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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
108/122

退場

 四対〇。前半でほぼ試合が終わったような点差で、しかも、まったく打開策を見いだせないどころか、未だに相手のカウンターにはまりまくっている状況で、ピッチ上の金城の面々は最悪の空気になっていた。

「ブ~ス、ブ~ス」

「弱ぇんだよ。お前ら」

 そんな最悪の状況の金城の選手たちに向かって、追い打ちをかけるように何ともむかつく声がスタンドから響いてくる。

 三鷹工業は、そこそこ大きな会社で社員や関係者も多く、会社の同僚や会社内のメンバーで作られた私設の応援団がいた。その人間たちが応援に来ていて、意外と客席には観客がいた。試合も四対〇と勝っているので、観客スタンドも盛り上がっている。

「ブ~スブ~ス」

 その中に誰の子どもか、根性の悪いガキどもがいて、そこから口汚いヤジが飛んでいた。

「へたくそ、ブ~ス、ブ~ス」

「ぶ~す」

「くっそぉ~、あのガキども」

 ただでさえイラついている宮間は、ブチギレそうになりながらそのガキどもを睨む。

「ブ~ス、ブ~ス」

 その宮間の反応に、ガキどもはさらに活気づき、さらに勢いづく。本当に根性が悪いガキどもだった。

「あのガキぃ~」

 宮間はさらにいきり立つ。

「宮間さん、落ち着いてください」

 すぐ近くにいた野田が、そんな沸騰寸前の宮間に気づいて声をかける。が、しかし、そんなことで静まる宮間ではない。

「ただのガキですよ。気にしない気にしない」

 仲田もやって来た。

「ブ~ス、ブ~ス」

 その間にも、ガキたちはヤジを飛ばしてくる。大人の急所をうまく掴んだ、何ともむかつくガキたちだった。

「ぐぐぐぐっ」

 宮間の額の血管はもう切れそうなくらい膨らみぴくぴくと痙攣する。

「宮間さん、今日は退場は無しですよ」

 野田がそれとなく諭すようになだめる。

「分かってるよ」

 しかし、不穏な空気を醸したまま、宮間はプレーに戻っていく。

「大丈夫かな・・」

 その背中を見つめながら野田と仲田は呟いた。宮間との長年のつき合いの中で培われた宮間という人間への感が、野田と仲田にかなり危険な警報を鳴らしていた。

 金城の劣勢は続ていた。まったく好転の兆しすらが見えなかった。金城は一生懸命相手陣地に攻め込もうとするのだが、その思いだけが空回りしてうまくいかない。

 そんな時、ふとしたお互いのクリアの連続で、ボールがスタンド側のサイドに流れた。そこに三鷹の選手が猛然と走って行く。その後ろには広大なスペースがあり、とられると危険だった。だが、運よく宮間が三鷹の選手よりも若干近くにいて、宮間も猛然とボールに走り込んだ。そして、相手に取られる前に、思いっきりボールを外に蹴り出した。

「ぐわっ」

 すると、その宮間が蹴り出したボールが、さっきからヤジを一番飛ばしていた中心格の男の子の顔面に命中し、その子が後ろにぶっ倒れた。

「へへへっ、ざまあみろ」

 宮間が一人、満足げに笑みを浮かべる。実は宮間は、ボールをクリアすると見せかけて、ベンチ裏の観客席のそのクソガキどもを狙って思いっきりボールをスタンドに蹴りこんでいた。それが見事に命中していた。こういうところだけは、宮間の技術力は高い。

 ピーッ

 その時、鋭く主審の笛が鳴った。何ごとかと選手全員がその方を見る。宮間も見る。

 主審が宮間の方に走っていく。

「なんだよ」

 宮間はポカンとする。そして、主審は宮間の前に立つと、ポケットから何かを取り出した。そして、それを宮間にかざす。

「あっ」

 それはレッドカードだった。金城の選手全員驚く。

「一発レッド」

 ベンチ前のたかしも信子さんも驚く。

「なんでだよ」

 宮間がキレる。

「何言ってるの。わざとでしょ」 

 主審が即座に言い返す。しっかりと見抜かれていた。

「あちゃー」 

 野田と仲田がおでこに手をやる。

「やっぱり・・」

 何かやらかすのではという二人の予感はやはり当たった。

「違うよ。ただクリアしたんだよ」

 宮間は必死に言い訳する。

「ダメダメ」

 しかし、審判はまったく聞き耳を持たない。

「クリアしたら、たまたま当たっちゃったの」

「ダメ」

 主審は首を横に振る。バレバレだった。

「クリアだろ。クリア」

 宮間は、しかし、執拗に食い下がる。

「宮間さん」

 さらに何か揉めそうなので、野田たち近くにいた他のメンバーが慌てて駆け寄り宮間をとめる。

「宮間さん抑えて」

「なんであたしが退場なんだよ」

 しかし、宮間はまったく静まらない。結局、メンバー全員で引きずるようにして宮間をピッチの外に出して行った。

「何をやっちょうんじゃ。あいつは」

 ただでさえ負けている試合、戦術もうまくはまらず、イライラしていた熊田は怒り狂う。

「ドアホがっ」

 熊田はピッチに背を向けると、怒りに任せて思いっきり履いていた下駄で地面を蹴った。しかし、怒りに任せ、あまりに勢いよく足を振ったため、履いていた下駄が足から離れ、吹っ飛んで行ってしまった。

「あっ」

 ベンチメンバーとたかしと信子さんがその飛んで行く下駄を目で追う。

 カツーンッ

 下駄はものすごい勢いでベンチの脇の屋根のパイプに当たり、方向が変わり、観客席の方に飛んでいく。

「あっ」

 ベンチメンバーがまた声を上げる。

 ガツーンッ

 そして、その時丁度立ち上がった、さっき宮間にボールをぶつけられた男の子の額に、またその下駄が命中して、男の子は再びぶっ倒れた。

 ピーッ

 そして、また笛が鳴った。

「なんじゃ?」

 今度は主審がベンチの方に走って来て、熊田の前に立った。

「なんじゃ?わしになんか用か?」

 熊田はその目の前に立つ主審を見る。

「あっ」

 すると主審は熊田にもレッドカードを提示した。

「ああ?おまん何しとんじゃ」

 熊田は驚き、その提示されたレッドカードを呆然と見つめる。

「退場です。ベンチから出てください」

「ああ?」

 熊田はあっけにとられる。周囲の人間はもっとあっけにとられる。

「何でわしが退場なんじゃ」

「スタンドに物を蹴り込んだからです」

「はあ?あれはじゃな」

「言い訳無用。出て行ってください」

 主審は容赦なく、ベンチの外を指さす。

「わしなしでどうやってこの試合勝てゆうんじゃ」

「知りません」

「おまんなぁ」

 食い下がろうとする熊田をたかしたちが慌ててとめに入る。

「なんでわしが退場なんじゃ」

 しかし、そんなことで収まる熊田ではない。そして、熊田も宮間同様、たかしや他のベンチメンバーたちに引きずられるようにしてベンチから追い出されていった。

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