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83 ギルドスタッフオーディションを実施しました

冬の寒さが少しずつ緩んできた午後、私とルーはタブチさんに呼ばれ旧城に出向いた。


「お忙しいところご足労いただきまして、申し訳ありません」

「こんにちはー!」


「西の四天様、御目文字恐悦至極」

『うむ』


「今日はご相談がありまして、来ていただきました。実はここマルシュもようやく新体制の道筋が見えてまいりました」


「へー!おめでとうございます!」


「それに先立ち、ギルドを復活させようと思ってます」

そだね。復興するには人を集めなきゃ。そして公正公明に運営するためにはギルドが不可欠。


「お二方にアドバイスをしていただきたいのです」


「えっと、前ギルドの方じゃダメなの?」

前回、マルシュのギルドが潰れたのは偏に王族のせいであり、ギルド員のせいではない。


「もちろん大半が真面目な職員であったでしょう。ですが、マルシュギルドを統括するここトウクンのギルドが、王族に便宜を計っておりまして、早い話がそこからセレフィオーネ様の情報が漏れたのです」


なるほど、私が巻き込まれたあの事件の片棒はココのギルドが担いでたってわけだ。


「では三本立てでどうでしょう。希望者を募り、まず、一般的な知識と計算問題のペーパーテスト。次に私と聖獣とタブチさんと面接。最後はギルド長を選ぶ総選挙!」


CDは買わんでよろし。


「これまでの慣例からすると……かなり厳しい。人が集まるかどうか……」


「この案ボツでも一向に構いません。ただこれだけ厳正であれば、マルシュギルドは生まれ変わったのだと胸を張って外に発信できるでしょう」


「なるほど」


「人が集まるかどうかは、正直お金です。お、か、ね!安定した収入を得られるとなれば、わんさと集まります!」


「はあ、耳が痛い。もちろん大した資金などないのです。しばらくは復興のためと割り切って手弁当で頑張ってもらうしか……理想論ですね」


理想論です!理想論で身を粉にして働いて目の下真っ黒にしてるのはあなたくらいです。


『鑑定』

心で呟くとタブチさんが青く光る。


『ほう、セレ、便利な新作だな。後で詳しく教えろ』


タブチ(新政権の立役者、元マルシュ王国宰相)

状態:慢性疲労、睡眠不足、過労死寸前

スキル:土魔法、火魔法、苦労人


ふむ……スキルで苦労人って……泣ける。



「わかりました。私、一肌脱ぎます!」


私はマジックボックスから茶色い球状の物質を取り出した。

『セレ?』


「これはうちの兄、最近は探検家、稀覯本蒐集家としても名高いラルーザ・グランゼウスが氷山から掘り起こした、約1万年前の化石です。限定一個!この世に一個!」

『これはもしや……』


「状態は良好。ポンポンと叩けば有史前の香りがします!」

『いや……匂っちゃダメだろ!』


「これをオークションに出して、売り上げを当面のギルドの財源にしましょう!」

『はあ?売れないだろ!』

「ルー?いつの時代どの世界にも、マニアってものはいるものよ。まあ見てなって!」





後日、2億ゴールドで売っぱらいましたー!





◇◇◇




国中にギルド職員大募集!1年間の給与保証あり!二年目からは頑張り次第!出でよ新人!目指せ勇者!という詐欺まがいの告示が行われ、4000人ほど集まった。


私の提案通り、まずペーパーテストが行われ100人に絞られた。


そして今日、面接で50人にまた絞る。当面はマルシュ全土に5箇所、10人体制でまわしてみることになっている。そのあと総選挙で五人のギルド長を選出するのだ。


審査員である私と(ルーと)タブチさんの前に、順に志願者がやってきて自己アピールする。

前世のオーディション番組思い出すわあ。

すっごい田舎から来たおばちゃんが女神ボイスで歌い出したりしないよね?


「エントリーナンバー1番の方、どうぞ!」

司会はもちろん、タブチさんの永遠のデッチ、ヤマダくん。


如才なさそうな中年の男性がペラペラとこれまでもギルド職員で経験豊富である事を話し出す。


『セレ、こいつ、腹ん中真っ黒だぞ。駆け出しの冒険者を喰いものにしてきてる』


カーン!


私が鐘を鳴らすと終了!


「はい、ご苦労様でした。次、エントリーナンバー2番の方、どうぞー!」


「なんと……御方のお陰ではかどりますな!」

タブチさん大喜び!


2番は七三分けした働き盛りの若者。かつて王国の文官で算術が得意とのこと。

『こいつ、人、殺してるな。些細な理由で』


カーン!


