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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
116/122

どつき合い

「もう許さない」

 麗子が掴みかかる。

「それはこっちのセリフだ」

 宮間も負けていない。二人の掴み合いが始まる。

「テメェ、これでもくらえ」

 宮間がエックスチョップで麗子に飛び掛かる。そして、久々の取っ組み合いの喧嘩が始まった。

「やっぱりだめだったか・・」

 野田が諦め顔で呟く。最近、掴み合いになるような大げんかはなかったが、ここに来て二人の平和協定はかんたんに崩れた。

「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ」

 繭が野田たちに言う。

「やめてください。やめてください」

 繭が二人の間に入って必死にとめる。だが、そんなことでかんたんにとまる二人ではない。

「わあっ」

 逆に二人の勢いに、繭が吹っ飛ばされてしまう始末だった。

「いててて」

 繭は後頭部を押さえながら上体を起こし、顔をしかめる。

「あっ、あれは伝説の大技。パロスペシャル」

 野田が大きな声で解説するように言う。倒れる繭など関係なく、二人の喧嘩は続いていた。麗子が宮間の背に乗り、その手を後ろに広げるように持ち上げる。

「うううっ」

 宮間の顔が苦痛に歪む。

「完璧に決まった」

 仲田が目を見張る。これほどきれいに決まったパロスペシャルはなかなか見れない。

「私だって色々と研究していたんだから」

 麗子が宮間の背に乗りながら得意げに言う。平和な間、麗子は、やはりこんな時のために色々と考えていたらしい。

「ここのところ喧嘩がなかったと思ったけど、やっぱり、ただの休火山だったか・・」

 野田が呟く。

「うぐぐっぐっ、てめぇ」

 だが、宮間もただ負けているだけの人間ではない。

「あっ、あれは、これも伝説の大技ロメロスペシャル」

 野田がまた大きな声で解説するように言う。今度は宮間が、麗子を背中から力技で倒し、その四肢を後ろ向きに引っ張り持ち上げる。

「す、すごい、大技の連続」

 仲田が感心する。

「こんな完璧なロメロスペシャルは見たことない」

 野田と仲田は感動する。野田と仲田はプロレス好きでもあった。

「感心してる場合じゃないですよ」

 繭が叫ぶ。

「おお、そうだった。宮間さん、麗子さんやめてください」

 野田、仲田、志穂がとめに入る。

 しかし、勢いに乗る二人の喧嘩はとまらない。

「あっ、空手チョップ」

「今度は、モンゴリアンチョップ」

 また野田が解説するように言う。

「あっ、アッパーカット」

「あっ、コークスクリューパンチ」

 そして、今度はもう、どつき合いが始まる。もう無茶苦茶だった。

「ク、クロスカウンター」

 二人のパンチがお互いの頬を同時に打ちつける。

「す、すごい・・」

 あしたのジョーばりに、二人のあまりにきれいに決まったクロスカウンターに、かおりが感嘆の声を上げる。

「二人とも進化してるなぁ」

 野田が腕を組み感心する。

「ていうか何で進化してるんですか。サッカーで進化しましょうよ」

 志穂がツッコむ。

「今日はとことんやってやるわ」

「おう、受けてたってやるわ」

 麗子がいきり立つと、宮間もすかさず返す。

「もう、やめてください。やめてください」

 繭だけが必死でとめに入っている。だが、さらに過激に興奮している二人が、繭一人でとまるはずもない。

「あっ、大外刈り・・、からの巴投げ」

 また、野田が解説するように言う。二人は連続技の繰り返しで、倒したり投げたりをお互い繰り返す。

「すごい試合だな」

 そのあまりのお互いの技の流れの見事さに、思わず野田が感嘆の声を上げる。

「試合じゃないでしょ」

 その隣りで、そんな野田に志穂がツッコむ。

「やめて~、やめて~」

 あまりに見事な技の連続に、そんな周囲がのんびり観戦状態になっている中、やはり、繭だけが必死で二人をとめようとしていた。だが、二人にはその声さえ届いていない。

「やめてくださいっ」 

 繭は叫ぶ。

「やめて~、やめて~、もうやめて~」

 繭は叫ぶ。

「やめて~、うわああああ」

 そして、あまりにもとまらないので、とうとう繭は、泣き出した。

「こんなの最低だよ」

「・・・」

 さすがにその姿に宮間も麗子も喧嘩の手をとめた。

「あいつ意外と正義漢だな」

「ああ・・」

 野田が繭を見て言うと仲田がうなずく。

「宮間さんが一言みんなにあやまれば済むことじゃないですか」

 志保が喧嘩の手をとめた宮間に向かって言った。

「そうですよ、どう考えても今回は宮間さんが悪いんですから」

 仲田が続いた。

「うるせぇ」

 しかし、素直に謝る宮間ではない。そして、宮間はみんなに背を向ける。

「どこ行くんですか」

 驚いて野田が訊く。

「帰る」

「えっ」

 みんな驚く。しかし、宮間はそう言って本当に帰って行ってしまった。

「・・・」

 全員、言葉もなく黙ってその後ろ姿を見送った。

「これから練習なのに・・汗」

 かおりがその背中に呟く。

「素直じゃないんだからなぁ」

 野田が呆れ顔で呟く。

「一言でいいのに」

 仲田がその横で同じように呟く。

「滅茶苦茶負けず嫌いですからね・・」

 最後に志保が呟く。

 そこに、カラコロと下駄を呑気に鳴らしながら、もそもそと熊田がやって来た。

「おっ、今日はみんな気合いが入っちょうな」

 選手たちの汚れたユニホームと荒れたグラウンドを見て、熊田は一人勘違いしてトンチンカンなことを言う。練習前に激しい自主練をしていたと思ったらしい。

「よ~し、おまんらの思いを汲んで、今日は目いっぱいしごいちゃるからな」

 熊田が、その場の空気をまったく読まずうれしそうに言う。

「せ、先輩・・」

 たかしが困惑気味にそんな熊田を見る。

「ん?どうしたたかし」

 しかし、熊田はまったく分かっていない。

「ん?おいっ、宮間がおらんやないか」

 熊田がそこでさっそく気づいて言った。

「あいつはどこ行った」

「あの・・、帰りました・・」

 熊田の近くにいたかおりが言い難そうに言った。

「何?帰った?あいつはサッカーなめとんか」

 熊田が怒髪天に怒り出す。

「もうあいつは試合に使わんぞ」

「先輩お言葉ですが、今日電話で説明した通り、宮間は使いたくても、三試合出場停止でして・・」

 たかしが言う。

「そんなもん関係あるか。わしが使ういうたら使うし、使わん言うたら使わんのじゃ。出場停止なんかなんぼのもんじゃ」

「・・・」

 たかしは困惑する。相変わらず、熊田の理屈は独特で無茶苦茶だった。

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