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93 業務部長になりました

ニルバ孤児院のマドレーヌはガレの心優しい御婦人たちの柔らかなハートをくすぐり爆発的なヒットになった。常温での賞味期限が二ヶ月ということで遠方への贈り物としても使われている。


ということで、ニルバ孤児院ブランドスイーツ第二弾、抹茶マドレーヌを開発!小麦粉チコっと減らして抹茶入れただけなんだけどね。マルシュの抹茶を使うことで、両国間の友好をガレの皆さんにもアピールよ!


さはさりながら、生産調整も行います。バカみたいに出回るのは良くない。子供達が頑張って作れる分だけ作ってますというポーズが重要なのだ。なので毎朝孤児院には長蛇の列。


週に一度、厨房、バックヤード、店頭と私はアーサーとともに歩き回る。子供達の働きっぷりと、成長具合を確かめて、子供達に緊張感を与えつつ、客に、仕入れ元に、商売敵にプレッシャーをかける。文句をいうと怪我するような立場の人間がバックについてますよーってね。


「セレフィぎょうむぶちょう、アーサーしゃちょう、今日のお味はいかがですか?」

厨房の女の子が味見する私達を不安げに見上げる。


「とっても美味しいよ」

社長アーサーが微笑み女子顔真っ赤!でも業務部長はそうはいきません!


「ターニャ、味は安定してる。でも端のほうの焼き色にムラがありすぎるわ。オーブン温度の調節がうまくいってないんじゃない?」


「ニルスが今日風邪ひいてて、代わりにコリンがオーブンに入ってるんですけど、コリンは火魔法がニルスほどうまくなくて……」


「コリンに仕事終わったら私のところに来るように言って。魔法の練度確認するから」




「姫、あれくらいのムラ、気にならないよ。厳しすぎる」

「アーサー、慈善は飽きるのよ、いずれ。……本当に商品としての体が出来上がってないと、一過性のものになってしまうわ」

「…………そうか」




◇◇◇




型くずれして売り物にならないマドレーヌをもらって孤児院の中庭に行くと、孤児院保全担当の子供たちが洗濯をしながら小さな子を遊ばせていた。


「ぎょうむぶちょー!」

チビッコたちに取り囲まれる。世話をしていた二人が慌ててこちらに来ようとしたが、目で仕事を続けるように合図する。


「みんな〜マドレーヌ食べる〜?」

「「「飽きたー!」」」


だよね……君らは毎日だもん。週イチの私はベンチに腰を下ろし、ルーと仲良くつまむ。個人的にはちょっと焦げた方が好き。


子供達には森の夏ミカンの寒天を配る。スッパイスッパイと言いながら幸せそうに頬張る。テングサはガレの海で『ミユたーん、かもーん!』と祈ってサクッと採取。栄養はないけれど東の四天様の慈愛がたっぷり!

皆、健やかに大きくなって。


子供達が縄を持ってやってきた。初めてきた時に縄跳びを教えたのだ。私はベンチに座ったままもう一人の男の子と縄を回すと、子供達が輪の中をぴょんぴょんぴょんと飛んでいく。


「よーし、今から3分よ。目指せ新記録!目標200回!スタート!」


『なぜ……縄跳びに子供らはここまで燃えるのだ?』

「子供だからでしょ?」


体力を使い果たした子供達は一気に大人しくなり、私の周りに座り込む。

「ぶちょー、魔法見せてくださーい」

「わあ!見たーい!」


「そお?」


私は表舞台に戻ると同時に魔法の隠蔽をすっぱりやめた。シュナイダー殿下に魔法を辿られるのを恐れたわけだが、私がガレにいることは十中八九バレていて、もう意味がない。まして、今更魔法学院にスカウトされるわけもない。完全に別の段階だ。


子どもに何がウケるのか、イマイチわからない。とりあえず、土魔法で手のひらを作り、地面から這い出させ、パーグーパーグーと動かしてみる。前世の国民的RPGのモンスターを真似て見ました!どや?間違いなかろ?



「え……」

「ビミョー……」

「うう、うわーん!」


おおう!クオリティが低すぎたみたい。では次は赤いやつにしてみよう。

『セレ、ハンドから離れろ!誰もついてきてない!』

なぬ?


「もっと可愛いのにしてー!」

「ことりさんがいいー」

「ちょうちょがいいー」


土魔法、結構難易度高かったのに……伝令ちょうちょでいいんかい!


私は手持ちの紙数枚に魔力を通し伝達魔法をかける。蝶々が私の手元から羽ばたく。いつもは水色だけど、今回はそれに加えて白、ピンク、黄色、可愛くしてみた。



「「「わーーーあ!!!」」」


今度は子ども達が食いついた。よかった。正解だったみたい。



子ども達が蝶と追いかけっこをする。

「ルー、平和だね?」

『…………』


ルーは北の空かなたを眺めていた。


私はポケットからガラス玉を取り出して、太陽にかざす。

今日もキラキラだよ、ニック……







復活した子ども達は今度はおのおので縄跳び上達をはかる。むむ、キサマ、ハヤブサとはやるな……



突如、空が点滅した?見間違い?瞬きしてもう一度見る。青い空の中、一点ピカリと光る。点滅はドンドン近づいてきている。まさか……UFO?

この世界、ファンタジーと思ってたけど、まさかのSF?ヤバイ、攫われる?UFOに連れ込まれたら血を抜かれるって聞いたことある!人体実験される?子供達を逃がした方がいい?


私は魔力をマックスに上げる。


『セレ、落ち着け!』


マジで?来た!

「みんな!伏せなさい!!!」

子供達全員に防御魔法!クソッ!ギレンにバリア習っとけば良かった!





まばゆい光球が目の前に落ちる。地面に着くやいなや音もなく瞬間に光は消えた。













「…………どうして?」

「セレフィオーネが昔教えてくれたんだよ。光速、光が一番速いと。いつも光粒子に乗って移動してる」


馴染みの……大きな胸が私を包む。腕の中は私とソックリの魔力と、懐かしいグランゼウスのお日様の香りで充満していた。



「お兄様……」

「セレフィオーネ……大きくなったね」



アニキがニコッと微笑んだ。グリーンの瞳が潤んでいる。私もじっくりお顔を見たいのに……目に膜が張る。



「お兄、おにいさまーーーーああ……ああ……あ……」

お兄様の背中に手をまわし、生地をぎゅーっと掴む。私の何もかもをわかっているお兄様はただただ私を強く抱きしめて、私の頭に頰をのせた。それを私が望んでいると、わかっているから……








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