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戌と亥

作者: 湖月もか

勢いだけで書きました。

年越しでふと思いついたネタです。

私は戌だ。

比喩でもなんでもなく、戌だ。

そんな私はもうすぐ干支の年を迎えようとしている。

滞りなく、次の(いのしし)へ干支を渡せる。


--はずだった。




「やだ」


突然それだけ告げた亥が来年の干支をやりたくないと言い出した。


「そう言っても、来年は君の年だよ」

「やだったらやだ」

「でもさ、もう決まってることだから……しょうがないよ」

「…………それでも、やだ」


理由になっていない。先程から亥(いのしし)(いのしし)は明確な理由を言わない。時折開いた口から出てくる単語は『やだ』の一言。


「……はあ、君さあ。そんな頑なにやりたくないのはなんで?つい数週間前まで頑張るってやる気になってたじゃない」

「…………いいたくない」


始終この様子で取り付く島もない。


「まあまあ。大晦日まではあと4日あるからさ……亥もゆっくり考え直してよ、ね?その間やりたくない理由とか聞かないから。……もし、万が一にでも言いたくなったら僕らに言って」


干支の中でもおっとりとした(ひつじ)が諭すようにいう。


君はそう言うけど、あと4日(・・)しかないんだよ?それでは問題の先送りになってるだけで解決ではないよ。


なんて、私には言えなかった。


そのまま、この会議は解散となった。当人以外はあまり興味が無いように自分達のねぐらへと帰っていく。


そして、ここには私と亥だけが残る。


「君が来年の干支をしてくれないと、困るんだよ?……ねえ、どうして?」

「やなんだもん」


再度問うてみたところで、答えは同じだった。

溜息が出そうになるが堪える。ここで機嫌を損ねてしまうと、本当にこのまま来年を迎えてしまう。


それだけは避けねばならない。

どうにかして亥を説得せねばと思案する。


そんな私は、もうすぐ交代を迎える。

十二年後には、私の子供が干支を務めるだろう。そして、かの亥は今年--つまりは私の年だ--代替わりしたばかりの所謂新人だ。


初めての干支で、ワクワクしながらもその瞳を輝かせてやる気に満ちていた。

それもつい数週間前までは。


* * * * *


()(うし)、寅、卯、辰、巳、(うま)、未、(さる)(とり)、戌、亥

私達は十二匹で年を回している。

それぞれの種により任期は当然異なってくる。


昨年のちょうど今頃だ。

私は酉から干支を受け継いだ。毎年毎年同じようにして、皆で干支を回している。

だからこそ、例外など無く。干支の回る順番も決まっているから次の年と交換など出来るはずもない事なのだ。


どうやって、亥を諭そうかと考えていた。

時は待ってなどくれない。日々過ぎ去っていき直ぐに大晦日になってしまう。そして、来年に。


「ねえ、戌。戌の年が延びれば君は居なくならない?」


先程まで頑なにこちらと目を合わせなかった亥が私に話しかけてきた。


「……それは、無理かな。私もね、もう交代の時期なんだよ。いずれどの種にも訪れる事で……致し方のない事だ」

「…………そっか」


私の自惚れでなければ、『戌が居なくなるのが寂しい』そういう事だろう。

だから亥は戌の年を延ばすことで()の代替わりを阻止しようとしている。


「ねえ、戌は来年亥にならないと困る?」

「そうだね、困る。……来年はもう一人の子供が主役なんだ。私は楽しみだったんだよ、君の活躍を」


我が子のようにと接してきた亥。当然あちらの方が身体は大きいが、私にとっては我が子だ。

子供の活躍を喜ばない親などいやしない。

つまりはそういう事だ。


それに、私は亥に交代してすぐに代替わりするとは一言も言ってない。

代替わりするのはその次の年である子の年に行う予定だ。


「そっか……そっか。……じゃあ頑張るね、僕。親にかっこいい姿見せたいもん」

「そうだね、頼むよ」

「うん。見ててね!」


そうして、大晦日を迎え、無事に亥へ干支を渡すことができた。

その時の亥は騒動の数週間前と同じように、ワクワクと不安の混じった。でもキラキラと輝く瞳をしていた。



ちょっとしたなんとも間抜けな騒動だったが、単に早とちりした亥がそのまま突き進んでしまったが為に起きた事だ。

習性だから仕方ない。


亥は【亥突猛進(ちょとつもうしん)】だからね。

読んでいただきありがとうございます!

今日だからこそ意味のある話でした。

特に性別は決めてないです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと現代寄りな口調で描かれた戌と亥の話。千支の化身たちも、現代なら現代風に寄るのでしょう。 [気になる点] 当の亥は実際のところ、最後どう思って交代を受け入れたのか。 [一言] 過去に…
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