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69 ミユたんはバージョンアップしました

その夜は漁師のガンさんの家に泊まった。


「あんたらには感謝の言葉もねえ。あのタコがいなくなって、ようやく魚も戻り……漁もできるようになる。粗末な家だが、泊まっていってくれ!」


ガンさんは、非常時のために取っておいたとみられる魚の干物をドンドンと焼く。

「こ、こんなに御馳走になるわけには!」

「これからどんどん釣れるんだ。遠慮するな!そこのヘビ姐さんもな!」

『ありがと、ガンちゃん!』


えーー、ミユたんはかなりヘビ離れしてますが、ギリギリヘビなんで、誰にでも見える。話せるのは私だけだけどね。ずっと悩まされていた大ダコを食べてくれたミユたんは、ガンさんのヘビ姐さんになった。


「明日行く神殿って何が祀ってあるんですか?なんでB級以上?」

「五穀豊穣の神様と聞いてるが……なぜB以上か、知らねえな。危険だと聞いたことはないが……」

『そこがサクッと済めば、3つ目のスッキリ草採取まで明日一日で終わるよね』

「おい、ギジナ山を甘く見るな」

「甘く見てないって。このくらいの山登り慣れてるから」


トランドルでな!






ゴホゴホゴホッ!


隣の部屋から、タチの悪そうな咳が聞こえた。

「あの、ご家族ですか?」


「ああ……う……ん、女房だ。ちと、臥せっていてな」

「ご厄介になりますので、ご挨拶しても?」

「……はあ、ゴールドの姉ちゃんとヘビ姐さんなら驚かねえか。会ってやってくれ。あいつも喜ぶ」



ベッドで横たわる奥様は意識がなく、見えている肌……顔や首が真っ黒く変色していた。


「……これは?」

「さすがだな。顔色一つ変えねえとは。四年前、突然倒れて動けなくなり、肌が変色した。島の医者に診せたが、分からずじまい。呪いを受けたと言われ呪い師に祈祷してもらったが、俺には効果があったのかどうか……あと一回祈祷すれば良くなると言われてるんだが……もう金が尽きた」


それ、たかられてるし。

私とミユたんは眼を細める。


「姐さん達のお陰でこれから漁に出られるようになったから、また金が入る。そしたら祈祷できるな。それに、姐さん達タフだから、スッキリ草も取って来てくれてそれで治るかもしんねえ」

「スッキリ草の依頼、ガンさんなの?」

「ああ。あ、スッキリ草の依頼料はギルドに預けているから安心してくれ!」


『セレちゃま、呪いなんてかかってないよ』

デキル姐さんミユ、既に調べてくれてたか。呪い系はヘビの専売特許だよねー!


じゃ、私ね!

『鑑定!』

心で唱える。


この島に来て、すぐに編み出した新作魔法が『鑑定』。これまでは真贋はルーにお任せだったから。前世のラノベの知識と、私の身体に宿る、邪を嫌うルーの魔力のお陰で2日で会得した。


女性の身体が青く光る。


ジュリア(漁師の妻)

状態:毒(キル貝、ハマベバラ、ウミ蜂の混合物)



なるほど……お医者さんも毒は思いついて、薬を飲ませたんだな。だから一応生きながらえている。でも3種混じってるってわかんないよね……


『セレちゃま、おとうちゃまの時みたいにおまじないするの?』

「うんにゃ、毒消しでいく。手持ちあるし。魔法は温存した方がいいでしょ?」

ミユたんがこくんと頷く。


でも、毒……なんでたかだか漁師の妻がこんな複雑な毒を飲まされる?


