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89 ガレに到着しました

調印式の翌日、私とルーはギレンの帰還に付き従い、慌ただしくマルシュを離れた。


タブチさんやヤマダくん、ヨーコさんに事情を話す暇すらなかったけれど、きっとタブチさんがうまく説明してくれるだろう。落ち着いたら手紙を書かなければ。


マルシュの港からガレの軍の大型の帆船でケルト大陸に戻る。


低気圧が来ているのか、時化る日が多く、船酔いにまいっていると、


『セレ、こういう時のミユ頼みだ!』


「ミユたーん!お願い!海を鎮めて!帆が折れちゃう!」



シューーン…………



真っ黒な雲が立ち込める中、海だけが凪いだ。


『ミユやるな』

「さすが東海王者!」


「ほうほう、セレフィオーネ様は天候すら操られるのか!いや、愉快愉快」

ハッと振り向くと、リグイドがニヤニヤと立っており、その後ろにはガレの重臣数人が真っ青な顔をして私を伺っていた。


「バケモノの嫁はバケモノってことか……」


誰かの声を耳が拾う。


バケモノ。前世でも言われたな。

ルーがグルっと唸り、私の肩から降りようとする。


「ルー、いいの。ギレンとお揃いなんて光栄だわ」


「おーい!フィオ、じゃなかった、姫ー!ヘーカがお呼びだー!」


サカキさんが船室から手を振り呼んでいる。


私は大股でそちらに向かった。





ケルト大陸の南に位置するのがガレ帝国。南東の大きな港にマルシュ出立から二週間で到着した。ジュドール王国はこの大陸の中央西に位置する。陸続きだ。


約二年ぶりの……里帰り。

おかえり、私。




◇◇◇




結局、ジュドールの情報がもっと集まるまでガレに逗留することになってしまった。


前世はギレンの傭兵として、今世はギレンの婚約者として。

この違いは、シナリオを外れていることになるのだろうか。シナリオの許容範囲なのだろうか。


前世では既にルーは去り、狭い兵舎に一人ぼっちだった。戦以外はベッドに腰掛け壁を眺めるだけの日々だったけれど心は既に麻痺していて、寂しさにも気づかなかった。

話し相手はギレンのみ、ジュドールの情報、戦況を語るついでに雑談も少々。


今世はギレンの住まう皇宮から少し離れた離宮に落ち着いた。ギレンは皇宮の一室を準備してくれていたが、わずらわしいので辞退した。離宮はしばらく使われておらず寂れていたが、ルーが他より空気が澄んでいるといったことが決め手になった。


古く傷んでいるがゆえに、ガレの生粋の貴族からその点で妬まれることもない。ギレンが護衛に見知ったサカキさんをつけてくれ、アスも毎日オヤツをタカリにくる。女官をつけるとリグイド宰相に言われたが間者かもしれないと思うと気が抜けないから!とハッキリ言って断った。宰相はさもありなんと笑ってアッサリ引き下がった。


ガレはジュドールよりも温暖な気候。過ごしやすい。隙間風も気にならない。てか、夏の今、暑い!

一見注目を浴びない離宮で、ルーと二人、姿を隠して素材を集め、アスに火魔法の手ほどきを受け、サカキさんが買ってきた食材で料理をし、夜、ギレンを迎え、みんなに振る舞う。


「……セレ、この青いドロドロの液体はなんだ?」

「森で摘んできた滋養強壮のモリモリ草と毒予防のキノコとバナナもどきで作ったスムージーです。これ飲んだらきっと目元のクマ取れますよ!ちゃんと鑑定したから大丈夫!味見はしてないけどね!」


「すむーじー……」

『ギレン、婚約者の愛だ。グッといけ!』

『ギレン、婚約者の責任だ。残してはならん!』


「ん?ルーもアスも欲しい?ハイ、どーぞ!」

『『…………』』

「ああ、サカキさんもね?どーぞ!」

「…………」



それでも、ギレンのクマが取れないときは、昔パパンにやっていたように、目元にキスして吸い取るおまじないをかける。指でさするでも同じ効果を得られないかと試したけれど、既にキスでおまじないが完成されてるのか変更不可だった……


ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、背に腹はかえられぬ。ギレンを過労死させるわけにはいかんのだ!


「どう?眼精疲労、消えた?」

「……ああ。お返しだ」

そう言って私を強く抱き込み、全身からギレンの魔力を浴びせられる。あまりの強さに当てられてコーヒー中毒になりそうなんだけど。


『まあ、マーキングだ』

「マーキング?」

『能力のあるやつならギレンの魔力に気がついて、セレに手を出せない』

「うーん、でもたまに集団で森で襲われるよ?」

『すまん、ガレも広い。恐ろしくバカもいる』


頻繁にギレンとアスの魔力を浴びることで、自分の魔力が底上げされているのを感じる。

ジュドールのときと同じくらい守られていることを肌で感じ、面映ゆい。





◇◇◇





「婚約披露パーティーですか?」


「ええ、皇帝陛下の御婚約は国の一番の慶事です。疎かにすると諸外国から舐められます。特別なことを言っているのではないことは、伯爵令嬢たるセレフィオーネ様なればお分かり頂けるでしょう?」


離宮を訪ねてきたリグイドが私の出した紅茶を飲みながらニコリと笑う。私の出すものに毒の心配などしていないらしい。


「ギレンによるガレの改革はまだ途上。国庫から余計な支出はしないほうがいいのでは?」

「金勘定に関しては私にお任せくださいませ。慶事とは上手くすれば経済活動を活発にし、大きく儲かるものにございます」


「そもそもギレンは形式にとらわれない。おべっかを使われるのを殊の外嫌う人よ?かえって招待客の心象を損ねるのではなくて?」


「そこは隣に立つセレフィオーネ様の手腕にかかっております。陛下の評判を上げるも落とすも」


ぐぐっ。やなヤツ!


「ギレン、ギレンの意見は?」

私は傍らで書類に目を通すギレンに声をかける。


「セレがイヤなら必要ない」


「陛下、まだ臣下の間ではセレフィオーネ様は幻の姫。一度姫を披露せねばこれまで同様うるさい羽虫が陛下に付きまといますぞ?逆もしかり。姫を陛下のものだと公の場で宣言されたほうがよろしいかと。姫様の価値はわかるものにはわかりますゆえ」

「ほう、リグイド、そなたにもわかるのか?」

「もちろん!」


胡散臭い。

私のこと、ルーのオマケとしか思ってないだろうに。


「すぐにご成婚されるのであれば婚約披露を飛ばし、結婚披露でもよろしいのですぞ?」

「結婚は当面先だ。ようやく口説き落としたばかり。はやるな」


ギレンは、私のゴタゴタ……シュナイダー殿下とマリベル……が片付くまで、断罪の17歳と恐らく死んだ18歳が過ぎ去るまで待つと言ってくれた。オレが裏切らないのを見届けろと。


はあ……


もっと強くなりたい。



婚約披露、結局しないで済む選択肢などないのだ。

私は引きこもりの生い立ちゆえに完全に社交下手。ギレンも得意とは思えない。


私達カップルって………いざという時は……力でねじ伏せるしかないよね!?おほほー!


脳筋・上等!!!










いつもお読みいただきありがとうございます。

新章スタートです。


次の更新もまた週末になるかと……気長にお付き合いください!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後までまだ読んでいないので、もしかしたら伏線なのかもしれませんが、主人公が前世前世と何度も繰り返し錯乱していますが、別に主人公の前世の記憶ではないですよね? 前世の小説に出てくる登場…
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