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97 前世の恋を思い出しました

『セレ、溶岩はこれで十分だ』


そこにどのような過程でたどり着くかはわからないけれど、直接対決が現実的になり、アスに徹底的に火魔法を鍛えてもらう。


「どうして?アスみたいに豪快に流してみたい」

『前回は砂漠だったから良かった。あれをここでやれば森が死ぬ。そもそも溶岩は上から下に流れるもの。我のように飛べぬ限り、常に使えるわけではない』

「じゃあ、火焔をもっと鍛える?」

『当面はそうだな』


火焔は基本手のひらから放つ。空一面に氷を浮かべられたとき、両手だけじゃ追いつかない。オリビエギルド長のように全身から放射する?でもそれでは隙が出来るし、何よりあのビジュアル……攻撃でも優雅さを求めるおばあさまがキレること間違いなしだ。


氷を瞬時に、広範囲に溶かしたい……あ、前世のあれは使えるかも? でもこれはミユたん案件だな。

「アス、ミユと連絡取りたいんだけど、どうすればいい?」


『ふむ。自分の魔力の流れを意識しろ。そして眼を閉じ、ミユの体内の……』


結界に何かかかった。私とアスは目配せする。この気配は……警戒を解く。


「アス様、姫様、陛下がお呼びでございます」

副官自ら来るとは珍しい。そういえばアーサーっていつから私を姫呼びになった?やっぱ腕相撲マウンティング?効くな!アーサーはじめガレの皆さんはアスのことを霊鳥様と呼んでいたけれど、私達の様子を観察している()()()人々はアス様と呼ぶようになりつつある。


「なんかあったの? アーサーが迎えに来るなんて」

「いえ……私が自ら手を挙げました。姫様の修行の一端でも拝見できれば……と」

ふーん。

「着替える時間はある?」

『セレ、無くても着替えろ!それはダメだ』

あ、〈忍び装束グレー〉でした。


「じゃあ、一旦帰って、皇宮行くね。散!」


私はタンッ!と宵宮に向かって跳躍した。アスはギレンの元に直接飛び去る。


「ありえないー!待ってー!」


アーサーの声がはるか後ろからこだまする……




◇◇◇




ギレンの執務室にアーサーの案内でルーとサカキさんと入る。

室内にはギレンと当然到着しているアス、そしてリグイド。


「セレフィオーネ様、その……お姿は?」

リグイドが珍しく戸惑っている。いいものを見た。


「アーサーのお下がり。婚約披露も済んだし、もう公の場に出ることないからドレス必要ないでしょ? 離宮では手持ちの柔らかい綿のドレス着てるけど、学生時代もマルシュでもパンツスタイルだったからこれがラク。でもガレの仕立て屋知らないし。で、アーサーの少年時代の服持ってきてもらったらピッタリだった! 節約節約!」

戦闘準備だー!コガネ貯めとけー!


私はアーサーにもらった古着にブーツで参内した。古着と言っても侯爵家。総シルクの白シャツに黒のパンツ。どっちもシャキッとしてる。アーサー数回しか着てないんじゃないの?で、髪は三つ編み一本だ。


「アーーーサーーー!」

「私はお止めしましたっ! 稽古着くれって言うからお渡ししたのに! まさか皇宮に私の10歳当時の服でお上がりになるとは!」


「サカキーー!」

「私はマルシュ時代より見慣れてますんで。」

サカキさんが肩をすくめる。


「別にいいじゃん、馴染みのメンバーだし。てか、アーサーの10歳の服なの?何気に腹たつ!そうそうこの格好なら前回みたいに不意に襲われても対処しやすいでしょー!」

私は婚約披露でリグイドに洗礼を受けてから、このメンバーに敬語で話すのをヤメマシタ。それを咎められることもない。ガレは強けりゃいいのだ。


私がリグイドを見て右眉を上げるとリグイドは苦笑した。

「姫様、明日にでもガレの仕立て屋に私自らお供致しますのでご覚悟を。はあ、では陛下、私の方から話を進めてよろしいですか?」


「いや…………セレ、ジュドールのガードナー第二王子が私とセレに面会を求めてきた」


へ?


