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74 七夕でした

「フィオくーん、お帰り!お客さん来てるよー!」


森から帰るとヨーコさんに声をかけられ、食堂を覗くとサカキさんがいた。


「こんばんは、サカキさんどうしたの?」


「いや……ちょっとお願いがあってな」

「依頼?」

「依頼っちゃあ依頼……おい、その頰の傷どうした?」


「あ?うん、大したことない。草で切った」


「その傷は刀傷だ!誰にやられた!」


「私の不注意です。ゴールドランカーはやられた相手のことペラペラ喋ったりしませーん」


私は適当なことを言ってごまかした。この程度の傷、男として生きるなら逆にちょうどいい。


「まずい……」


「何?サカキさん。ぶつくさ言うなら依頼受けないよ!」


「それは困る!」


「はい、ではなんでしょう?」


「先日……ヤマダに抹茶ケーキを食べさせたんだろ?それを作ってくれ!頼む!」

「へ?」

「ヤマダがとにかく兵舎で自慢してな。甘さ控えめで男好みだと。みんな羨ましがって。今甘味が乏しいだろ?材料は持ってきた!な?」


「はあ」




私はヨーコさんに台所を借りて、抹茶ケーキを作る。なんとマルシュには小豆もあり、保存食にと大量に作っておいた甘納豆を、生地にふんだんに混ぜ込んでみた。


「手際いいなあ」

お茶を飲みながらサカキさんは作業を見守っている。見張ってなくてもケーキは逃げないって!


「そうかな?大事な人がケーキ大好きだから、これまでいっぱい作ってきたからね」

抹茶ケーキはまだ食べさせてないけれど。


「……恋人か?」

「恋人どころじゃない人」


恋人よりもめんどくさくて、強くて、カッコイイ、私だけのモフモフ。


「まあでも材料は普通だよねえ。なんでフィオくんのケーキは特別美味しいんだろうねえ」

いつも一番に味見をしてもらっているヨーコさんが首をかしげる。


「へへ、きっと仕上げにおまじないをかけるからですよ」

「おまじない?」

「そう!美味しくなあれ、美味しくなあれ!はい出来た!オーブンにgo!」


「フィオくんってば、ホンットにかわいいことやってくれちゃうねえ!」

ヨーコさんが、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でてくれた。


焼き上がりは完璧だった。冒険者辞めてケーキ屋セレちゃんになろうかな?

サカキさんは大事そうに包み持ち帰った。そんなに甘味が有難いのか?




直火のオーブンを扱ったので体が火照る。下宿の中庭に涼みに出るとサラサラと音がして、笹もどきが飾ってあった。


「これは……」


「ああ、そいつはね、願い木って言ってね、短冊に願いを書いて、それをその木の枝にくくりつけて星の綺麗な晩に外に出すと願いが叶うって言われているのさ」


七夕だ。

マルシュには、どうやら昔、同郷の転生者がいたらしい。笹には〈商売繁盛〉〈家内安全〉〈金運上昇〉とヨーコさんの願いが所狭しと並べてある。


「はい」

ヨーコさんが色とりどりの短冊と筆を差し出してくれた。


私は軽く頭を下げて受けとった。そうだ!


とりあえず一枚目〈レーガンの島神様を送ってくれる巫女様が見つかりますように〉

これで一気に現状打開できるはず。


短冊はまだ余っている。


私は単純に〈みんなに早く会えますように〉と書いた。しかし、私の会いたい愛する人々にもそれぞれに都合があることに思い至った。チートな私が願ってしまうときっと叶ってしまう。私はジュドールの状況を正確に把握していない。国を離れられない状態かもしれない。動くことで危険にさらされるかもしれない。


ビリッ!

私は短冊を破き、手のひらで燃やした。


アスは時を待てと言った。待つしかない。



『セレちゃま……』

「やだ、見てたの?」

ミユに見られていたのがなんとなく恥ずかしい。



仕切りなおしだ。うーん。


〈お父様、お兄様、おばあさまがお健やかで幸せに過ごされますように〉

強さはもういらないよね。


〈アルマちゃん、ニックが健康で、夢が叶いますように〉

二人をくっつける願いは……お節介アラフォー過ぎるだろ?


〈ギレンを裏切らない孤独にしない、寄り添ってくれる味方が現れますように〉

私は……全然役に立ててないもの。


〈アスがいつまでも、気高く、私の友達でいてくれますように〉

聖獣のことを神頼みってなんか変か?


〈ルーがいつまでもそのままのルーでありますように〉

水色の短冊にしたためる。





『……セレちゃま、自分のことは書かないの?』

そーだった。うーん。

『おっぱいおっきくなりますようにって書いたら?』

ミユたん、マジで大きなお世話だよ!




〈もっと、強くなって、みんなを安心させられますように。フィオ〉



月が瞬いた。





◇◇◇





数日後、タブチさんに呼び出された。


「へ?聖女様が来る?」


「はい、聖女様が現れたと神殿はあちこちに触れ回っております。そして聖女の威光で勢力を拡大しようと画策しているようで……今回はマルシュに白羽の矢が立ったようです。」


タブチ宰相が苦笑いする。

まだまだ落ち着かない 、混沌としたマルシュにありがたい聖女がやってきて、奇跡の一つでも見せれば信者急増ってトコかあ。


「あちこちに狙われて大変だね」

「まあ、狙ってくれるだけありがたいと思うしかありません。自力では到底復興できないのですから。どれだけ条件のイイところと手を組むか……ですね」


「聖女様って巫女より格上ってことでいいのかな?レーガン島に一緒に来てくれるかしら?」

「お引き合わせする機会を設けます。ですが、交渉はセレフィオーネ様ご自身でお願いいたします」


私はコクンと頷いた。タブチさんはフウっと息を吐く。目の下はクマで真っ黒。随分とお疲れだ。


「タブチさんガンバ!今度またケーキ作ってきてあげるから!」


「?()()とは?極上という噂のセレフィオーネ様からのケーキの差し入れなどもらったことはありませんが?」

「え?こないだサカキさんに2本も持たせたよ!」


「サカキ…………!」


あ、やっぱり、一国の宰相でルーが見える魔力持ちのタブチさん!殺気ハンパねぇ!










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[良い点] ナムナム(*´人`*) 食い物の恨みはコワイコワイ(笑)
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