「ねえ、幸先悪いよ。こんなんしかいないの?この国」

「賢き者は……とっくに国を出てしまいましたので……」

タブチさん泣きそう!


「ご、ごめん、まだ先があるのに変なこと言って!ヤマダくん!次、次行ってみよー!」


「はい、次、エントリーナンバー3番の方どうぞ」




面接による受け答えと、ルーの指摘と私の鑑定でサクサクと仕分けを進める。筆記は通過しているのだからノーマルでさえあれば、採用の方向。


「次、エントリーナンバー74番の方、どうぞ!」


腰が曲がったおばあさんの入場にヤマダくんが慌てて駆け寄り手を差し出す。


『ふむ。身体はぼろぼろだが根性はあるな』

受け答えに特に問題はない。


でも年齢が年齢……決め手に欠ける。

鑑定!


青く光る。


ゲンゴロウ (元A冒険者、煉獄のフランシス)

状態 : 加齢による体力減退、女装中、年季の入ったオネエ

スキル : 火魔法、鍼灸、節約


スキル節約……一定の苦労をしないと手に入らないんだろうな……

『……ツッコミどころ満載だな』


カンカンカーン!

鐘三つ!


「はい、フランシスさん、ではこちらに掛けてお待ち下さい!」

ヤマダくんがフランシスさんを誘導していると、


「ちょっと待て!」

人相の悪い男がズカズカと審査員席にやってきた。

「おいおいどーなってんだコラあ?なんでこんなババアが合格で、俺たちが不採用なんだ?」

大騒ぎする男はこの一人だが、多くの落選者が私を睨みつけ、ウンウンと頷いている。

「宰相閣下とどういう仲なのか知らねえが、お前ごときに優劣決められるのは納得いかねえんだよ!」

「そうだそうだ!」

「宰相と出来てんのかあ?かわいこちゃん!?」


「ルー!かわいこちゃんだって!」

『セレ、ここで喜ぶか?不憫!』


まあ、小娘に進退決められたらイラつくよね。

でも、ギルド職員としてはそれは失格。


私が立ち上がると、タブチさんが、

「はあ……なるだけ会場を壊さないでくださいね」


ゴジ◯扱いしないでよっ!


私は身を乗り出して威嚇するその男に、デコピンした。


ドゴン!!!


対面の壁までぶっ飛んだ。


「こんな私だけど、優劣はさておき、強弱ならつけられるわよ?」


「「「う、うわあああ!」」」


「ねえ、皆さん、こういう話、聞いたことある?かつてある国が、一人のたった14歳の冒険者の女を侮った故に崩壊したの」


「そ、それは宵闇の破壊姫の伝説!!!」


伝説?


「えーと、他にはね、ある小さな島を訪れたたった15歳の冒険者を侮ったために、甘い汁を吸っていた男は破滅して、街は一からスタートすることになったの」


「そ、それは宵闇の暴風姫の伝説!!!」


「え?それ何?何?初耳!教えて!」

タブチさんがワクワク身を乗り出すと、落選者の一人が震えながら話す。


「北のレーガン島はバカスというゲス冒険者に牛耳られていた。逆らうと親族の女、子どもに暴力をふるいバカスよりも強いものなどいなかった。街全体がバカスの言いなりになっていたところに、フラリと立ち寄った冒険者が言いがかりをつけたバカスを返り討ち!そのままバカスは再起不能。ようやく街は呪縛から解き放たれた。その冒険者のことをその風貌から宵闇の暴風姫と呼んでいるそうだ!嵐のような女らしいぞ!恐ろしい……」


「『へーえ』」

二人とも、面白そうに見るのヤメナサイ!

にしても、レーガン島ってそういう事情だったんだ。



「お、おほん!何が言いたいかというと、見た目で判断する奴なんてギルド職員として一番ふさわしくないってこと!私のデコピン、ほかに喰らいたい奴いる?」


はあ、やっと静かになった。


「ヤマダくん、再開しましょう」


「では、気を取り直してエントリーナンバー75番の方、どうぞ!」

「こんにちは!トウクンで下宿屋を営んでいます、ヨーコです!」


「……ヨーコさん、どして?」

「だって、フィオちゃんの依頼受付いつもしてるし。その延長みたいな仕事でしょ?」

確かに。


カンカンカーン!




◇◇◇




私達の選んだ50人から総選挙を行い、新たなギルド長が五人誕生した。食堂票でヨーコさんもギルド長に選出。ウチの下宿はトウクン第三ギルドになった。


まあ、便利でいいけど。



『おーい!暴風ムスメー!』


……私にも、限界あるからね!ルー?








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