67 ひとりぼっちではありませんでした
テントで一晩休んだら、ほぼ体力は元に戻った。これもアスの涙とアニキの特製回復薬と、マツキお手製の非常食と……ギレンのクッションのような風魔法のおかげだ。
プレートから放たれたギレンの風魔法は地上に降り立ちだいぶたつというのに、まだ私を包み込んでいる。ギレン基準で私の安全が確保されるまでは解けない設定なのだろうか?
何にせよ……安心するけど……
「マップ!」
今度こそ目の前にスクリーンが浮かんだ。
「ミユたん!なんとなんと海超えてる!ここジュドールのはるか東に浮かぶレーガン島だわ!」
『海?沼にしてはおっきいなーって思ってた。でもセレちゃまのポッケからずっと見てたけど、このくらいならミユ泳げるよ』
さすが小龍様の娘、人生……じゃなかったヘビ生の大先輩!
「アスも随分とぶっ飛ばしてくれたなあ」
『遠ければ遠いほど、追いかけて来れないからいいって言ってたよ。王族は身分が邪魔しておいそれと動けないだろうからって』
この世界にワープ魔法はない。地点と地点を結び、別次元を通って着地しようと考えたけど発動しなかった。チートな私が作れなかったのだから、この世界は別次元にモノは保管できてもヒトが入ることはできないのだろう。
つまり、自力で移動するしかない。魔力が多ければあらゆる魔法を使って速く移動できるけど、そう簡単に国を、海を飛び越えられないのだ。アスにぶっ飛ばされない限り。
シュナイダー殿下が王家の……王妃の監視の中、無断で国を抜け出すなんてことは無理だろう。弱みを作るだけだ。何か口実を作るにしても、時間がかかる。
それはギレンにも言えること。ましてギレンは皇帝。シュナイダーと格違いの責任を負っている。仮にギレンが無断で国を跨いだら、すわ戦争か!?ってことになっちゃうし。
タール様の能力はどうだろう。ガ◯ラのように回転しながら飛べるのだろうか?その上に殿下乗っかる?あの涼しげな美青年が?なんか絵面がシュールだわ。考えにくい。きっとナシだ。『野ばキミ』はあくまで乙女小説!
ひとまず、今日明日私が殺される恐れはなさそうだ。
「私が無事だってこと、ルーに伝わってるかなあ」
『セレちゃまと魔力の交換をしていればわかるよ。もしセレちゃまが死んだら、身体からセレちゃまの魔力が抜けてしまうもの。さっきもらったセレちゃまの魔力、私の身体の中でニコニコしてる。きっとルー様の身体の中でもニコニコしてる』
よかった……
ルーがきっとお父様にも伝えてくれる。ルーとパパンはかかと落とし以来、見えない絆で繋がってるからね……
私の出奔はきっと愛する人々に迷惑をかけている。それは想定できたこと。対策会議でグランゼウスに累が及ぶことを危惧すると、お父様は笑い飛ばした。
『セレフィー、私もまあまあ強いし、備えもしておく。案ずるな。セレフィーのすべきことは元気に生き延びることだ。そもそも愛する娘を犠牲にしてまで生きていようとは思っていない。おばあさまも同じ想いだろう』
お父様は……ご無事だろうか?
『アス様が時を見て、迎えに行くからしっかり強くなっておきなさいって』
多分、この世界で最速のアス。海を越えられるアス。ギレンの面倒をみて、私の面倒をみて、ホント申し訳ない。
国元で自分のたった一柱の味方であるアスを、私のために惜しげなく外に出すギレン。
…………ギレン、激怒してるだろうな。ギレンは自分にも他人にも厳しいから。私が怪我して出奔したとなると。
私が不甲斐ないせいなのに。
この間、顔のケガを癒すときおまじないかけたから、私の魔力持ってるのかな?私が大丈夫だって伝わっているといいけれど。
愛する人たちをこれ以上、悲しませたくない。
私にできることはただ一つ。
「ミユたん……がんばろっか!最強女子ペア目指そっか!?」
『はい!セレちゃま!』
再会するその日まで、強くなって、生き延びること!
私とミユたんは今後の計画を練る。とりあえず、この滅多に来れないレーガン島のお宝素材を取りまくりながら、修行を重ね、港町に出る。そこで旅の準備を整えて、さらに海を渡る。
目指すは……マルシュ大陸!
◇◇◇
島の北東に島唯一の小さな街がある。航路があるとすればこの街、私とミユたんは鍛錬し、新作魔法を編み出しつつ、素材を収集して進む。
『セレちゃま!水魔法の威力は魔力の強さだけじゃないの!水に浮かんでる……ううん、水と同一化した気持ちにならないとイグニーの間欠泉みたいに吹き出せないよお?ああん、全然ダメえ。罰としてあそこの岬まで泳いでくだしゃい。はい、ジャーンプ!』
「ぎゃーあ!」
バシャーン!………
「ミユたん、突然海に突き落とすの止めて!首の骨が折れるかと思った」
『セレちゃまのためにと思ってやったのにーー!ウワーン!』
「ご、ごめん、ミユたん、泣かないで?」
『わかってくれればいいの!じゃあ、もう一回、最高に圧力かけて水噴いて?』
「せいっ!」
『うーん、さっきよりも威力増したけど……やっぱりダメダメ!えいっ!』
「ぎゃーあ!」
バシャーン!!!…………
「ぷはっ。ミユたん!ここの海底、アコヤガイたくさんいる。見て見て、こんなおっきな真珠入ってた!」
『セレちゃま!とってもキレイ!わたち、おとーちゃまに100個お土産にしたい。取ってきて?』
「100個はちょっと……」
『おとうちゃまと離れても、ミユが頑張ってるって、その証拠にしたかったのに……ウワーン!』
「わ、わかったから、泣かないで!取ってきます取ってきます!」
『ありがとう、セレちゃま。30個取るまで息継ぎしちゃダメだよ?その前に上がってきたら、沈めるからね?』
「ぎゃーあ!ブクブクブク…………」
『セレちゃま、足音大きすぎる!森ではもっと滑るように進まないと!』
「だって、私、ヘビじゃないもん」
『セレちゃま!セレちゃまは狙われてるんだよ!隠密行動できないでどーちゅるの!そんなんじゃわたち、アス様とルー様に顔向けできないよっ!親指と人差し指の股に力入れるの!乾いた葉っぱの上なんか歩いちゃダメ!』
「こ、こう?」
サクッ!
『うーーー!セレちゃま!いい加減、本気だちなさいっ!』
「ギャー!毒霧は禁止ーーー!!!」
ミユたんは……ロッテンマイヤーさん並みにスパルタで……小龍様優しいのに……ばたっ……グー……
ここのところ寝落ちばかり。まあ、くよくよ寝袋で考えるより、救われてるのかな………