『鑑定』


ガン(漁師、ジュリアの夫、元C級冒険者)

状態:良好


ガンさん、元Cか……それは置いといて、ガンさんも青く光っている。これが大事。

青はノーマル。身体が赤く光るのは……悪意があるしるし。ガンさんはシロだ。

誰も彼も疑ってしまう自分が嫌だわ……


「ガンさん、私の見立てでは奥様は複合毒に侵されてます。私を信じるなら今から解毒薬作ります。ただし即効性のあるものではありません。効き目が出るのは……数日後ってところでしょうか。流れ者のことなど信じられなければそれはそれで構いません」


「嬢ちゃん……ジュリア、治るのか?」

「はい。治します。でもジュリアさんは手の込んだ毒を仕込まれました。治療したことを秘密にして、完治まで誰にも会わせないと、約束してもらえれば、の話です」


「……島の誰かがジュリアに毒を盛って、さらに盛る可能性があるっていうのか!いい加減にしろ!」


やっぱり怒らせちゃったかあ。

「余所者より、同じ街の仲間が大事であることは、人として当たり前のことです。ではガンさん、おやすみなさい」


「…………」



翌朝、私とミユたんは夜明けとともに起き、こっそり神殿に出発しようとした。


「ま、待ってくれ!」

「ガンさん」


「昨夜は悪かった。あんたらを、信じる。ジュリアを……頼む!」


ガンさんが深々と頭を下げる。


「……私の出した条件は?」

「全て飲む!」


せっかく治療してもまた毒されるとか、まっぴらゴメンだからね。


私は懐から濁った緑色の液体の入った瓶を取り出した。

もちろん昨夜、夜なべして作ったよ。こうなることを見越してね。ガンさんは良識ある人だもの。


「これ、マズイです。味見したけど。意識のないジュリアさんが悶えるくらい。嫌がっても……そうですね口移しで一気に飲ませてください」


「口移しか!?」

ガンさんが赤くなる。


「はい。そして、しばらく毒を殺すために高熱が出て、そのために暴れます。ぎゅっと抱きしめて止めてください!」


「ギュッと抱きしめる!?」

ガンさんが両手で口元を抑える。何その恥じらいかた?


「はい。そして熱が下がったら服を脱がして全身の汗を拭いてあげてください。そして着替えさせてあげてください」


「服を脱がせて、裸を拭く!?」

ガンさんが視線を彷徨わせる。


「はい。そして、水分補給、もし意識が戻っていなければまた口移しで。あとはゆっくり休ませてあげれば目が覚めます」


「また口移しか!?」

ガンさんが……

「あーーーもう!ガンさん、いちいち反応がウザい!夫婦なんでしょ?何でそんな真っ赤になってんの!」


「じ、実は……あいつが倒れたのは……俺たちの結婚式の夜だったんだ……」


「……結婚式の夜に盛られたってこと?」


「ああ」


ジュリアさん…………


「オレは……花嫁を守れなかった腑抜けなのさ」


「……でも、着替えくらいはしてたでしょ?」

「着替えはな。でも、ジュリアの許しなしに裸を見るのは悪い気がして、近所のばあさん達に身体は拭いてもらってた」


「今回はダメです。ガンさんがして!あとでジュリアさんに殴られる羽目になっても!」

まあ、結婚した時点で、ガンさんに触れられることくらい、女だもの、承知してると思うけどな。

「……殴ってくれるくらい、元気になってくれりゃあ、いいなあ……」



『……毒入れたの、結婚に反対したやつだよね!!結婚式は女の子の夢なのにぃ!ミユ許せない!』


キラーン!

ミユの両目が光った!


あ、ミユたんのおまじない魔法、『呪い』発動しましたー!


説明しよう。私がかつてミユたんと小龍様にかけた反射魔法はどんどんバージョンアップし、物理も弾くだけでなく、付与されたおまじない『呪い』はミユたんが自分に降りかかった厄災に対し意図的に発動することができるようになったのであーる。女って怖いね、ウフフ!


何故にバージョンアップしたか?小龍様とミユたんのたゆまぬ努力と……ルーとアスに目をかけてもらってるからなんだろうなー。当然清廉潔白な聖獣に従う親子は正しい呪い?しかかけません。


今回は一宿一飯の恩のあるガンさんの身に降りかかった災難であり、女の子の夢を潰したことでキレました。うちのムスメ、オトメなんで。


さあ、毒を盛った犯人にミユたんの呪い、今頃届いてるはず。どーなることやら。


「知ーらない!」


私はミユたんをポケットに入れて、神殿に出発した。







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