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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
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調子に乗る選手たち

 その週末の試合も金城は勝った。これで七連勝だった。チーム創設以来の新記録だった。

「あたしたちは強い」

 宮間が大声で叫び、意気揚々とベンチに帰って来る。その後ろに、他の選手たちも満面の明るい笑顔で続く。チーム状態がいいと、選手たちもみな明るい。

「絶好調ですね。うちのチーム」

 たかしがそんな選手たちを見て、うれしそうに隣りの熊田を見上げる。

「わっ」

 しかし、なぜか、熊田は苦々しい怒りの表情を浮かべてそんな浮かれる選手たちを見ている。その額には青筋も浮いている。

「どうしたんですか。先輩・・」

「・・・」

 しかし、熊田は怒りの表情のまま何も言わない。

「調子に乗りおってぇ・・」

 そして、熊田は怒りを滲ませるように呟いた。たかしと信子さんは、その様子に顔を見合わせた。

「あたしたちは強いなぁ。なんでこんなに強いんだろう」

 宮間がおどけた調子で言うと、それにみんなが連動して笑う。みんな本当にうれしそうだ。

「ほんとですね、このまま優勝、二部に昇格しちゃったりして」

 調子よく野田がそんな宮間に続く。熊田の呟く通り、連勝に、ものの見事に調子に乗る金城のメンバーたちだった。彼女たちの辞書に謙虚さという文字はなかった。

「昇格って何年ぶりなんだろう」

 そこでマジメな志穂が首をかしげる。

「もう記憶にないくらいないな」

 仲田も少し首をかしげながら言う。

「少なくともここ十年はない」

 宮間が断言した。宮間はこのチームに来て十年が経つ。その間、金城は万年三部の最下位の辺りをうろうろしていた。

「このまま一部までいっちゃったりして」

 調子に乗る野田がさらに言った。

「一部っていったことあるんですか」

 そこで、ふと疑問に思い繭が訊いた。

「お前、いくら何でもそれは言い過ぎだぞ。うちのチームはどんだけ歴史あると思ってんだよ」

 野田が怒る。

「えっ、あるんですか」

 繭が驚く。

「ないな。創設以来ないな」

 だが、野田がすぐに答える。

「なんですかそれ」

 繭はズッコケた。

「でも、今の勢いなら行けちゃうよな」

 野田が再び陽気に声を大きくして言う。

「ほんとほんと」

 すると、他の選手たちもそれに連動して再び陽気に盛り上がる。

「そうですね」

 繭もやはり、連勝に気持ちが高揚していて一緒に調子に乗る。

「よ~し、いっちまうか。一部」

 そこで、調子乗り、いつになく機嫌のいい宮間が大きな声を出す。

「そうですね」

 みんなも声が揃う。

「いくぞぉ」

 そして、宮間はみんなを煽るように叫んだ。

「おーっ」

 そして、宮間の掛け声とともに、選手たちはみんなでこぶしを突き上げ、大きな声を出し、大いに盛り上がった。たかしと信子さんもそんな光景をほほえましく見つめる。チームは今最高潮に盛り上がり、いい状態にあった。そこには、なんの問題もなかった。

「おまんら何調子こいちょる」

 だが、そこに熊田が突然、そんな勝利に湧き盛り上がる選手たちに水を差すように、いきなり怒鳴った。

「あっ?」

 それに野田と仲田が、すかさず熊田を睨みつけるように反応する。

「何怒ってんだよ」 

 野田が言う。

「おまんら調子に乗るな」

「なんでだよ。勝ってんだからよろこんで何が悪いんだよ」

 仲田も続く。

「おまんら勘違いするなよ」

 熊田がすごむ。

「何がだよ」

 野田と仲田も負けずに熊田に対してすごむ。

「最近、勝っているのはおまんらの力やない」

「あっ?」

「すべてわしのおかげじゃ」

「ええっ!」

 そう言い切る熊田に、その場にいた全員が驚く。

「すべてわしの力じゃ」

「言い切った・・汗」

 繭も驚く。

「すべてわしのおかげじゃ。自惚れたらあかん」

「自惚れてんのはお前だ」

 野田たちが熊田を指さし、総ツッコミを入れる。

「勘違いしちょるおまんらのその腐った根性叩きなおしてやる。明日からの練習は覚悟ちょけよ」

「何ぃ」

「ええっ」

「なんでだよ」

 選手たち全員が悲痛な声を上げる。最近の熊田の練習はただでさえ強度が上がり、選手たちは疲弊していた。しかも、季節も夏に近づき、気温もぐんぐん上がっている。ただでさえしんどい季節だった。

「ふざけんな、コラッ。これ以上厳しくしたら死ぬだろ」

 野田が叫ぶ。

「死ね」

 熊田は言い切った。

「無茶苦茶な・・汗」

 さすがに熊田信奉者のたかしも呟く。

「おまんらは一回死ね。死んでその性根を叩き治して来い」

「人間は死んだら生き返らねぇんだよ」

 仲田が正論で言い返す。

「根性があればなんとかなる」

「なるか」

「・・・汗」

 繭はその脇で困惑する。子どものケンカだった。

「おまんらがわしを尊敬するまで徹底的に叩きのめしてやる」

「一生するか」

「ていうか叩きのめすって・・汗」

 かおりもそのやり取りを聞きながら困惑している。コーチが選手にすることとして普通におかしい。

「ちょっと勝ったくらいで、ものの見事に調子に乗りおって、おまんらはほんまどうしようもない奴らじゃ」

 熊田は、浮かれる選手たちがどうしようもなく気に入らないらしい。

「何で勝ってんのに怒られなきゃいけねぇんだよ」

 野田が言い返す。

「お前らにはほとほとあきれ果てたわい」

「だからなんでだよ」

 そして、噛み合わない子どものケンカが、金城のベンチ前で、その後も延々続いていくのだった。

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