78 神事に立ち会いました
その夜は遅くまで宴は続き、エリスさんとスケカクは宿に、私とミユはガンさんちに泊めてもらった。
「ゴールド様!ようやく、御礼を言うことができます。ありがとうございます!」
ジュリアさんは起き上がり、歩いていた!ちょっと感動!そんで、とってもエキゾチックな美人で若かった!20才!ワオ!私と5才しか違わんし!ってか、結婚したのいつだ?15才?幼妻とは…………ムムム、ガンめ、やりよる。
そして、なんとガンさんが新しいギルド長になっていた。
「漁の合間にしかできないけれど、ゴールド兄さんに恥じないように頑張るよ」
ウンウン、無理のないようにね。
ジュリアさんがいないときにソッと聞く。
「バカスはどうなった?」
途端にガンさんが冷たい顔になった。
「死んだよ。最後までジュリアに謝らずに。あいつの手下が勝手に俺のスッキリ草使ったけど、治んなかったな」
愚かだ。悔い改め自身の盛った毒を明かせば、優しいガンさんとジュリアさんは許し、解毒し、救ってくれただろうに。
◇◇◇
そして、いよいよ神殿に到着。メンバーは私とミユたんとエリス姉さん。スケカク神官や、町長も参拝すると意気込んでいたけど、ジャングルの中、たどり着けなかった。
私達は滝壺を泳いだあと、ドライヤーと浄化魔法で身綺麗にして、
「ひらけーゴマー!」
ズズーン!!!
奥宮に入った。
『ああ、契約者、東海王者、巫女を連れてきてくださりありがとうございます!』
テレパシーなのに、レンザくんの声が涙声に聞こえる。
「間に合ったんだよね!?」
『はい!はい!』
よかった…………
シュンっとミユたんが本来の大きさに戻る。
『東海王者、ますます強く美しくなられたな』
『うーん、まだまだよ』
ミユたんこの一年の天井破りの進化、自覚なしか……
『その方が巫女だな。ウンウン、契約者と似た心地よい気の持ち主だ』
今日のエリス様は神への敬意を払い、再会したときの純白のドレス姿。
「うそ……御使様のお声が聴こえる……」
「エリスさん、御使様は神のお力で我々と意思の疎通が出来るとのことです」
「ああ……御使様、初めまして。エリスと申します。この度はレーガンの島神様のため、全身全霊で祝詞をあげさせていただきます」
『ウンウン、ありがとう。ではもう猶予はない。準備を始めよう』
レンザくんはスルスルと祭壇を降り、私達のいる一枚岩の地面を這い回りはじめた。円を描き、文字を描き、レンザくんが這った跡が青く輝き出す。
「これは……陣ね!」
レンザくんの邪魔にならないように、私達は端の岩壁に控えた。20分ほどかけて、レンザくんは複雑で、ヒトは解読出来そうもない、摩訶不思議な直径2メートルほどの光り輝くサークル状の陣を書き上げた。レンザくんは玉の汗をかいている。
「レンザくん、大丈夫?」
『出来た!頭を下げよ!!!』
慌てて私、エリスさん、ミユは跪き、こうべを垂れる。
同時に地面の陣から青い光が放出し、膨大なパワーが奥宮内を渦巻く。そして地面から水飛沫がパシャっと飛び散り……青い光が反射し……キラキラと輝くその向こうに……
蒼き衣を纏い、その長き身体を横たえ、大きな瞳を閉じ、白銀のヒゲ、白銀のツノを持つこうべを自身の身体にもたげた……神が鎮座した。
っ…………青龍だ!!!
