7 ラルーザは生まれ変わる
事態は急展開した。
私はせめて妹を何者からも守れるようにと魔法も武術も真剣に獲得していったがまだまだ足りない。ついには自作で武具をあれこれ開発していた。
雪のあの日、ナイフをより正確に鋭利に飛ばせるように研究した武器……妹は後々『これ手裏剣じゃん……』と言っていた……にシビール草から抽出したシビレ薬を塗り込み、庭の楠の大樹目掛けて試し投げしていた。
そして私のその思慮のない行動で、守るべき妹を傷つけそうになり、私の代わりに妹を守った聖獣様に大怪我を負わせた。聖獣様に無言で諭され、私はようやくこれまでの過ちとともに全てを謝った。妹セレフィオーネは私を許し……こんな私を大好きだと言ってくれた。
それにしても、たった3歳で聖獣に見出され契約してしまったセレフィオーネ。聖獣様の自浄作用でも治すことができなかった傷を瞬時に癒したセレフィオーネ。私の妹は妖精のように愛らしいだけでなく素晴らしい才能を持っていた。さすが私の愛しの妹!
そしてセレフィオーネは騎士になりたいという。グランゼウス家の安寧のため、そして聖獣ルー様の旅のお供をするために。
一緒に布団に入ったセレフィオーネは既に夢の中。ルー様は目を閉じていらっしゃるが、実際寝ているかどうかは凡人の私にはわからない。
「父上、なぜ急にセレフィオーネは騎士になりたいと言い出したのでしょう。旅とは?」
「……聖地巡礼だろうか?ルー様と、何か話し合ったのだろうね。でもまだセレフィーは3歳。先程言ったようにまずは心と身体を整えることが先決だ。それにルー様の存在が内密ということは契約者のセレフィーとセレフィーの能力も内密ということ。秘密を守れる指導者を探すのはなかなか難しい……。もちろん尊い聖獣様のお考えだ。なんとか探してみるよ。それまではラルーザがセレフィオーネの先生だ。よろしくお願いするよ」
父上が私とセレフィオーネを交互に撫でながらニッコリ笑った。
「はい!」
「二人で愛しいセレフィオーネを育もう。ラルーザ、今日はよく頑張ったね。愛しているよ」
「父上……大好きです。おやすみなさい」
◇◇◇
「セレフィオーネ、ゆっくりでいいから足を止めるな!」
「は、はーいぃ!」
雪が溶けて暖かくなると、私は自分が幼い頃こなしていた基礎体力作りをセレフィオーネに課した。人に教え、導くということは思った以上に難しく、伯爵家を継ぐ者として良い経験になっている。
それに、
「おにいさまー!まってえ!」
「待ってるよ!頑張れ!」
妹との距離が毎日2時間あまり過ごすことで格段に縮んだ。もう妹に怯えることはない。ただただ甘やかせばいいだけだ。私の妹は既に辛酸を舐め、そもそも賢い。聖獣様もついている。歪むことなどあり得ない。
「ほら、あの欅の梢までジャンプをルー様と一緒にしてごらん、100回。その後、短剣をエルボーからの突き上げで頸動脈狙うシャドウを左右100回。そしたら昨日の本の続きを読んであげるよ」
「わあ!ルー、いそいでジャーンプ!いっち、にーぃ、……」
母上がしてくれたことを、セレフィオーネに返せばいいのだ。
少し焼けたセレフィオーネ、私の宝。聖獣様には及ばないが、私も全力で力をつけよう。
私は生涯セレフィオーネの味方であることを亡き母上に誓った。