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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
104/122

アメリカ人留学生ベッキー

「あ~あ、また試合だな」

 いつもの練習後、野田が心底嫌そうに呟く。前の週の日曜日は間が空いて試合はなかった。しかし、今度の日曜日は、再び試合だった。

「次の相手はどんなチームなんですか?」

 繭が野田を見る。

「三鷹工業。三部では滅茶苦茶強豪。一時期一部にもいたことがある社会人チーム。今は二部と三部を行ったり来たりしているけどな」

「去年は勝ったんですか」

「勝つわけねぇだろ」

「負けたんですか」

「ああ、二〇対〇」

「ええっ、二〇対〇!」

 繭は驚く。

「そう、ぼろ負け」

「サッカーの点数じゃないですよ・・汗」

「試合の最後の方なんか、ほんと悲惨だったよ。試合の途中でもう家に帰りたくなったもん」

「もうわけ分かんないよね。そこまで失点すると」

 仲田が続く。

「なんか、負けたっていうより、心の何かを打ち砕かれた感あったよな」

 野田が志穂を見る。志穂は悲しい表情でそれにうなずく。

「そこまで・・汗」

 繭が戸惑う。

「壮絶な負けだったんですね・・汗」

 かおりが言う。

「ああ、あれはトラウマなるな」

 野田。

「ああ、なるな」

 仲田。その隣りで志穂が無言でうなずく。

「それにしてもすごい点差ですね」

 繭。

「なんか、アメリカからの留学生とかいうすげぇのがいてさ。その名もベッキー」

「ベッキーですか・・」

「前半で五対0。それで、宮間さんが途中でもうぶちギレちゃってさ。ラフプレーで前半半ばでレッドカード一発退場。それでもう後半はさらに一方的にボコボコ。成す術まったく無し」

 野田が言う。

「ああ・・汗」

 なんとなくその場の光景を繭は想像できた。

「あいつがアメリカに帰ったことを祈るよ」

 野田が呟くように言った。


「・・・」

 しかし、次の日曜日、その留学生ベッキーはしっかりといた。相手選手たちの中でもひと際背が高く、長い金髪で遠くからでも一目で分かった。

「まだ帰ってねぇのかよ」

 野田がベッキーを見ながら毒突く。

「おっきいですね」

 繭が、呆然とその外国人選手を見つめる。かおりと同じくらいかそれ以上ありそうだった。

「デカいだけじゃないぜ」

 そこに野田が言った。

「えっ」

「足も速いんだ」

「そう、もう手がつけらんないよ。あんなの」

 仲田が言った。

「そうそう、あんなのこの日本の三部リーグに出るなんて反則だよな」

「そうそう、三部じゃほとんど核兵器レベルだよな」

「そんなにすごいんですか・・」

 繭。

「ああ、ヘディングの出来るかおりを想像してみろ」

 野田が言う。

「・・・」

 確かにそれは恐ろしかった。

「それがめっちゃ足速いんだぞ」

 野田。

「確かに・・」

「バケモンだよあれは」

 仲田。

「ああ」

 野田が同意する。

「・・・」

 繭は頭の中でベッキーのその姿を想像し、言葉を失った。

「ハ~イ」

 しかし、そんなベッキーを見つめる繭たちに、ベッキーは笑顔で右手を上げ、指をひらひらさせる。選手としての恐ろしさとは裏腹に、陽気で人懐っこい性格らしい。

「今日はぜってぇ勝つからな。前回の雪辱を晴らす」

 そこに気合いの入った宮間が、やって来た。

「あんな外人野郎にいいようにさせてたまるか。日本人の恐ろしさ見せてやる」

 そして、ベッキーを指さし、根拠のよく分からない自信で決意表明する。ベッキーはしかし、何かを勘違いしているのか、そんな宮間にも手の指をひらひらさせている。

「宮間さん、今日は気をつけてくださいよ」

 野田が、そんな一人燃える宮間に釘を刺すように言う。

「何をだよ」

 宮間が野田を見る。

「何をって、前回退場しているじゃないですか」

「ん?ああ、あれか」

 宮間はもうすでに自分の汚点はコロッと忘れていた。

「ああ、あれかじゃないですよ」

 野田が嘆くように言う。都合よく忘れられたのでは、あの時、ピッチに残され、完膚なきまでに叩きのめされた他の選手たちは堪らない。

「大丈夫だよ」

 しかし、宮間は深刻さの欠片もなくさらりと言う。

「宮間さんが退場すると、ただでさえメンバーいないんですから」

 仲田もその反対サイドから念を押すように言う。

「だから、分かってるって」

「ほんと頼みますよ」

 野田がさらに念を押すように言う。

「うるせぇよ。大丈夫だって言ってんだろ」

 だが、宮間は半ギレで、そのままベンチへと行ってしまった。

「絶対、分かってないよなぁ・・」

 仲田がその後ろ姿に呟く。

「絶対、分かってないな」

 野田も確信したように言う。

「滅茶苦茶心配だなぁ・・」

 野田たちは心配でしょうがなかった。


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