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80 ルーが帰ってきました

ルーを抱きしめて泣く私の頭にアスがチュっとクチバシを落とす。


『セレ、よく頑張った。今日はルーと水入らずが良かろう。邪魔をするほど野暮ではない』

ミユの頭を優しく撫でたのち、虹色の翼を広げ、あっという間に天空へ飛び去った。


ようやくルーがどこにも行かないと確信して、そっと顔を上げると、エリスさんとミユとレンザくんが号泣していた。


『ルー様!遅い!!!』

『ミユ、まさか東に座るとは……これからは対等だな。そして……我の不在の間、セレを守ってくれて感謝する』

『ルー様…………ワーン!!!』



ルーに私ごとクルンと巻きつきワンワン泣く新米聖獣に、たまに顔を出すことを約束して、新しい力に疲れ果ておネムのミユをレンザくんに託し、神殿を後にする。


トボスに戻りながら、エリスさんがルーに挨拶する。


「西の四天様にまみえることができ、恐悦至極。同時にこれまでの御神と契約者への不敬とご無礼、どうぞお許しください」

キラマ様亡き今、エリスさんにルーや精霊の声は聞こえない。私が通訳する。


『これまで?』

ルーは意味がよくわかっていない。


「ルー、エリスさんルーのこと、ずっと見えてたんだって」

『な!も、もちろん、気づいていたぞ!俺は!いやそれよりもセレ……ゴニョゴニョ……』


「エリスさん、ルーがなんでそんなにおばあさまと同じオーラになってんだ?って!」

「きゃーーーー!ウソーーーー!あんな鬼じゃないからあーーーー!」

エリスは3000ptのダメージを受けた!


「ゼイゼイ……さすが西の御神……死角からとんでもない攻撃……」

「エリスさん?」

「そ、そうだ。あの、私は〈聖女〉などという肩書きを使っても差し支えないのでしょうか?」

ルーがじっとエリスさんを見つめる。

『……問題ない。オレにはあまり興味のない肩書きだ。しかし、それはそなたにとって茨の道やもしれんぞ?』


「覚悟の上です」

『そうか』




エリスさんにはトボスに戻る道すがら私とルーとで生活魔法を習得させた。ルーが見えるのに全く魔法が使えないなんてありえないのだ。心臓から魔力が循環するイメージをしてもらい、少し私の魔力を流して誘導する。


「うそ!身体の中で小さなエネルギーがグルグル動いてる!」


魔力を認知出来たところで、浄化と、伝達魔法、そして静電気を身体に纏う新作魔法をスパルタで教え込む。

これでいつでもどこでも連絡が取れて、クズに襲われても弾くことができて、うっすら身体から放電する様子が神々しく、聖女っぽくなった。


エリスさんの伝達魔法は青くて優しくて細長くて、天に向かって伸びゆく龍。

「キラマ様?」

「うん、私は今日という二度とない特別な日と、キラマ様を忘れたくないの。私は今日の代替わりと神送りに立ち会わせてくださった神々からの運命を、決して間違えない」

エリスさんの瞳が決意で燃える。


『キラマには……もはや返すことのできない恩ができたな……』







トボスに戻るとますます磨きがかかった聖女にスケカク神官が狂喜乱舞。町長とギルド長であるガンちゃんにふわっと祭祀の様子を話す。


「聖女様のおかげで無事に氏神様の祭祀は終了しました。今後は定期的に参拝すると喜ばれるでしょう。B級ランカーという条件は撤廃してかまいません。あの神殿にたどり着ける体力と清らかな心のある方なら」


もう私が契約しちゃったからね。契約者を探す必要はない。


「氏神様は長いこと祈りを捧げていなかったことを怒っておられませんでしたか?これからもこの島を守護してもらえるのでしょうか?」

町長が意気込んで尋ねる。


「神はあらゆることをご存知でしたよ?これからの皆様の心持ち次第ですわ。とりあえず、海は穏やかで豊かな幸をもたらすでしょう」

エリスさんが思わせぶりに、品良く微笑む。

そりゃそうだ。今代の東海王者に下剋上できる動物なんてもはやいない。

「有難い……」

町長が一息つく。


「ゴールド兄さん、ヘビ姐さんは?」

ガンちゃんが心配そうに尋ねる。

「ミユは……さらに強くなるために旅に出た」

ミユももう聖獣。私は秘匿の義務を負う。


「そうですか……まだ恩返し済んでません!とお伝え願えますか?」

了解。


私とルー、エリスさんと神官は再びガンちゃんの船に乗り、マルシュ大陸に戻った。エリスさん一行はそのまま次の地へ旅立った。密なる連絡を約束して。そしてガンちゃんにも次回もよろしくと手を振って別れた。




