66 ひとりぼっちになりました
お久しぶりです。よろしくお願いします。
気がつくと、拓けた草原の上でうつ伏せに倒れていた。
「う……ううっ……よっこらせ」
身体を仰向けに寝返ると満天の星がそこにあった。
……そうだ、アスに飛ばされたんだった。
アスの翼が起こす渦……すごい威力だった。どれだけ飛ばされたんだろう。ギレンもよく風の中から現れたり消えたりしてたけど、このアスの上昇気流に上手く乗ってルーラしてたんだ。
……虫の鳴き声が違う……ココドコだろう。
「……マップ」
しかし何も現れない。よっぽど魔力ないみたい。
急いで……マジックルームから回復薬出して飲んで……なんか食べて……
…………急いでする必要ある?
「負けた……」
シュナイダー殿下に全く歯がたたなかった。
シュナイダー殿下に歯向かった私は……もはや国のお尋ね者だ。
「アルマちゃん、ニック……」
もう、学校には二度と行けない。
「お兄様、おばあさま……」
いつ会えるかなんてわからない。事情を知らない二人を巻き込んでごめんなさい。
「お父様……」
生きていれば必ず会えるって本当?
「ルー……」
私の白銀。
……ルーと私は一心同体。
どうして私なんかを選んでくれたのか、やっぱりわからない、崇高な聖獣。
ケーキが大好きマツキが大好きな甘えん坊のもふもふ。
今更、ルーなしで生きてなんて、いけない。
ルーの糖分摂り過ぎの甘い匂いと清浄な空気なしでどこに行けというの?
一人で冒険者として、力強く生きていく。お父様とルーと三人で決めた、緊急時の方針。
そんなの、夢物語だ!
こんなに弱くて、ひとりぼっちで、どうやって生きていけと!
前世のように私は強くない!
温もりを知ってしまった。その温もりから切り離されて、立ち上がれるわけがない!
ルー、無事なの?いっぱいケガしてた。こんな離れてはおまじないかけられない!
私は契約者なのに!未熟ゆえに、ルーの気配もわからない!
「ルー!ルー!ルー!ルーう………うっうっう…………」
どこにも水分なんて残っていない身体なのに、涙が溢れ出る。
「うわーーあああああ…………」
涙で星など見えない。
「私は私は、どうすれば!!!ああああぁ………………」
◇◇◇
ほんわりと柔らかな魔力、そしてほろ苦い魔力に包まれる。
『セレちゃま、泣かないで?セレちゃまの涙で溺れてしまうわ』
私の涙がちゅるっと吸い取られた。
『しょっぱい、セレちゃま。起きて?』
「……ミユたん?」
視線を空から下に移すと、私の胸の上に、出会ったころのサイズのミユたんが心配そうに首を傾げて乗っていて、私の目尻の涙にチュッチュとキスをした。
私は恐る恐る肘を後ろについて起き上がった。
「……ミユたん、どうしてここに?」
『アス様が沼にやってこられてセレちゃまを助けて欲しいって私にお願いしたの。私、セレちゃまもアス様もルー様もだーいすきだから、いいですよって!おとうちゃまも頑張ってこいって!で、小さくなって、アス様と砂漠にきて、竜巻ビューンの前にセレちゃまの胸のポケットに入ったの!』
「アスが……」
最後に涙をくれたのを思い出した。今更ながら出血が止まっていることに気がつく。バラの毒も消えている。あのおかげで、私は今動けるんだ。
『セレちゃま、私、アス様とルー様にいーーっぱい特訓してもらったの。上手にできたらいい子いい子してくれて、美味しいお菓子をご褒美にくれたんだよ。アス様がね、絶対、いつか会えるから、カワイイ女子二人で頑張るんだよ!って!』
アス……
「そう……特訓のおかげで大きさ自在になっちゃったの?ミユたんすごいね」
『ん?これはおとうちゃまが小龍になったときに、できるようになった。でも、大っきいほうは、ホントの大きさまでだよ。ミユまだ子供だもん』
ミユたん……子供なのに……私を励ましてくれる……
私はパチンと両手で頰を叩いた。
信じるんだ!信じるんだ!絶対みんなにまた会えるって!
私はまだ強くなれるってルーが言ってた。強くなって、生き抜くんだ!私がみんなの思いを裏切っちゃダメだ!
私の夢はルーと聖地巡礼という冠を抱いた、ぶらりモフモフ世界旅!初志貫徹!絶対!
「ミユたん。ミユたんが来てくれて、とっても心強い!ありがとうね。女子旅がんばろうね!これからよろしくね!」
『セレちゃま。私はあの日、セレちゃまがおとうちゃまを救ってくれてからずっと、セレちゃまにお仕えするって決めてたよ?セレちゃまをいじめるやつは、首に巻きついて、キュッキュッって絞めるからね!任せて!』
「お、おう……」
『あれから私とおとうちゃま、ヤバヤバの葉っぱ、美味しくないけど毎日食べて、毒霧も吐けるようになったんだよ!』
「お、おう……」
◇◇◇
私は改めてマジックルームから回復薬を取り出しグイッと飲んで、動けるようになったら少し歩き、身を隠せるような小さな洞穴を見つけ、小さめのテントを張った。
テントは用途、季節などを考慮して四種類持っている。もちろんオプションや便利魔法を貼り付けてるからまずまず快適。衣食住は大事。
テントの中を整えて一息つき、私は保存食を一欠片食べながら、ミユに尋ねる。
「ミユたんは何を食べるの?」
『セレちゃまのお隣でセレちゃまの魔力を勝手にもらうの』
ルーと一緒か。ミユたんドンドンヘビ離れしていくなあ。
そういえば、ルーは私の魔力無しで大丈夫かな?お腹空かせてないかな……
『そうだ!アス様から伝言がありました。セレちゃま、魔力を使うの控えなさいって。魔力をたどってセレちゃまを捕まえる悪い奴がいるかもしれないから。』
「え、でも、魔法なしで冒険者は心許ないよ」
『うん、だから、わたちの魔力をちょっとセレちゃまに入れるの。そしたら魔力が変容するんだって。そしたらちょっとなら魔法使っていいんだよ。セレちゃま、カップンしていい?』
「うん」
ミユは私にスルスルと這い上がり、左手の人差し指にカップンと噛み付いた。
ミユたんの魔力がチョッピリ流れてくる。
「ミユたんの魔力、お花の香りだね」
『だってミユ、女の子だもん!』
毒霧吐くけどね……
『そういえば、竜巻から落っこちるとき、セレちゃまの胸から水色のおっかない魔力が吹いてセレちゃまを包んだの。そのおかげでフンワリふわふわ着地したんだよ』
ギレン……
私はギュッとプレートを握りしめる。
「そういえばミユたんって何歳?」
『セレちゃま、女の子に歳を尋ねるのはマナー違反でしゅ!』
「ご、ごめん」
『えへ、実は忘れたの。50才過ぎたら数えるの止めたの』
……ド先輩じゃん………
第5章、セレとミユたんのにゅるにゅる女子旅スタートです!
活動報告にも書きましたが、なろうトップページの「今日の一冊」、今日から二週間、セレとルーが紹介されています!祭りだわっしょい!
是非覗いてみてください !