「……要件は?」

「両国の親善のため、だそうだ」



「なぜギレンだけでなく、私まで?」

「ジュドール出身で輿入れする令嬢に記念品を下賜……だったか?」


かなりの無理矢理感……ガードナー王子、必死ですか。


「宰相閣下はどうご覧になって?」

「まあ、支援要請でしょうな。第1王子との差は大きく開いていたように見えていたがいつのまにか拮抗していた。ガレと姫様に後ろだてになって欲しいのでしょう」


私のあらまし……ジュドールの王位継承争いでシュナイダー殿下に組みしなかった故に殺されかけて、マルシュに逃げていたことは特権階級層では既に暗黙の了解なのね……


「ところで姫様、ガードナー王子は姫様と西の四天様の絆をご存知なのですか?」


「いいえ」


「知っていて国外に出したのならよほどの愚か者と思いましたが、知らぬなら知らぬで救いようのない阿呆ですな。ははは」


ジュドール王家の皆さーん。笑われてますよー!


ジュドールでギレンは私とルーを見つけた。ほんの一時(いっとき)で。

ガードナー王子は自らの鍛錬を怠ったゆえに同国にいた私とルーを見逃した。それは確かに怠慢だ。まあ私が逃げ回ったせいでもあるんだけれど。

でもシュナイダー殿下はちゃんと私を見つけてくれちゃったわけで……




ガードナー殿下……


前世で殿下は私の太陽だった。幼い頃は手を繋いで遊んだ。私に花かんむりをかぶせ、頰にキスしてくれた。小さな恋に落ちた。

『ぼくのセレフィオーネ、ずっといっしょにいようね』


共に学院に入っても互いに時間を作り、魔法士団に赴き魔法を鍛えてもらい、変装して民の暮らしぶりを見に行き、未来のジュドールのあり方を真剣に議論した。

『セレフィオーネ、大好きだよ。君と一緒なら頑張れる』

心から愛した。


マリベル……


マリベルの登場で、私とガードナー殿下が二人で行動することはなくなった。魔法を極めるのも一人、街に降りて民の不満を仕入れるのも一人、ジュドールのあり方の意見を書いて送っては、読まずに破り捨てられた。


そして戦争が始まり……断罪。


『君は王家にふさわしくない!』

『セレフィオーネ、君にはがっかりしたよ。婚約など解消だ!』

『血まみれの君と、正しい国造りができるとは思えない。私はマリベルと、誰もが幸せになる国を作るのだ』


弁明も許されなかった。

ためらいもなく裏切られ、心が壊れた。


『君にはとことん失望した。死ぬまでここで魔力を我が国に差し出して償え』

魔力を吸い取られ、干からびて死んだ。その刑を科したのはガードナー殿下。

ガードナー殿下の手でゆっくりと殺された。





『セレ‼︎』


ハッと現実に戻る。ルーが私を覗き込む。

「……ごめん」

『いや、感情の乱れ、よく隠していたよ。リグイド達にはただ熟考していたようにしか見えていないだろう。ただ、身内はごまかせない』


顔をあげるとギレンは僅かに眉間にシワを寄せ私をじっと見つめ、アスは首をかしげ切なげに微笑んでいた。



「宰相閣下、あなたの解答は?」

「お会いになるべきかと。第1王子については陛下経由で情報を得ておりますが、第2王子については判断材料が少なすぎる。果たしてただのバカなのか?本物の馬鹿なのか?」


結局馬鹿決定してるじゃん……


ガードナー殿下との対面、平気でいられるわけがない。でも第三者の、曲者宰相の意見に従ったほうがいい。


それに、今回私は一人ではないのだ。

「陛下」

私はギレンに頷いた。


「アーサー、遣いを出せ。余計な事は書くな。「面会に応じる」、それだけだ」

「はっ!」





「時にセレ」

「はい」

「俺の前で、他の男のものを身につけるのは感心しないな?」

「あ………」

とおーい昔、同じ注意を受けたよーなー……


「ひっ!陛下!お許しを!」

アーサーがギレンの殺気に床にひれ伏す。

「ほっほっ。そうでありましょう。そうでありましょう!」

リグイドめ!


私はギレンに首ねっこ掴まれて退場した。そのまま仕立て屋さんが来るまで皇帝の私室で、お下がりを脱がされ、毛布で()()()状態で転がされた……

私の聖獣は床を前脚でバンバン叩いて大ウケするだけで、全く役にたたなかった。



「セレ」

「ふあーい」

「これ以上に俺の魔力でぐるぐる巻きにして、何者からも守ってやる。安心しろ」






次回更新は週末予定です。

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