ぶ。

「なんで未だに昭和なんだよ」

 仲田もツッコむ。

「スポコンですね」

 志穂。

「サッカーは根性と勢いじゃ」

「科学と完全に対極にいる人ですね・・汗」

 かおりが呟く。

「この科学の時代に・・」

 志穂が呟く。

「まったく、おまんらはサッカーのことが何も分かっちょらん」

 しかし、熊田は呆れ顔で言う。熊田には何を言っても無駄だった。分かってないのはお前だっ、とツッコむ元気も湧かないほどに、全員あっけにとられていた。

「まあ、しゃあない、明日はたかしに任せるしかないのぉ」

 熊田がそう言ってたかしの肩を叩いた。

「は、はあ・・」

「がんばれよ」

「でも、しかし、やっぱり先輩が・・」

 しかし、たかしは自信なさそうに熊田を見返してしまう。

「滅茶苦茶頼りない・・汗」

 そんなたかしの姿を見て繭が呟く。

 たかしはこのチームのれっきとした監督であるにも関わらず、相変わらず恐ろしいほどに頼りがいがなかった。

「よしっ、大丈夫じゃ、たかし」

 そんなたかしの肩を熊田がさらに力を込めて叩いた。

「えっ」

 たかしが驚いた顔をする。

「わしに任せとけ。完璧な作戦がある」

 何かを思いついた熊田は自信満々に言った。

「先輩・・」

 たかしはそんな熊田に、いつもの尊敬のまなざしを向けた。その目は王子様を見つめる少女のように輝いていた。

「・・・」

 しかし、他のメンバーは全員一抹の不安を感じていた。

「絶対にろくなことにはならんぞ」

 選手全員の頭にそんな言葉が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