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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
102/122

熊田の正体

「僕と先輩の出会いは高校のサッカー部だったんだ」

「高校の先輩だったんですね」

 繭。

「出会いから入るのか・・汗」

 その隣りで野田が呟く。

「監督も権蔵のこととなると目の色変わっちゃうからな」

 仲田がさらにその隣りで呟く。

「うん、最初の印象は強烈だったなぁ」

「その時からですか」

 繭が、最初に熊田を見た時を思い出す。最初にパッと見ただけで、決して忘れない何かを持っていた。

「なんか独特の雰囲気というかオーラがあったというか、顧問の先生もなんか口が出せないみたいな」

「やっぱり、若い時からかなり特異なキャラだったんだな」

 野田と仲田が呟く。

「僕はこんな性格だろう。だから、最初、体育会系のギラギラした人たちになかなか馴染めなくてね。しかも、僕はその時、若い世代の代表なんかに選ばれて変に目立ってしまっていたから、その時の三年生の副キャプテンをやっている人に目をつけられてしまってね。先輩たちの間で、僕はとても辛い立場になってしまったんだ」

「そうだったんですか」

「先輩は神さまみたいな世界で先輩に目をつけられてしまうのは、とても辛い事なんだ」

「なんとなく分かります」

 繭も高校時代、部活内の先輩後輩の関係は大変だった。

「でも、先輩は、そんな僕に唯一やさしくしてくれた先輩なんだ」

「そうなんですか。いいとこあるんだな。あいつも意外と」

 野田が言った。

「僕は一年生から試合に出してもらっていたんだけど、それも先輩たちは面白くないんだろうね。僕のパスをわざとトラップミスしたり、僕がボールを持つとわざと動きをとめたりね」

「それはきついですね」

 かおりが同情気味に言う。

「うん、でも、その時、先輩が僕に言ってくれたんだ。「わしにパスを出せ。わしだけにパスを出せ。お前はわしだけを見ていればいい」って」

 たかしは当時を思い出しながら、うっとりと中空を見つめる。 

「かっこよかったなぁ。僕はあの言葉で、何があってもこの人に絶対について行こうと思ったんだ」

「それって、ものすごいエゴイストってことなんじゃ・・汗」

「ただ、自分中心にしか考えていなかった先に監督がいただけ・・汗」

 しかし、選手たちは、口々に呟く。

「それから僕は試合中、先輩だけを見ていたよ。先輩の動きだけを見て絶妙のタイミングでパスを出す。先輩と試合中に目が合うだけで、僕の中に堪らない快感が走った。先輩にパスを出せるだけで僕は最高に幸せだった」

 しかし、たかしは完全に熊田に陶酔しきっていた。熊田を語るその目は完全に別の世界に酔っていた。

「監督・・汗」

 選手全員、そんなたかしに困惑する。

「完全にイッとるな」

 そして、野田がツッコむ。

「そして、いつしか、僕と先輩の絶妙のコンビネーションは圧倒的な破壊力を持つようになった。僕と先輩の関係は誰にも止められない。そして、その勢いで僕たちの高校は全国大会で優勝できたんだ」

「すごい、そこまでいったんですね」

 繭が驚く。監督としてはまったくダメなたかしだったが、選手としてはかなりの才能があったらしい。そのことをこの時初めて選手たちは知った。これまで、選手たちはたかしを完全に舐め切っていた。そして、熊田も。

「あいつがそんなすごい選手だったとは」

 これには野田も仲田も驚く。

「熊田コーチはどんなタイプの選手だったんですか」

 かおりが訊く。

「先輩は、なんだかとても直線的なドリブルをするんだけど、なぜか誰も止められなかったな」

「な、なんか分かる気がする・・」

 野田が呟く。

「器用な選手じゃないんだけど、なぜか、誰もボールが取れないという不思議な選手だったよ」

「なんか想像できるな・・」

 選手たちが呟く。熊田の直進的な性格がプレーにも思いっきり出ていた。

「フィジカルはとにかく強かったよ。本当に、当たりにいった選手たちがみんな逆に吹っ飛んでいくんだ」

「それもなんか分かるな」

 野田。

「野生的なんだよな。あいつは」

 仲田。

「野生のイノシシ的なね」

「まさに猪突猛進」

 選手たちが口々に呟く。

「その後、僕と先輩は大学でも一緒だったし、その後、就職した社会人チームのサッカー部でも一緒だった」

「へぇ~、ずっと一緒だったんですね」

 繭が感心する。

「うん、大学でも社会人チームでも先輩がいつも先に行って、僕を誘ってくれたんだ。先輩には何から何までお世話になりっぱなしだったよ」

「そこまでの関係だったのか」

 繭が呟く。たかしが熊田に心酔するのもなんとなく分かるような気がした。

「というか・・」

 しかし、経歴を聞くと、熊田は意外とまともな奴だということに、だんだん選手たちは気づき始める。

「そうだったのか・・」

 しかも、サッカー選手としてはけっこう、すごい。野田たちも同じサッカーをしている者だけあって、その分野においてすごい存在は、やはり、尊敬してしまう。

「あいつはけっこうすごい奴だったんだな」

「うん・・」 

 みんな認めたくないが認めざる負えない。

「でも・・」

 だが、そこでたかしの声のトーンが急に変わった。

「でも?」

 みんなたかしを見る。何やら、さっきまでの話の流れからかなり違う話らしい。選手たち全員が、たかしを注視した。

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