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94 お兄様と再会しました

子供達は縄跳びを再開した。


アーサーが何事かと走ってやってきて、泣きながら兄に抱きしめられている私を見て凍りついた。兄だよ、と、くぐもった声で伝えると、アニキの顔をジッと見て、ウンウンと頷いて下がっていった。


私たちも元々のベンチに落ち着く。


種を明かせば、私が子供らの前で伝達魔法を展開したときに、ルーがお兄様宛の前回出せなかった手紙を混ぜ込んだのだ。いつのまに回収していたんだ?


「ルー様、久方ぶりにご尊顔を拝し、恐悦至極でございます。そして、今回のご配慮大変ありがたく……ルー様が動かなければ、我らは当分セレフィオーネに会えることはなかったでありましょう。ご英断、感謝しかありません」


『うむ。ラルーザ……逞しくなったな』

ルーはポンポンとアニキの頭を叩く。アニキ破顔!


私はあいも変わらず乗せられている膝の上からアニキを改めて見上げる。

アニキは一目見ただけでパワーアップしていた。今まで展開していた高速移動の魔法?の影響か、隠すつもりもないのか、かつてない量の魔力を垂れ流している。もう押しも押されもせぬ魔のグランゼウス次期伯爵だ。白シャツに黒いパンツ姿は領地にて働いているときのもの。前回の無精ひげは剃られているものの、髪が伸びてるのは相変わらずで、一つにまとめられている……私の黒いリボンで。


「セレフィオーネがガレに入国したのはわかっていたけれど、セレフィオーネに迎える準備が出来ていなければ押しかけられないからね。セレフィオーネを窮地に立たせるなど本意ではない。セレフィオーネが呼んでくれて初めて居場所が特定できて……憂いなく抱きしめることができる」


私を後ろから抱きしめ、頰をすり寄せる。久しぶりで気恥ずかしいけれど……嬉しい。


「お兄様、此度呼び出したことで、何か障りはない?私、面倒ばっかり起こしてる」


「何を馬鹿なことを……セレフィオーネ、ごめん、ごめんね。肝心な時に私はセレフィオーネを守ることができなかった……あの日……母に固く誓ったのに!!!」


「違う!私こそ、ごめんなさい。心配ばかりかけて!お兄様、ホントにホントに大丈夫なの?勝手にガレに来て?ああ違う!私が王族に歯向かって、出奔なんかしたから、みんなに迷惑を……」


「セレフィオーネ!!私と父上、そして我らの領民全て、君の不幸の上になりたつ平安の上でのうのうと生きていこうというものなどいないんだよ」


お父様……我が誇るべき北国の民……


「大丈夫、誰にもつけられていない。私が密入国得意なのは知ってるだろう?」

アニキがウインクする。軽い。私を心配させないためだ。


「お兄様、あの、あの、私がいなくなって……」


話の途中で大きな風がこちらに向かっているのがわかった。


ザン!大風の渦から翼を広げたアスとギレンが現れた。


「……グランゼウスか……そうか」

ギレンがあからさまにホッとした顔をした。珍しい。


アニキが私を脇に下ろし、地面に膝をつく。

「アス様、お久しぶりでございます。そして皇帝陛下、我が最愛の妹を保護してくださりありがとうございます。お二方のお陰で、再びセレフィオーネにまみえることができました」


『ふふ、ラルーザ、安心したであろう』

私が通訳すると更に平伏するアニキ。まあ、共に育ったルーとは対応違うよね。


「……セレのことは私のためにしたこと、貴君に礼を言われることでもない。……色々と互いに聞きたいことがある。場所を変えよう」




◇◇◇




私の仮住まいの宮殿に全員集合した。

ところでこの離宮、宵闇の宮、宵宮と最近、呼ばれているらしい。すっごい薄暗い感じ……表に全く出ないから妙なイメージ膨らませちゃったか……。



元からの防御魔法に更に念を入れて、離宮中に防音、防視魔法を重ねがけする。そしてギレンとアスに上座に座ってもらい、その対面にアニキとルーと私。久しぶりにお兄様にお茶を淹れるのは、ちょっと緊張した。



「セレフィオーネ、おばあさまと聖女から大体の話は聞いている」

お兄様の話を聞いてみると、おおよそ事実を把握していた。


「しかし……なぜ、ルー様とアス様とセレフィオーネが揃っていて、あの王子一人に深手を負わされたのだ?アス様、ルー様、不敬な言いようでありましたならお許しください」


私はルーに目配せをするとルーがコクンと頷く。


「お兄様、シュナイダー殿下こそが北の四天、タール様を〈使役〉されていたのです。陛下とアスと違い、完全に屈服させた、自我を殺した〈使役〉」


アニキが天を仰ぐ。

「…………北の四天様の暴走だったというわけか……」

「いえ、殿下も強かったの。そして私は弱かった」


「セレフィオーネ……」


「お兄様、私が出奔してからの、お兄様とお父様とおばあさまのご様子をお聞かせください」





「そうだね……セレフィオーネが騎士学校で将軍閣下の手引きで現れたシュナイダー殿下に襲われ、姿を消したことは、その日のうちにトランドルから連絡があった。私はすぐに旅先から父上の元に合流した。

