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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
115/122

出場停止

「そうだな早紀ちゃんの言う通りかもしれない」

 いきなり見知らぬ外国人との同居に、戸惑い困っていた繭だったが、早紀の言ったことを思い出し、繭も考えをあらため、前向きに考えるようにした。繭も英語を覚えたいという思いは高校生の頃からあった。

「英語が喋れたらカッコいいよなぁ」

 そんな憧れが繭にもあった。

「わ、わっとあーゆーどぅーいんぐ?」

「マンガ読んでるね。日本の漫画めちゃ面白い」

 ベッキーは、スナック菓子をパクつきながら今日も繭の部屋にあった漫画を寝ころびながら読んでいた。

「・・・」

 しかし、繭が発音の歪んだ英語で話しかけてもベッキーは日本語がほぼ完ぺきで、英語を話すことがない。せっかく英語を覚えたいと思った繭だったが、まったくその機会がなかった。

「早紀ちゃんのアドバイスはいきなり頓挫だよ・・」

 トホホな、思いにかられる繭だった。

「ベッキーはアメリカで日本語とか勉強してたの?」

 繭が寝そべるベッキーの横に座り込み訊いた。

「全然」

「えっ、じゃあ、日本に来てから全部覚えたの?」

「そうだよ」

 ベッキーは当たり前のように言う。

「じゃあ、たった一年半でそんなに日本語ペラペラになったの?」

「そうだよ」

 こともなげにベッキーは言う。

「やっぱ才能なのか・・」

 繭は中学高校と英語を一生懸命学んできたが、まったくしゃべれない。

「どうやってそんなに日本語うまくなったの?」

 繭が訊く。何か参考になるかもしれない。

「う~ん」

 そう訊かれ、ベッキーはしばし考える。

「フィーリング」

 そして、言った。

「・・・」

 何の参考にもならなかった・・。

「頭のいい人は、結局生まれつき頭がいいんだな・・」

 薄々気づいていた絶望的なことを、今はっきりと気づく繭であった。

「ところでベッキーは何で日本に来たの」

「侍に会いたかった」

 そこでベッキーは読んでいた漫画を脇にやり、起き上がると目を輝かして言った。

「侍?」

「そう、ワタシ三船敏郎の大ファンね」

 ベッキーはそこでチャンバラの真似をする。

「そうだったんだ・・汗」

 今どき日本の人でもなかなかいない。繭も名前くらいしか知らない。

「ワタシ、日本には侍が本当にいると思っていたね」

「えっ、そうなの」

「でも、全然いなかった。がっかりね」

「そりゃがっかりだね・・」

「うん」

「・・・」

 ベッキーは頭がいいのかアホなのかよく分からないなと、この時繭は思った。


「どうしたんですか」

 繭がいつもの夕方練習のために練習場に顔を出すと、すでに集まっていたメンバーが、何やらグラウンド中央に集まり深刻な話をしている。

「宮間さん、三試合出場停止だって」

 繭に気づいたかおりが振り返り言った。

「え、なんで、一試合じゃないの」

 繭が驚く。レッドカードは通常次の一試合だけ出場停止だった。

「わざと観客にボール蹴ったのが問題になって、サッカー協会から通達」

 野田が言った。

「あちゃ~」

「去年も、カードの数がリーグ最多だったのも、よくなかったみたいだ」

 たかしが、よっぽど何かサッカー協会で言われて来たのか、うなだれた顔で言った。

 宮間は、去年レッドカード三枚、イエローカード累積で十一枚もらっていた。イエローカードは四枚累積で一試合出場停止で、しかも二回目は二試合出場停止。だから、去年は六試合も出場停止になっていた。今年もすでに退場は二回目だった。

「すごいですね」

 聞いたその数の多さに繭は驚愕する。当の宮間はみんなの中心で、眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにしていた。

「でも、どうするんですか」

 志穂が口を開く。

「何が」

 それに対し、宮間がちょっとキレ気味に返す。

「何がって・・」

 野田がすぐに志穂の言っていることを理解する。金城はただでさえ人が足りない。ベンチメンバーは二人しかいないのだ。

「これから三試合ベンチ一人かぁ・・」

 野田が呟く。

「さすがになぁ・・」

 仲田も呟く。

「変装すれば大丈夫だろ」

 宮間が言った。

「絶対バレますよょ」

 野田がツッコむ。

「大丈夫だよ」

 宮間は気軽に言う。

「実際バレたじゃないですか」

 野田がツッコむ。

「やったんですか」

 繭が驚く。

「カツラ被ってさ」

 仲田が繭に教える。

「カツラ・・」

「あれはカツラが悪かったんだよ」

「絶対違うと思います・・」

 志穂が静かにツッコむ。

「しかも、そのカツラが試合中取れるという・・」

 仲田が当時を思い出しながら言う。

「あちゃ~」

 繭が声を上げる。

「でも、二試合はそれでバレなかったぜ」

「二試合はバレなかったんだ・・」

 それもすごいと繭は思った。

「でも、バレてどうなったんですか」

 繭が訊く。

「もう大変だったんだよ」

 野田が眉間に皺を寄せて言う。

「そうそう、こんなことは前代未聞だって、宮間さんをリーグ永久追放するみたいな話まで出たからな」

 仲田。

「あの時は、監督大変でしたね」

 野田がたかしを見る。

「うん、体重が五キロ減ったよ」

 げんなりとしてたかしが言った。相当サッカー協会でしぼられたらしい。

「もう滅茶苦茶怒られて、チーム自体リーグから除名するとまで言われたからね。まあ、脅しなんだろうけど・・」

「大変だったんですね」

 繭が同情して言う。

「今度は大丈夫だって。三部だぜ。そんなのちゃんと見てねぇよ」

 しかし、宮間はまったく反省していないどころかまだやろうとする。

「その自信はどこから来るんだ・・汗。一回バレているというのに・・汗」

 繭が呆れながら呟く。

「懲りないんだからなぁ」

 野田も呆れながら言う。

「でも、またバレたら大変なことになるんじゃないですか」

 志穂が言う。

「多分、宮間個人の問題だけじゃなくて、今度こそチームの責任とかになるだろうね」

 たかしが言った。

「試合自体できなくなるよ」

「そん時はそん時だよ」

 しかし、宮間は相変わらず強気だった。

「ていうか何なのよ。あんたのその態度」

 すると、その態度に麗子がキレた。

「なんだよ」

 宮間が麗子を見る。

「あんた、みんなに迷惑かけたんだから、ちょっとは反省しなさいよ。あんたのせいでこの前の試合ぼろ負けしたのよ。しかも三試合出場停止って、なんなのよ」

 麗子が怒る。

「うるせぇなぁ」

「だから、何よその態度」

「うるせぇんだよ」

「ベッキーいますよ。ベッキー」

 喧嘩になりそうな二人の間に、繭がそこになだめるように割って入り、すかさず二人に言った。

「おお、そうか」

 野田が声を上げる。

「でも、出れるんですか試合」

 志穂が言った。

「そうか」

 みんな一斉にたかしを見る。

「僕も分からないな・・」

 たかしは腕を組み、首を傾げる。

「明日サッカー協会に訊いてみるよ」

 たかしが言った。

「あんたはほんと最悪ね」

 麗子が宮間を睨みつける。せっかく収まりかけたのに、そこで麗子がまた火をつける。

「なんだと」

 宮間と麗子はまた喧嘩を始めてしまった。

「あちゃ~」

 せっかく、繭が喧嘩を止めようとしたのに、二人にはまったく効果がなかった。

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