95 ジュドールの様子を知りました
「シュナイダー殿下はガードナー殿下と王位争いをするために、セレフィオーネを取り込みたかった。それが今回の騒動のそもそものキッカケだよね」
「はい。王家の様子はどうなっているのでしょう?」
「うーん、ちょっとおかしなことになった。まず、ガードナー王子はマリベルにうつつを抜かし、ロクに自己研鑽もせず、次期王としての資質を高位の貴族たちは疑問視するようになり、王妃様はかなりお怒りだった……というのがセレフィオーネがまだジュドールにいた頃の状況だよね?」
……そうなの?不勉強で知らんかった。セシルの情報だけだったからなあ。まあ想像はつくけれど。っていうか、お兄様!
「お兄様、マリベルをご存知なのですか?」
「ああ、父上から重要なファクターだと聞いている」
「ま、まさか、お会いになったの?」
「いや、直接会わないと誓わされた。父上もそうだと。ルー様のご命令だと聞いている。私にも事情を教えて頂きたいところですが……」
『いずれ、な』
「期待しています。で、現在なのだが……シュナイダー殿下とそのマリベル嬢が行動を共にしている」
『「はいいい?」』
「先日の舞踏会ではダンスも踊られ、皆に仲睦まじい様子を見せつけられた」
「が、ガードナー殿下は?」
「当然御怒りになり、猛抗議をした。しかし、そもそも鍛錬を怠けている上に、先程の話で知った北の四天様を手に入れているシュナイダー殿下に敵うはずもない。あっさり言い負けた」
ガードナー様、決して弱くはないしバカでもないんだけど、周りがヨイショする人間ばかりだから成長しないんだよね……
「そうそう、マリベルの迷言が話題になってるよ。『お願い!私のために争わないで!この美味しい隠しイベント、どっちエンドが正解?同じ王子ならやっぱイケメンか!』と言ったとか言わないとか。意味がわからない」
いっそ……すがすがしいよマリベル……
「王妃様は?」
「王妃様はガードナー王子がマリベルと離れたことを歓迎している。ただシュナイダー殿下の意図が読めないために警戒しているね。この中で一番シュナイダー殿下を知るのはセレフィオーネだ。この状況、どう推察する?」
シュナイダー殿下……そう来たか……
私は慎重に、言葉を選びながら、口にする。
「シュナイダー殿下が王位を欲するのは自分とお母上様が生き延びるためと、これまでの仕打ちへの報復です。そのため、王妃様とガードナーを討つことが唯一の目的であり、誰と組むかは二の次なのだと。私やグランゼウス、そしてトランドルを取り込むのに失敗し、味方であった軍はトランドル派が抜けて足腰ボロボロ。魔法師団は王妃様がまとめあげている。残った戦力としてマリベルにラブコールしたのだと」
そこにラブは無さそうだけど。
「マリベル一人で戦局が変わるのか?おばあさまの話では恐るるに足りないとおっしゃっていた」
「正直、シュナイダー殿下とタール様だけで、王位は獲れると思います。私達が傍観者であるのなら。マリベルは保険の意味合いが強いかと。ですがマリベルは……摩訶不思議な力を持っているのです。運を手繰り寄せるというか……物事を優位に動かすというか……」
「よくわからないな」
「……かつて、マリベルと遭遇したとき、マリベルはルーを欲しがりました。するとルーは自分の意思に反して、マリベルの元に赴こうとしました」
「……精神を操るのか?」
「どう言えばいいのか……ただ、ここぞという時の力はルーを思うまま動かすほどに強いのです」
アニキが呆然とルーを見つめる。ルーが静かに頷く。
「なるほど……私も操られるということですね」
『その因子がある、と言っておこう。あの女に軽率に近づくな』
ここまで聞き役に徹していたギレンが口を開いた。
「王はどうしている?」
「王は……立場をはっきりさせるつもりはないようです。豪傑な先王と比べられ投げやりと言いますか、厭世的と言いますか、王であること以外に関心をお持ちでないようです」
私は今世で王を見たことがない。パパンすら大臣任命の時以来お会いしていないらしい。宰相と王妃と大臣に政務丸投げし、趣味にでも生きてるのかな。
前世、出陣式で、『今こそそなたの魔力を使うとき。殲滅してまいれ』と賜った。王命、深く頭を下げた。
今回は内戦だから、声明出さないの?息子を選べない?それとも無関心?
「どうなんだ?すぐにも内戦が始まりそうなのか?」
「いえ、キッカケ待ちでしょうか?仮にガードナー王子が何か不祥事を起こしたら、直ぐにもシュナイダー殿下はそこを突いて仕掛けてくるでしょうが。
この度、セレフィオーネが賊に襲われたが生きていたという情報がジュドールにも入りました。ある意味シュナイダー殿下の禊が済んだ形になりましたので、動きがあるかもしれません」
「衝突させて、双方戦力を削いでもらうか?」
「そうなれば一番有難い流れです。その間、どれだけグランゼウスは体力を落とさず乗り切るか?収束に向かったときに、こちらの言い分をどれだけ通せるかがカギだと思っております」
「……決まりだな。焚き付けてしばらくは様子見ということだ。出番になればいくらでも力になろう。我が婚約者の里のためだからな」
アニキは眉間にシワを寄せ、唐突に私を引き寄せ膝の上に乗せ、頰にチュッした!うおおい!
「…………その件ですが、先日、婚約披露まで行ったとお聞きしました。陛下と我が妹の婚約は仮初めのものではないのですか?シュナイダーを欺くための目くらましでは?」
ギレンがピクリと片眉を上げる。
「いや、真剣そのものだ。今後は私が生涯セレフィオーネを守りきるので、ご安心を、義兄上?」
「いやいや、非常事態だったとは言え、当主に挨拶もなく婚約披露をするなどいささか拙速では?せめて親書の一通でもお送りくださり了承を得なくては?」
「私は既に10年前に妻乞いを済ませている。一貫して変わらぬ我が心を褒めてもらいたいものだ」
「セレフィオーネ、納得しているのかい?こんな強引で、年の離れた男と婚約だなんて」
「お、お兄様!陛下ですよ!口が過ぎます!」
「最愛の妹を託せる相手かどうか、見定めるのは当たり前の仕事だよ。私の言葉遣いごときで癇癪を起こすような小さな器の男にはセレフィオーネは預けられないね」
「セレにふさわしい器となるべく、これでも研鑽を重ねてきたのだが……よろしければ、試されるか?義兄上?」
「そうですか。それは是非お見せいただきたいですね」
「では、少し、ご足労願えますか?義兄上?」
「望むところです。はっはっは!」
「ふっふっふ。」
二人が一瞬で消えた。
「……何あれ?」
『……親交を深める儀式のようなものだ。セレ、気にするな』
コブシを合わせたら全て分かり合える的な発想?少年ジャ◯プか!
『ほっとけ!ややっ!ラルーザのマジックルームにマツキのケーキ発見!セレ、お茶おかわり!』
人のマジックルームを開けるのって、犯罪だと思うよ?ルー……