91 孤児院を慰問しました
婚約披露以来、付け届けや面会依頼が多い。プレゼント系は荷車でやってくる。前世のアイドルのバレンタインのようだ。
宝飾品がほとんどのようだが、私は一目も見ていない。もらうもらわないの区別をつけると後が大変そうだし、毒でも仕込まれていたら厄介だ。全てサカキさんとその仲間たちに確認のうえ謹んでお引き取り頂くか、返品に応じない場合は孤児院に寄付してもらっている。
面会も誰ともしていない。面倒くさい。ギレンもそれで構わないってさ。
「やっぱ、トランドルパワーかな」
おばあさま最強伝説はガレにも響いていた!
『まあ、複合的にセレに近づいて損はないと思ってるんだろう』
離宮の近くの森で、ルーとの修行の合間に、岩に腰掛け休憩する。
私の周りでは蝶が3羽ヒラヒラと漂っている。
『出さないのか?』
この水色の蝶は私のこしらえた伝達魔法。私が合図を出せばすぐにお父様とお兄様とおばあさま目掛けて羽ばたいていく。
でも……
「シュナイダー殿下に見つかったら……」
『構わないだろ。セレがガレにいることくらいとっくに掴んでいよう。盗み読まれても支障のない内容だろ?』
それはそうだけど、私が手紙を出したせいで、三人が酷い目にあったら?この手紙をきっかけに敵がここに入り込み、ガレに迷惑をかけたら?
私は魔力を流し、開いた手のひらに蝶を呼び、蝶は音もなく手紙に戻った。ただの紙きれのそれらは風に舞ってどこかに消えた。
『……オレが行ってもいいが、セレの側を離れて後悔したくない』
「私もルーと離れるの怖いよ」
どうすれば、私は安心できる?
私自身がこっそりジュドールに入り、誰にも気づかれず、お父様達に会って、誰にも気づかれず立ちさることができれば……
◇◇◇
「セレがジュドールに行くのであればオレも行こう」
言うと思った。
「ギレンはダメ。忙しいでしょ?」
「前回アスとルーとがついていながら傷だらけになったのだ。第1王子の近況がわからぬ今、相応の戦力を加えなければ安全が担保されない」
「見つからないことに賭けて、こっそりルーと行こうかと……」
「セレ!」
「…………」
「侮ってはならん」
わかってます。ちゃんとわかってます。わかってます……
「近いうちに時間を作る。もうしばらく待て」
私は首を振る。
「ギレン、いいの、いいの。ここまで良くしてもらってるのに、ギレンの公務の邪魔をこれ以上したくない」
「…………ではセレ、オレの苦手分野の手伝いをしてくれ。それでバーターだ」
「苦手分野なんてあるの?」
『セレ、ギレンは苦手分野ばかりだぞ?』
『ケーキが焼けぬ時点で契約者失格だ』
「ハイハイ、さりげない催促ありがとうございまーす」
チーズケーキに夏ミカンをスライスして載せたものを人数分配る。
「これは、ガレの夏ミカンだな」
「サカキさん、正解!森の奥の未踏の地に自生してたから、酸っぱいけど安全!」
「ガレのミカン……オレの国にも旬の果物などあったのだな」
ギレンが薄い黄色に光る果実をじっくり眺めて食べる。
今日はギレンの初夏ミカン記念日。どんだけゆとりなく味気ない人生送ってるのよ……
『爽やかだな!星4つだ』
星5つはマツキのケーキだそうだ。マツキの壁は高すぎて超えられない。超える予定もないよーだ。
◇◇◇
「みんな〜!キレイにおてて、洗ったかーい!」
「「「「「イエー!」」」」」
ギレンが私に持ってきた仕事は、孤児院の慰問だった。納得です。彼には無理だ。
あれこれ頂き物を回してきたから院長先生はじめスタッフの皆様も私に好意的。
でもね、女だからってみんながみんな子供大好き!子供扱い上手いって訳ではないのだ。誰もかれもササラさんのような天使ではない。
私は前世からの生を続けて考えるとアラフォー。子供のころの気持ちなんてとっくに忘れた。