◇◇◇





私はルーと二人、海岸沿いにテントを張る。成獣サイズのルーに包まれて満天の星を眺める。


「ルー元気だった?」

『今は元気だ。セレは?』

「私も。今は元気」

ルーがペロリと頰を舐める。


「今日の……神送りの儀で、どうして現れたの?」

『今日の神送りが最も古よりの原型に近い。我らが天に還るとき、四天が集って見送るのが習わしなんだ。しかし、レンザのように正しく陣を描けるものも稀、タイミングよく巫女を見つけるのも稀。今では条件が整わぬ。オヤジ殿はオレの見送りのみでひっそりと旅立った』


ルーのオヤジ様、会いたかったなあ……


『キラマがレンザに正しく知識を継承し、召喚の菱陣を発動したことによって我は海を超えセレの元に来ることができた。神送りの召喚は何よりも優先される。キラマ、ここ数年動けない身であったというのに、全てお見通しで、最後に我のために一肌脱いでくれた』



「……まさかアスは全てを見越して、私をレーガン島に飛ばしてくれたの?」

『かもな』


「……タール様は?」

『正気じゃない状態では召喚できん。此度はセレがタールの役を担ったから完成された。キラマは美しく旅立てた。良い神送りだった』




「……ルーはあれから、どう過ごしていたの?」

『オレは禁忌を犯した。故に罰を受けていた』

「禁忌?」

『タールを攻撃した』


「え……」


『四天はお互いに敬愛しあい、絶対不可侵であらねばならない。それが世のバランスを保つことに繋がる。オレはその理を破ったのだ』


「私のせいで……罰を受けていたの?」


『セレ、セレのせいではない。セレとオレは一心同体。セレが攻撃を受けるのはオレが攻撃を受けるのと何ら変わりない。反撃して当然。微塵も後悔などないぞ』


「ひょっとして、アスも?」


『おそらく』


「アスも私のせいで罰を受けてた?そのために1年以上もギレンの隣を離れた?」


ああ……なんてことだ。

私はとことん……疫病神だ……

ルーとアスに天罰を受けさせ、ギレンが信用するたった一柱(ひとり)のアスを取り上げた。


「私って……なんて救いようのない……」


膝に顔を埋めた。


『セレ、事情を話せばセレが傷つくことはわかっていた。しかし、セレは我の鏡、真実を曲げて告げるなどあってはならない。オレもアスもギレンも全て覚悟の上自分で決断したまで。セレがあれこれ小さな頭で悩む必要などない』

「…………」


『セレが逆の立場ならどうした?オレが絶体絶命のとき、アイザックに助太刀を止められたらどうする?』

「助けに行く。たとえお父様にその後どれだけ怒られても」


『そういうことだ』




「神罰……辛かった?」

『セレと同じくらい、だな。キラマのおかげで禊が終わった。此度の召喚を女神は見守った。そういうことだ』


「タール様は罰を受けないの?」

『自ら出向かねば意味がない。いつの日かタールが正気に戻ったら、真っ青な顔をして女神のもとに駆けていくだろうな』


「ルー、どこもケガしてない?」

『うん。セレの魔力モリモリ取り入れてるぞ!』



私はホッとして笑って……顔をルーの首元に埋める。

「ルー……もうどこにも行っちゃやだ」

『セレ……元どおりだ。安心しろ。頑張ったな』


私の身体も不足していたルーの存在をグングン吸い取っていく。焦燥が、抜けていく……。


『セレ、ちょっと聞きたいんだけど?』

「何?」


なんだろう。私が離れている間にどれだけ強くなったか?

何故マルシュに落ち着いたか?マルシュでの立ち位置?

ミユとの旅の様子?

なんでも聞いてちょうだい!私、案外頑張ったから!



『ゴールド兄さんって何だ?』

「……気になるのそこ?」

『それとそのちんちくりんの頭はどーした?』

「そしてそこ?」








80話です。

お読み頂いている全ての皆様、ありがとうございます。


数日お休みします。次回から、セレとルーのドキドキモフモフ潜伏紀行〈問題山積み〉!

とりあえずタイトル回収です?


今後ともよろしくお願いします!

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