その後、セレフィオーネからも他からもセレフィオーネの行方はいっこうに知らされない。緊急事態が発生したのだと、そしてかねてよりの打ち合わせ通り、セレフィオーネは身を隠したと父上は判断した」


あの波乱の幕開けを思い出す。


「父上はすぐさま騎士学校に奇襲をかけた。先手必勝だからね。セレフィオーネをすぐさま帰すように迫った。娘に何かあったことは、グランゼウスの魔力を持ってすればわかるのだとハッタリかましてね。

学校は生徒を預かっている以上、生徒の全てに責任を持たねばならない。たとえそれが未熟な生徒が王族に対して起こした不祥事であっても、それは学校の監督不行き届きであり、未成年の生徒が部外者から怪我を負わされるなど責任問題。まして行方知れずなど。セレフィオーネが学校で教師より強かろうと関係ない。セレフィオーネはあくまでか弱き生徒の一人という立場だ」


アニキは私の瞳を見つめ、理解を確認しつつ、続ける。


「学校側はセレフィオーネは急にいなくなった。何が起こったかわからないと言う。父上が、目撃者の話だと第1王子殿下とアベンジャー閣下に突如剣を抜かれたようだが、と揺さぶりをかける。すると校長はアベンジャー閣下に状況を確認したくて探しているが行方不明だと。

そして殿下に関しては後日、簡単な調査報告として、殿下は確かにお忍びで学校に視察にいらしたが、その日のうちに王子の宮殿に戻られている。セレフィオーネとは少し事実の確認をしただけだとおっしゃった、とあった」


あれが……少しの事実の確認ね……


「シュナイダー殿下がセレの不敬罪を理由に強気でウチに仕掛けてきたら戦うつもりだったけど、セレフィオーネとルー様と戦って、無傷なわけがない。すぐに戦争にはならないと踏んだ。ちなみに落ち着くまでの間、私は我が領民を守るべく、領に戻った。今も領地にいることが多いね。王都の父上と守りを分担している」


お兄様はもう旅を止められたのだ……


「そして現在にいたるまで、シュナイダー殿下はグランゼウスに対し沈黙を通している。私は深い考えなどなくただ事態の鎮静化を待ってるだけのように思えるね。

騎士学校は生徒一人を行方不明にさせたことを肝心の将軍がいないことを理由にとうとう回答を出せず、セレフィオーネの籍はそのまま。しかし人の口に戸は立てられない。当時の在校生によって王子と将軍と魔法師にセレフィオーネがたった一人襲われた様子は瞬く間に広まった。安全な学校にいながらいなくなった娘を血眼になって探す父親グランゼウス伯爵。グランゼウスは完全に被害者であるという印象を、国内中に植えつけた。公爵クラスから見舞いの手紙が届く。王子であっても簡単に覆せない世論。まあ全て事実だからね。説得力もあるさ。ゆえに当面グランゼウスに心配はない」


世論を味方につけたお父様。貴族にも容赦なく平等に課税し財産を取り上げる財務大臣はその厳しさゆえにそもそも民に人気がある。パパン、パパン、流石です。





「お兄様、あの、アベンジャー閣下の行方不明って……?」


「…………事件後直ぐにお祖母様の草が捕まえて、お祖母様自ら半殺しにした。そして、王子の宮殿に放り込んだってさ。馬鹿な男だ。その後は知らん」


『……だよな』


ルーのつぶやきを聞き、私は深く息を吐き目を閉じた。

おばあさまとの約束破ったらそうなること、赤子でもわかる……


閣下のこと、こうなった今も憎めない。でも、人の上に立っちゃいけない器量の人だった。

憎めないけど……同情もしない。




おばあさま、閣下相手に厳しくも……気を許しているように見えた。旧知の間柄だったのだ。

私のために、また、手を汚した。


おばあさまは本当に強い。

おばあさま……ごめんなさい。






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[良い点] 転生者が3人以上になるとだいたいの作品では3人いる意味を描き切れない印象だが、この作品は3人それぞれの役割がしっかりしていると思う その他周りを取り巻く人々も魅力的だし主人公のファンたちの…
[一言] お優しい事で・・・
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