9 対策会議を開きました
「セレフィオーネ、明日はいよいよ魔力検査だが……騎士になるという気持ちは変わってないね?」
夕食のあと、こぢんまりした談話室に移り、お父様が私に問いかける。
二人掛けのソファに私は安定のパパンの膝抱っこ。その私の膝にルー。そして隣に心配そうに眉間にシワを寄せて座るラルーザ。
「はい。この二年、少しは体力がついたものの、大した成果も出せていませんが、それでも騎士学校を目指す気持ちは変わりません」
結局、魔力検査前の時点で家に他人を入れて、ルーと私の秘密がバレる危険は冒せないということになって、外部の講師は雇わず、私は主に兄、そして休日のお父様から武術を指導してもらってきた。二人からの課題もうまくこなせなかったのだから、結局講師を雇うなんて時期尚早だったのだ。
「何言ってるの!セレフィオーネは十分素地が出来上がってるよ。うちの外周20周休憩なしで走ったあと、ナイフを的確に藁人形の首にザックリ深めに投げ入れて、そのあとまた外周10周走れるの、私の年でもそうそういない」
「え?お兄様、こんくらい誰でもできるって言ったじゃないですか?」
「セレフィオーネならできるって思ったんだ!」
ニッコリ微笑み私の頭を撫でる兄……やっぱね、なんかおかしいと思ってたよ。うちのお兄ちゃん、可愛がるだけの人じゃなかったんだわ……。ていうか、この課題、武術っていうより暗殺だよね?持たされる武具もあんちゃん特製手裏剣もどきだし……お兄ちゃん私をどこに向かわせてんの?
「そうか……しかし、セレフィーは魔力も膨大。検査の後は国に報告され当然魔法学院への入学が決定してしまう。どうしたもんかな……」
「魔力があっても例外的に強い意志で騎士学校を選ぶと言い切ることはできませんか?」
「法で決まっているわけではない。しかし、実質的には不可能だ。国は魔力持ちを魔法学院に入れて管理したいんだよ」
「お兄様も管理されてしまうのですか?」
「まあね。でもセレフィオーネ安心して。私も父上のようにいずれ管理する側に回ってみせるから」
かっけーーー!
「病弱設定はいかがでしょう?魔力持ちだけど、病弱だから学院に通えない、というのは?幸い私は社交に顔を出しておりませんし」
子供の世界でも一通り社交の場はあるようだが、我が家はお母様がいないため、働きかける役割を負うものがいない。でも私も兄も社交に必要性を感じておらず、父もそんな私たちに無理強いすることはない。ルーの秘密を漏らすわけにもいかんし、とにかくうちの家族三人は忙しすぎるのだ。それに子供のお茶会なんぞに参加したら、将来の敵に遭遇しちゃうかもしれんたい!
「セレフィオーネ、それだと騎士学校にも通えないよ」
「騎士学校の入学試験までには回復する設定です」
「もし魔力持ちの娘が病気だと知ったら、国が治癒魔法師を派遣するだろうね。それだけ魔力持ちというのは国力を左右する戦力なんだ」
三人であれこれヤイヤイ解決策を考えていると、クッキーをうまうま食べていたルーが顔を上げた。
『魔力検査、どういう手順なのだ?』
私が通訳すると、兄が、
「七年前の私のときは平たい石版に両手を乗せて、魔力があると空に値が浮かび上がるというものでした」
『その装置に細工すればいいんじゃないのー?』
「ルー様、検査の場はそう広くもない何もない空間で、三人の国の魔法師に取り囲まれました。不正はなかなかに難しいかと……」
「建物自体が魔力無効のものだしね」
そーよね。これまで不正を行おうと思った人いたはずだよね。何が何でも魔力上級の裁定をもらって魔法学院行きたいって人。うちと真逆だけど。国の魔法師ってことはかなりのレベルの怖いオッサンに睨まれながら検査するんだね…………なかなか抜け穴が見当たらない。
でも、私は絶対魔法学院になんて行かない!どんな手段を取っても!
私は足首から手裏剣を取り出した。
「殺す?」
「ん?手伝うよ?かわいいセレフィオーネのためなら。」
兄も爽やかに笑って魔力を帯びた青光りするナイフをどっかの空間から取り出した。兄には私発案便利魔法、必要と言われたら教えてる。センスがいいからすぐ使いこなす。
「二人とも、落ち着きなさい」
「お父様、ご安心ください。刃は潰して睡眠薬仕込むだけですわ」
「睡眠薬?セレフィオーネ、ネネルの草どこで見つけたの?」
「お兄様、領地に戻ったとき裏の崖の中腹の裂け目にひっそりと群生しておりました」
「さすが私のセレフィオーネ、準備に抜かりないね!」
「二人とも……試験官に手を出すのは悪手だから!変な印象つけるだけだから!」
『石をどうにかすればいいんだよね?おれに任せてよ』
「ルー?」
「ルー様ならひっそりとあの石版を狂わせることができるのかもしれないね」
「……そうだね。聖獣様なら魔法無効の環境であっても我々の知らない方法でセレフィーの数値を0で出す方法をご存知かもしれない。そもそも騎士としてのセレフィーを望んでおられるのはルー様なのだから」
実はそういうわけでもない。
「でもルーも試験部屋に入れるのかしら?」
『大丈夫!オレに任せて!』
顔中にクッキーの粉付けたくって、胸張られても……ねえ?
人間三人は微妙な表情を隠せない……
ほかに解決策が見当たらず、ルー頼りで明日を迎えることになった。
食い意地張ったモフモフは緊張感なく腹出して私のベッドでスピスピ寝てる。
一抹の不安がよぎるのは…………しょうがないよね…………