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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
117/122

荒む宮間

「何しに来たんじゃ」

 次の日、練習にやって来た宮間に熊田が横柄に言い放った。

「なんでもねぇよ」

「あっ、宮間さん」

 宮間はブチギレそのまま踵を返すと、帰って行ってしまった。

「ああ、宮間さん・・」

 繭が声を出す。しかし、宮間は、一度も振り返ることなくそのまま行ってしまった。

「先輩」

 たかしが、慌てて熊田の下に駆け寄る。

「うちはただでさえ人がいないわけで・・」

 たかしはおどおどと熊田に気を使いながら言う。

「関係あるか。そんなもん」

「ええっ、しかし・・」

「十人でも九人でも勝ったるわ。選手の数がなんぼのもんじゃ」

「ええっ」

「わしのサッカーはそんなやわやない」

「・・・」

 熊田に常識は通用しなかった。そして、宮間の背中はフェンスの先に消えた。

「宮間さん・・」

 繭が心配そうに、その宮間の背中を見送った。


「なんか宮間さん、あの日以来元気ないですね」

 繭が言う。宮間は、表向きいつものように気丈にふるまっているが、あの喧嘩した日から、どことなくいつもの元気がなかった。それを、繭が見ていて気にかけていた。繭は、普段宮間に無茶苦茶されているのに、意外と先輩思いだった。

「宮間さんあれで、反省してんだよ」

 野田が言う。野田、仲田、志穂のいつもの三人はいつものように繭の部屋でだべっていた。

「そうなんですか」

「そうそう、あやまるタイミングがなくてさ。困ってんだよ」

 仲田が言う。

「あれで気が小さいとこあるからな。宮間さん」

 野田。

「意外とナイーヴなんですよね。ああ見えて」

 志穂が言う。

「そうなんですか」

「うん」

「以外・・」

 繭は驚く。全然そう見えなかった。

「麗子さんともかなりやり合っちゃったしな」

 野田が言う。

「そうだな、久々にすごかったな」

 仲田。

「そういえば、麗子さんて、お金持ちのお嬢さんで、黙ってれば上品に見えなくもないのに、すごい武闘派なんですよね」

 繭が首を傾げながら言う。

「宮間さんとも肉弾戦とかするしな」

 仲田。

「そこが、変わったところだよな」

 野田も首を傾げる。

「そもそも何でヘリで会場まで来るくらいお金持ちなのに、こんな場末のサッカーチームでサッカーやってんですかね」

「場末で悪かったな」

 野田が言う。繭はさりげなく口が悪い。

「金持ちの道楽なんじゃねぇのか」

 仲田。

「道楽でサッカーですか」

 繭にはまったくその心が分からなかった。

「まあ、金持ちの考えることは分からん」

 野田。

「なにしろ、麗子さんは芦山の人ですからね」

 志穂が言った。

「芦山?」

 繭が志穂を見る。

「超金持ちの集まる町さ」

 仲田が言った。

「へぇ~、そんなとこがあったんですね」

 繭は、今年ここに越して来たばかりで、まだその辺の事情を知らなかった。

 金城町の隣りの隣りの町に、芦山町という日本有数のお金持ちの集まる町があった。麗子の家はそこにあった。

「しかも芦山のさらに山の手らしいぜ」

 野田が言った。

「そこはすごいんですか」

「ああ、芦山町は、山の上に行けば行くほど金持ちらしい」

「麗子さんてやっぱりすごいお金持ちなんですね」

「なんか東京にビル持ってるらしいぜ」 

 仲田。

「ビルですか」

「ああ、高層ビル」

「すごい」

「ニューヨークにもあるとか言ってなかったか」

 野田が言う。

「にゅ、ニューヨーク?」

 繭は、もちろん行ったこともなく、テレビでしか見たことがない。

「ニューヨーク・・」

 金持ちのレベルが違っていた。繭は驚くというより呆然としてしまう。

「そんな人がなんで、こんな無茶苦茶なサッカーチームに」

「無茶苦茶で悪かったな」

 野田が怒る。繭はやはり、さりげなく口が悪い。

「やっぱ、金持ちの考えることは分からんな」

 仲田が言った。

「確かに」

 そこで全員首をかしげた。

「ところで宮間さんは昼間何やってんですか。みんなと同じ工場で働いてるんですか」

「あの人が、工場労働なんか務まる訳ないだろ」

 野田が言った。

「えっ」

「あんな自己中で気位の高い人が、誰かの下で働くなんて絶対無理だから」

「そう、無理無理」

 仲田も顔の前で激しく手を左右に振る。その横で志穂も静かに顔を横に振る。

「じゃあ、何やってんですか」

「そこが謎なんだよな」

 野田が腕を組む。

「野田さんたちでも知らないんですか」

「ああ」

「えっ」 

 繭は驚いた。


「あんた昼間っから酒かい」

 金さんが宮間を見て呆れる。その当の宮間は寮の食堂で昼間から酒を飲んでいた。

「だって暇なんだもん」

「いい若いもんが何言ってんだかね」

 金さんはさらに呆れる。

「だって、コーチ自らが練習来るなって言ってんだよ」

「どうせあんたが何かしたんだろ」

 金さんはお見通しだった。

「金さんちょっとなんかつまみ作ってよ」 

 宮間は誰に対しても図々しい。

「まったく、ほんとにしょうがないねぇ」

 と言いながら金さんは台所に行く。なんだかんだ人のいい金さんだった。

「ほれ、出来たよ」

 金さんが、作ったつまみをもって台所から出て来た。ささっと作った割に煮物や揚げ物などバラエティに富んでいた。

「ありがと、金さん、うっ」

 だが、それを見て宮間は驚く。

「・・・汗」

 つまみの量も半端なく多かった。

「ちょっとって言ったのに・・汗」

「練習行かなくていいのかい?」

 金さんが酒を飲む宮間に言う。

「いいんだよ」

 それに宮間がぞんざいに答える。そして、荒々しくかっくらうように酒を飲む。

「あんたも因果な子だねぇ」

 金さんは再び呆れる。だが、金さんはこの寮で数々の個性的な人間を見てきただけに、別段動じることもなかった。



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