84 真夜中の男子会 inマルシュ
ワイワイ、ガヤガヤ……
「皆様、静粛に!それでは第三回、悩めるフィオちゃんをヨーコさんの食堂で見守る会をはじめまーす!」
ドンドンドンドン!
ピーピー!
「司会は前回同様、フィオちゃんの自称親衛隊ナンバー1、改め、トウクン第3ギルド職員ヤシロがつとめさせていただきます!」
「てめ、フィオちゃん親衛隊ナンバー1はオレだー!」
「お前、冒険者辞めてギルド職員になって、フィオちゃんの下宿に入り浸ろうなんて姑息だろー!」
「はーい、静粛に。何事も先手必勝です。それでは今回の議題です。男装を止めたフィオちゃんに今後どう接するか?意見のある方、挙手願います」
「おい、男装辞めたってどういうことだよ?」
「君、フィオちゃんが男だと思ってたの?」
「そんな訳あるか!どんな理由であの可愛らしい男言葉を止めちゃったんだって聞いてる!」
「うん、フィオちゃんいつも銀のヘビと一緒だったろ?あのヘビがいなくなった途端、男装止めたな」
「あのキレイなヘビのせいなのか?あのヘビどこに行った!」
「部外者だけど、ちょっといい?」
「これはこれは、新米ギルド長研修にお越しのレーガン島ギルド長ガンさん、何かご存知ですか?」
「まず、その麗しい銀のヘビはうちの島の恩人なんだ。レーガンの悪魔と言われる厄災の大ダコを丸呑みしてくれた。その時東海王者になった」
「まあああ!あのヘビちゃん、この辺りの海の守り神、伝説の東海王者だったの?」
「ヨーコギルド長、そういうことです。で、ゴールド姐さんはヘビ姐さんは旅に出たって言ってたから、きっと海洋全制覇に立ち上がったんだと」
「なんと壮大な!」
「男前だな!」
「男の中の男だ!」
「あと、ゴールド姐さんの男装はうちの先代のギルド長が、カワイイと舐められるから何とかしろとアドバイスしたら、その場でザックリ腰までの黒髪切って、その結果、もっと可愛くなっちゃって……ギルド長、ガックリしてたなー。いらんこと言うたーって」
「浅慮だな?フィオちゃんだぞ?何したって可愛いだろ」
「オレ、フィオちゃんの無造作ショートヘアにやられてショート派になった」
「今の黒髪ボブもグッと来るけど?」
「そうだ、髪伸ばしだしたのも男装止めたからか」
「何でだ?」
「何でだ?」
「ちょっといいかね?」
「「「「「タブチ様!!!」」」」」
「セレフィオ、いやいやフィオさんは最近とても心強いお身内が守って下さるようになってね。肩肘張って頑張らなくてもよくなったのだ。それで愛らしい女性に戻された」
「心強いお身内?だれだ?」
「またヘビか?」
「か、か、彼氏?」
「ウソだーーー!」
「ひょっとして聖女様ですか?」
「ヤマダ!聖女様とは?」
「先日、マルシュを訪れた聖女様が、フィオと学生時代の御学友とかで……二人並んだお姿はそれは素晴らしい眺めだった……」
「何だと!何でお前ばっかり」
「ズルイぞー!」
「元宰相さまー!何でヤマダばっか重用すんのー!」
「贔屓だー」
「おいおい、私の仕事を手伝ったものにたまたまチャンスがやってくるのだ。ヤマダが羨ましいのであれば、積極的にオニギリ革命に協力せよ!」
「なんだ、そういうことか!」
「協力しまーす!」
「「「「「まーす!」」」」」
「えっと、とりあえず、フィオちゃんは嫌なことがあって男装を解いたわけではないってことで、今後も同じテイストでみんな声をかけて可愛がる、でも抜け駆け禁止でよろしいですか?」
「「「「「異議なし!」」」」」
「食事を奢るのもこれまでどおり、前の週末のクジ引きに参加した方のみ。変更なしで?」
「「「「「異議なし!」」」」」
「では次の議題です。この議題のためにタブチ様は今日参加されました。ではどうぞ」
「うむ。これはフィオさんから直々に聞いたのだが、サカキ、お前、皆の士気を上げるためと言ってフィオさんに抹茶ケーキを作らせたそうだな。だが私は食べておらんのだが?」
「げ!」
「オレ食べてなーい!」
「オレもー!」
「おいいい!サカキ!どーなってんだ?コラァ!?」
「ま、まさか独り占め?信じられない!」
「見損なったぞ!サカキ!」
「こ、これには、訳が!ギャー!!!」
「…………!!!!!」
「……!」
「…………!!!!!」
「……!」
「……?」
「ではここからは自由討議です。発言のある方はどうぞ」
「はい!」
「肉屋のコマツさん、どうぞ?」
「あの、フィオさんいつもとんでもなくデカくて凶暴な獲物仕留めて、丸々凍らせて僕の店に卸してくれるんですけど、さっき、レーガンの方がゴールドさんって……ひょっとして?」
「えー、タブチ様、ご存知ですか?」
「…………ふむ。フィオさんはA級冒険者だ」
ザワワワ!
「ゴールドランカーに迷い猫探させてたのかよ……」
「俺なんかこないだお願いした依頼 、エンドウマメのスジ取りだぜ……」
「可愛くて、強くて、でも憂いがある……萌えだ……」
「な、なんと、衝撃の事実ですね!では時間的に最後となりますが、意見のある方どうぞ!」
「ハイ!」
「本屋のアキモトさん、どうぞ」
「あの、僕、書店仲間数人と本を自費で作っておりましてっ。で、この度フィオちゃんモデルの小説を出版いたしました!。タイトルは『男装乙女の願いごと』。日中は男の子として頑張る少女が夜になると変装を解いて生き別れの家族との再会を星に願い、周りを幸せにしながら夢を叶える成長ファンタジーものです。さし絵は友人のノダさんが水彩画テイストで柔らかく……」
「お、おい!!!」
「おや、サカキさん?とっくに堕ちてるものと思っていたのですが復活ですか?」
「だ、ダメだ……そんなん出したら殺される……おい、何部刷った?いくらだ?」
「え、えっと200部で、一冊1,000ゴールドです」
「全部買い取るからっ!!!」
「はあ?サカキ、まだ懲りてねえのか?」
「また買い占めるだとお?許せん!!!」
「制裁!!!」
「ぐはあ!!!」
「………!!!」
「………」
「……?」
「……」
◇◇◇
『我の不在のあいだ……概ね平和だった……のか?』
首をひねりながら、ルーはセレフィオーネの眠るベッドに戻っていった。