今世も前世持ちだったために純粋な子供と言えなかったし、末娘だったから、可愛がられた経験はあっても、自分より幼い子供と遊んであげた経験などないのだ。
社交よりも、生きるための修行優先だった少女時代……悲惨。
だから、子供扱いするのは諦めた。彼らは……同士だ。
自分の力ではどうにもならない境遇に生まれ落ち、しなくてもいい苦労を背負っている同士。
「みんな〜!美味しいものいっぱい食べたいよね〜!」
「「「「「イエー!」」」」」
「ってことはお金いっぱい稼ぎたいよね〜!」
「「「「「いえー!」」」」」
「でも、クズみたいな大人に巻き上げられたくないよね〜!」
「「「「「イエーーーー!!!」」」」」
私が大人に見えないこと、大人になりきってないこと、それが彼らの信頼を獲るのに役立つ。仲間と認識される。
「せ、セレフィオーネ様!」
善良なシスターが目を白黒させてるけど……子供達はしっかり理解してる。目がギラギラだ。
「と、言うことで、いかに悪い大人に巻き上げられる隙を与えず、安定した儲けをはじき出すか、一緒に考えていこうと思います!協力するかーい!」
「「「「「いええええええぃ!!!」」」」」
「料理を身に付けたい子、挙手!」
「「「はいっ!」」」
「マツキ直伝のマドレーヌを伝授します。材料は当面私が持ってきます。卵割って!」
前世(日本のほうね)、修道院のマドレーヌがとっても人気があったのを思い出した。まあまあ美味しければ買うことで善行を施した気分になるので、財布の紐が緩むのだ。この商品のキモは私が森で取ってきたモチモチの実を入れるところ。モチモチの実をすりつぶして混ぜ込むと細菌の増殖を抑えられて日持ちするのだ。安定生産できるようになったら軍にも売り込もう。この子達には孤児院ブランドが無くとも売り物として通用する技術を身につけて、コックとして生きていけるように仕上げる。
「勉強頑張りたいもの挙手!」
「「「はい!」」」
この子達には会計を徹底的に教え込む。貸借表は二冊作り、週一で交互に私に提出させる。
将来商家で働ける程度に仕上げる。
「細かい作業が好きな子、挙手!」
「「「はい!」」」
この子達にはラッピングや店の保全、在庫管理に陳列を任せる。そうそう、ブランドロゴの判を作って丁寧に押印させよう。偽物が出回らないように。孤児院のマークとアスを向かい合わせて……アスから肖像権の許可は下りてますが何か?この子達にも商家の即戦力として就職させたい。
「自分のこと可愛いと思っている子、もしくはウソ泣きできる子、挙手!」
「「「はい!」」」
ズバリ、売り子だ。可愛く「ありがとうございます!」「また来てね!」「美味しい?」「もう一個買ってくれるの?」殺し文句と簡単な計算を身につけさせて、商家か役者を目指してもらおう。
「あ、あざとい……」
私の保護者として付いてきたアーサーがショックを受けている。おぼっちゃまめ!この孤児院はアーサーのニルバ侯爵領の管轄なのだ。
「最後に、今までどおり、静かな生活を送りたい子、挙手!」
「「は、はい………」」
「あなたたちには仲間が商売に邁進しているとき、ホームを守ってもらいます。ホームを清潔に保ち、小さい子の世話をし、管理する。やがて、貴族の屋敷のメイドになれるレベルに仕上げます!」
「「はい!」」
「いい?仕事に上下はない!みんなが全力を尽くした時、最善の結果が得られるからね!復唱!一人はみんなのために!みんなは一人のために!」
「「「「「一人はみんなのために!みんなは一人のために!」」」」」
これ、なんのパクリだっけ?あ、三獣士か。ルーとアスとミユでって違ーう!
次の更新は来週の月曜日になる予定です。
よろしくお願いします。