「東のっ!四天様っ!!!」
エリスさんが悲鳴のような声を上げて、頭を地面に擦り付ける。
私もミユも深々と頭を下げる。荘厳で強くそれでいて穏やかな魔力に圧倒される。
ここは、東の四天の聖域だったんだ。
『…面を…上げよ』
静かな、女性的な声が頭に染みる。
「聞こえる……私にも……」
エリスさんが打ち震える。
東の四天様はまぶたをゆっくり開けた。蒼い宝石のような、何もかも見透かす瞳が現れた。
『なるほど……レンザが推すだけのことはある』
東の四天様はもうあまり動けないのか、瞳だけを気だるげに動かす。そしてミユを見定める。
『……小龍の娘よ。お前を後継に置く。良いな?』
唐突に自分に向かって思いがけないことを言われたミユは目を丸くする。
『えっ?し、四天様!こ、後継?』
『娘よ。我が決めた』
慌てて不敬とはわかっていながら、私は口を挟んだ。
「お、お待ちください!私はミユを小龍様からお預かりしている身。もう少し、説明をお聞かせください」
レンザくんが口を開く。
『キラマ様は東海王者の素質を認め、次代の東の四天に定められた。代替わりせねばキラマ様は旅立てぬ』
「ま、待って!四天様は月の女神より生まれるのでしょう?ミユは違うわ!」
東の四天……キラマ様が瞳を私に向ける。
『……そうか……詳しいと思えばお前が西の契約者か。ふーん、南の魔力も感じる。良い魔力ぞ。……確かに後継は月の女神から生まれ、代替わり前に遣わされる。じゃが、絶対ではないのじゃ』
「はい」
『我の衰えに際し、月の女神から遣わされたのはレンザじゃ。我はレンザを後継に育てた』
私達はレンザくんを見る。レンザくんはサバサバとした表情をしていた。
『そのレンザが言う。己よりもずっと四天に相応しいものがおると。故に自分は降りる。自分は次代を補佐する役目につく、と』
「レンザくん……」
『ミユ様は私より間違いなく強い。心も、身体も。そんなお方がいらっしゃるのに私が四天になるなど出来るわけないでしょう?』
「自分以外にふさわしい後継がいる可能性があるから、Bの冒険者以上に絞って参拝させていたの?Bクラスであれば精霊付きがいるかもしれないって?」
『いえ、それはまた別です。素晴らしい冒険者であれば、代替わりの後、契約者になる可能性があるかと思いまして。もちろん相性次第ですが』
「神送りの儀の前に、代替わりなんて……」
エリスさんが呆然と呟く。
神命だ。断れない。ミユ……
俯いていたミユが顔を上げる。決断した、勇ましい、顔。
ミユはスイスイとキラマ様の前に進み、再びこうべを垂れる。
『謹んでお受けいたします』
「ミユ!」
ゆっくりミユが私に向かって振り向いた。
『セレちゃま、私、強くなりたいの。もっともっと強くなって、今度はルー様とアス様とともに、私もセレちゃまを守る!!!』
「ミユ……」
『そうよの、強くなるがよい。ミユ、これへ』
ミユがキラマ様の陣の中に呼ばれる。ミユは慎重に進み、キラマ様のお顔の前で立ち止まる。
『ミユ、我ら古よりの東の四天が脈々と受け継いできた全てを受け取るがよい』
キラマ様は人間に聞き取ることができない何かを呟いて、ミユの眉間にくちづけた。
途端にキラマ様の蒼い魔力が風のようにミユに向かって流れ込む。神そのものの正体のような魔力が空気をビシビシと震わせ、私とエリスさんはしゃがみこみ、抱き合って……あまりに畏れ多い光景だが……でも目が離せない!
蒼い光が鎮まっていく。
『キラマ様……』
レンザくんがポタリと涙を流す。
キラマ様は、蒼く輝いた鱗を全て、真っ白に変え、力なく眼を閉じていた。
そして、
「ミユたん……!」
私のミユたんはふた回りも大きくなり、衣を銀から紺碧に変え、頭に魔力がこもるツノを生やし、僅かに残っていた獣臭さは消え失せ、堂々と、新しい大いなる魔力を放って鎮座していた。
若き……聖獣の誕生だ。
私のミユたんは……ホンモノの女王……女神になった。