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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
114/122

金城のベッキー

「ベッキーは大学行かなくて大丈夫なの?」

 繭が、繭の部屋でくつろぐベッキーに訊ねる。

「多分、大丈夫」

 ベッキーはゴロゴロと横になりながら漫画を読んでいる。ベッキーは早くも銀月荘と繭の部屋に違和感なく完全に順応していた。

「多分・・」

 ベッキーは、どこまでも能天気だった。

「日本の漫画面白い、最高ね」

 ベッキーは、読んでいる漫画に笑いながら言う。

「・・・」

 繭は、自分も結構ズボラだが、そんな繭でもベッキーは心配になった。

「うん、うまいうまい、日本の食事とってもベリー、グーね」

 今日の夕食は金さん特製のすき焼きだった。

「ほんとおいしいね」

 ベッキーは、金さんの作る大量の料理をもりもりと次々平らげていく。

「ワタシ、日本食大好きね」

 ベッキーは、日本酒も好きだが、日本食も大好きだった。

「うん、うまいうまい」

 そして、繭に負けず劣らず、ベッキーも大食いだった。

「いろんな意味で助っ人だな」

「ああ・・」

 その姿を見て、同じテーブルを囲む野田たちが囁き交わす。相変わらず金さんの料理は、毎回半端なく量が多かった。今日も用意された肉や野菜は皿の上でそびえ立っている。

「いや~、ほれぼれする食べっぷりだね」

 そんな野田たちの横で、ベッキーのその食べっぷりに金さんは感心し、ものすごくよろこんでいた。

「これからは料理の量をもっと増やさなきゃね。腕が鳴るわ」

 そして、さらに気合いを入れ始める。

「えっ」

 それを隣りで聞いていた野田たちは慌てる。

「いや、金さんもう大丈夫です」

 野田が慌てて言う。

「はい、絶対大丈夫だと思います」

 仲田が続く。

「もう十分足りていると思いますよ」

 志穂。

「そうかい?」

「はい、絶対そうです」

 やる気満々の金さんをみんなで慌てて何とかなだめる。

「金さんはいい人なんだけどなぁ・・」

 野田が困ったように言う。

「料理もおいしいんですけど・・」

 志穂。

「いかんせん、量の感覚がおかしいからなぁ・・」

 仲田。

「しかも、それがいいことだと思ってますからね」

 体は大きいが食の細いかおりが言った。かおりは最近胃薬を飲んでいる。

「はあ・・」

 銀月層の面々は、一斉に大きくため息を漏らした。


「ベッキーとかおりのツインタワーだぜ。これはもう見ただけで相手はビビるな」

 捕らぬ狸の皮算用、夕食後、野田の部屋でくつろぐ宮間は、早くもベッキーありきで、勝手な未来を妄想している。

「うちは強くなるし相手は弱くなるし。最高だな」

 宮間は一人高笑う。

「でも、ベッキーの移籍ってほんとにそんなかんたんにできるんですかね」

 野田がそんな一人盛り上がる宮間に横から口を挟む。

「本人が前向きなんだから問題ないだろ」

「そうなんですかね」

 野田たちは首をかしげる。契約書もろくにない時代。まして、三部リーグの話だった。にしても、いい加減過ぎる。

「相手チームには話したんですか」

 仲田が宮間に訊いた。

「してないよ」

 宮間は当たり前に言う。

「えっ」

 野田、仲田、志穂は一斉に驚く。

「まさか、まったくしてないってことはないですよね」

 志穂がおずおずと訊く。

「まったくしてないよ」

 宮間は当然のごとく言う。

「・・・」

 全員言葉もない。

「本人が移籍したい。うちらは受け入れたい。それで万事オッケー、それだけだろ?」

「・・・」

 宮間があまりに、当然だろ?みたいに言うので、全員言葉を失う。

「宮間さんて、社会性が小学生レベルですよね・・」

 志穂が野田と仲田に囁く。それに二人がうなずく。

「そんなの社会一般では絶対に通用しないと思いますよ」

 恐る恐る野田が宮間に言う。

「通用しないならお前らが何とかしろよ」

「えっ」

 いきなりの返しに三人は驚く。

「私たちですか」

 そして、おずおずと訊く。

「他に誰がいるんだよ」

「・・・」

 それも当然のように宮間は言った。

「宮間さん、いっつも行き詰ると全部私たちに投げるんだからな」

 宮間がいなくなってから野田がぼやく。

「自分が飼いたいって言ったペットを、やっぱ無理だからお母さんに全部面倒みさせる子どもみたいですね」

 志穂が言う。

「まんまだな」

 三人はため息をついた。


「はあ・・」

「どうしたの?」

 講義室で席に座るなり、机に突っ伏すようにうなだれる繭に早紀が声をかける。ここにもう一人、宮間に多大な迷惑をかけられている人間が一人いた。

「また寮でなんかあったの?」

 早紀もだんだん繭が落ち込む時のパターンが分かって来ていた。

「私の部屋に居候が・・」

 繭が呟くように言う。

「居候?」

「うん」

「へぇ~、どんな人?」

「外人」

「えっ、外人?」

 いきなりの展開に早紀は驚く。

「うん、身長が百九十センチあるんだ」

「お、おっきいね・・汗」

 なかなか聞かない身長だ。

「誰なの?」

「よく知らない」

「えっ」

 よく知らないおっきな外国人が繭の部屋に突然居候している・・。早紀には、話の展開がまったく理解できない。

「知らない外国人が居候しているの?」

「そう」

 早紀には、やっぱり、なんの話かさっぱり分からない。

「この前の対戦相手の選手なんだ」

「それがなんで?」 

 早紀は、増々分からない。

「う~ん」

 繭にも今のこの展開はよく分かっていなかった。なぜこうなってしまったのか。繭自身が首をかしげた。

「まあ、悪い人じゃないんだけどね」

「へぇ~、じゃあ、いいじゃん」

「よくないよ」

 繭が慌てて言う。早紀はほっとくとすぐに物事を前向きに肯定的に捉え、何でもすぐ受け入れてしまう。

「でも、留学したと思えばいいじゃん。英語勉強できるよ」

「早紀ちゃんは前向きだね・・汗」

 繭が顔を上げ、早紀を見る。

「留学したくてもできない子も多いんだよ」

「う、うん・・、まあ、それはそうなんだろうけど・・」

 言っていることは分かるが、しかし、なんか話の本筋がズレてると感じる繭だった。早紀はやはりどこか天然だと、繭は思った。

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