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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
112/122

意気投合

「ワタシカラオケ大好きね」

 ベッキーは、金城町商店街にあるいつもの居酒屋あかねでカラオケを一人で歌いまくっていた。

「さすがアメリカ人、英語の発音完璧だなぁ」

「感心してる場合か。誰かとめろよあいつを」

 カウンターのいつもの席に座る繭が、呑気にベッキーの歌う発音完璧な洋楽に聞きほれていると、宮間が隣りからツッコミを入れる。宮間は洋楽が嫌いだった。どちらかというと宮間は日本の昭和歌謡といった古風な趣味だった。

「誰だよ誘ったの」

 宮間がステージで歌うベッキーを見て、辟易した顔で言う。

「宮間さんでしょ」

 そんな宮間に野田が隣りからツッコミを入れる。

「おいっ、ベッキー、お前うちに移籍して来い」

 カラオケを散々歌い、満足げに宮間の隣りでお酒を飲み始めたベッキーに宮間が言った。

「おお、それいいね」

 アメリカ人の特性なのか、たんなるベッキーがただそうなだけなのか、ベッキーは何を言われても常にノリがいい。

「ほんとに来そうだから怖いな」

 隣りで野田が呟く。

「ワタシこのチーム気に入ったね」

 ベッキーは本気か建前か非常に前向きだった。

「よしっ、決まりだ。お前は今日からチームメイトだ」

 宮間がベッキーの肩を叩く。

「おうっ」

「じゃあ、前途を祝して、みんなで乾杯だ」

 宮間が店中に叫ぶ。この日は金城町女子サッカーチームのメンバーでほぼ貸し切り状態だった。

「今日はものすごい大敗したのに乾杯て・・、しかも自分退場してるし・・」

「反省ゼロだからな・・」

 野田が呟くと仲田が連動して呟く。今日の大敗は九割以上宮間の責任だった。そのことをもうすでに宮間はさらっと忘れている。

「宮間さんは、いい意味でも悪い意味でも切り替えが早いから」

 その隣りで志穂が、ため息交じりに呟く。

「乾杯すんぞ。みんな飲み物注文しろ」

 その宮間が他の選手たちに大声で言う。宮間は元気いっぱいだった。

「じゃあ、あたしビール」

「私もビール」

 銘々適当に飲んでいた選手たちが、あらためてママに飲み物を注文する。

「はいはい」

 ママが答える。

「私もビール」

「私はレモンハイ」

「私シャンパン」

 麗子が言った。

「そんなもん居酒屋にあるわけねぇだろ」

 宮間が麗子にキレ気味でツッコむ。

「あるかもしれないじゃない」

「ねぇよ」

「なかったら、置いときなさいよ」

「何でお前がキレてんだよ。無茶苦茶言うな」

 宮間も無茶苦茶な性格だが、麗子もかなりのものだった。

「はい、今度用意しとくわ」

 しかし、ママは愛想よく答える。何でも受け入れてしまうあかねのママは無茶苦茶な要求にもニコニコと言う。しかし、その目の奥はいつも笑っていない。

「ママ、こんな奴の言うこと聞くことないよ」

 宮間がママに言った。

「どういう意味よ」

「そういう意味だよ」

 また二人は険悪な空気になる。

「まあまあ、お二人さん、仲よく仲よく」 

 そこにベッキーが間に入る。

「お二人さんスマイルスマイル」

「・・・」

 どうもベッキーの能天気な陽気さは、人の感情を弛緩させるらしい。二人はバカバカしくなってケンカをやめた。

「よしっ、じゃあ、金城町商店街女子サッカーチームの明るい前途にかんぱ~い」

 宮間が叫ぶ。

「かんぱ~い」

 どんな明るい前途があるのか、誰もよく分からなかったが、とりあえずみんなグラスを掲げる。

「前途ってなんだよ。今日歴史的な大敗してんのに」

 野田は、宮間の勢いに乗せられ乾杯はしたものの、やっぱりおかしいと首をかしげる。

「宮間さんの感覚って時々怖くなるよな」

 仲田が言った。

「おっ、お前けっこういける口だな」

 だが、そんなことに欠片も気づかず、隣りで宮間はベッキーの飲みっぷりに感心する。

「おうっ、いける口だぜ。ニッポンのお酒は最高ね」

 しかも、ベッキーは、外国人でありながら日本酒党だった。

「日本のお酒最高ね」

「おう、酒はやっぱ日本酒だよな」

 宮間も日本酒党だった。

「あと芋焼酎も最高ね」

「芋な」

 宮間も焼酎も大好きだった。二人は思わぬところで気が合い盛り上がる。

「気が合ってるな」

「うん」

 野田と仲田がそんな二人を見て囁きかわす。

「今夜はとことん行くぜ」

「おうっ、とことん行くぜぇ」

 二人は日本酒の入ったコップを高々と掲げ、ガンガン飲みまくる。

「ええい、もうヤケだ、今日はとことん飲んじゃえ」

 そんな二人を見て、明日普通に仕事の野田が、もうヤケになって叫んだ。

「ママ、あたしも日本酒ちょうだい」

「はいはい」

 ママが愛想よく答える。

「そうだな。じゃあ、あたしも」

 仲田も続いた。

「繭、お前も飲め」

 野田が繭を見る。

「えっ」 

 繭はいつも飲むと記憶がなくなるので、今日はやめておこうと、ずっとバヤリースを飲んでいた。もちろん明日は大学の授業がある。

「飲むんだ」

 野田の目はすわっている。

「は、はい・・」

 思わぬとばっちりだった。

「よしっ、そのいきだ」

「い、一杯だけですよ」

「おう」

 そして、繭の前に空のコップが置かれ、そこにビールが注がれた。

「・・・」

 それを、繭は手に取る。

「それ、一気一気」

 すると、野田が声を上げ、それが他の選手たちの間からも湧き上がってきた。

「うううっ」

 完全に断れない空気だった。

「ナムサン」

 繭はコップに入ったビールを勢いよく煽った。

 

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