表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/173

63 シュナイダー殿下と対峙しました

『西に向かう!俺のテリトリーだ!』


「了解!」


私とルーは身体強化をして、跳躍を繰り返す。シュナイダー殿下の手練れの追っ手を手裏剣で撃ち落としながら、先に先に進むが……膨大な魔力がありえないスピードで迫ってくる。


「ルー、ゴメン。あと数分で追いつかれる」

『仕方ない。この森を抜けた砂漠で迎え撃つ!』


私はマジックルームから武具を取り出し補充しつつ、国境の砂漠を目指した。




◇◇◇




私とルーは傾きかけた太陽を背にして突っ立っていた。ニックの真似だ。50メートルほど先に、シュナイダー殿下が佇んでいる。髪にもローブにも胸の白バラにも一切の乱れがない。隠すつもりもなさそうなこの地を支配しそうな魔力。私の三倍はある?私の努力が足りなかったというの?


『セレ、悩むことはない。ただ単に年齢と、身体の成長の差だ。おまえはこれからまだ伸びる』

「これから伸びてもねえ。たった今ピンチなのに」

『それは言えてる』



涼しげな声を風が運んでくる。

「よかった。追いかけっこ止めてくれて。私は少し話がしたいだけなんだ」


「……その割には怪我じゃすまない攻撃でしたが?」

「君たちが逃げるからだろ?」

「私は聖獣さまを隠さなければならない盟約を結んでおりますので」

「難儀だね。〈契約〉って」


「……お話とは何でしょう?」

「簡単だよ。私の味方になってほしい。それだけだ」


私が味方として力をふるうのは、家族とルーと……ギレンだけ。


「恐れながら全国民が第一王子シュナイダー殿下を敬っておりますが?」

「そうでもないよ?」

「……私は社交に疎い、一介の騎士候補生、殿下のお考えを読むなんて高等技術、持ち合わせておりません。」

「近々戦になるから、手を貸して欲しいと言っているんだよ」

「……どちらの国と?」


まさか、ガレ?小説通り戦争始まるの?ギレンはこの間何も言ってなかった。こっちから吹っかけるってこと?また前線に立たされるの?ギレンと戦うの?


「ガレじゃないよ」

殿下が私の頭の中を見透かすように告げる。

「戦うのは、ガードナーとだ。」


内戦かよ…………



「平たくいえば、王位継承を巡って、ということでしょうか?」

「そうだね」

「誠に恐れながら……ご兄弟お二人で解決してくださいませ。戦火となれば、どれだけ国が疲弊することか」

「うん、私もそう思う。だから、君を味方に引き入れたいのさ」

「…………。」

「ガードナーには王妃と魔法士団がついている。私にはアベンジャー将軍閣下と軍がつくだろう。そこに魔王グランゼウスと、神童ラルーザ、宵闇の妖精、トランドルの天才軍師、そして西の聖獣。これだけ味方についているとわかれば無用な争いは起こらないと思わない?」


アベンジャー閣下、すっかり懐柔されて……無邪気なのにも困ったもんだ。


「……ご兄弟喧嘩に臣下を巻き込まないでくださいませ?」

「巻き込むよ。私はもうウンザリなんだ。運命に従うのは」


「父の名代としてはっきりとお断りいたします。私達はシュナイダー殿下にもガードナー殿下にも与しません。できましたら話し合いで解決していただきたいのですが、戦になった場合は完全なる中立の立場を貫き、我が領民のみを守ります」


「そう?」

「話は十分にお聞きしました。ごめんあそばせ」


私はルーに合図し、退却するために煙幕入りの手裏剣を殿下に投げようとした。

振りかぶったその時、





「ねえ、『野ばらのキミに永遠の愛を』って知ってる?」






ズルリと私の手から手裏剣が、落ちた。




◇◇◇





「やっぱり君も転生者だったんだね。セレフィオーネ」

私とルーは黙り込む。


「せっかく異世界で出会えたんだもの。少し懐かしい話に付き合ってよ?」


シュナイダー第一王子が……転生者……


「私……いや、僕はね。日本の男子高校生だったよ。と言っても高校になんて行ったこともない。いわゆる不治の病でね。物心ついたときから僕の世界は病院のベッドの上。一番大きな出来事は小児病棟から一般病棟に移ったことくらいだね」


真っ白の日本の病室に横たわる痩せた少年……簡単に想像できる。


「僕の病棟には談話室があって、そこにはたくさんの本があった。退院する患者が手持ちの本を置いていくんだよ」


「僕はとにかく暇だったから、何でも読んだ。童話、漫画、海外の名作、純文学、ケータイ小説、ラノベ。男子用も女子用も大人用も子供用も頓着なく読んだ」


日本では……読書は現実逃避に持ってこいだったものね……


「その中の一つが『野ばキミ』だった。読んだときの感想は、『つまんねーの。こんなもん読んで女子は喜んでんのかよ?』って感じ」


殿下はふふっと笑った。


「やがて、僕は病で死んだんだろうね。気がついたらこの世界にいた」



「弟が生まれ、その名前を聞いた瞬間、前世を思い出し、自分が()()()()()小説の中に入り込んでるとわかった。記憶が混乱している最中、僕は城から、離宮に移された。僕は『病弱』にさせられたんだよ」


私は聞いていることを伝えるために、頷く。


「前世、本当に病気で、発作の度に痛みと恐怖で暴れて疲れて死んだ。今世では、せっかく健康体で生まれたというのに病気を装わされて、小説にはなかったが、おそらくガードナーか王妃に殺される運命。モブよりタチが悪い。前世と今世、一体どっちがマシなんだ」


殿下が当時を思い出しているのかじんわりと眼を閉じて……ゆっくりとまた開いた。


「そんなとき、キミに出会った。生まれて初めての聖獣のオーラに圧倒された。そして聖獣を引き連れている漆黒の髪に泣いた後なのか潤んだ黒い瞳のキミ、一眼で悪役令嬢セレフィオーネとわかったよ」


私もあの出会いの日の少年を思い出す。


「きみは……小説通りの容姿だったけど、聖獣と楽しそうに笑い、見つめ合い、抱き上げて頬ずりしていた。西の四天さまも特に嫌がるそぶりもなくて、小説のように無理矢理〈使役〉しているのではないとわかった」


「キミは聖獣を『おともだち』だと言ったね」

そう言ってルーを見て目を細める。


「しばらく様子を見ていると、キミは〈魔力なし〉に持ち込み、ガードナーの婚約者というルートから見事に外れたことを知った。私はあの時、キミが私と同じ転生者であることを確信して……泣いた。そして決意した。私も運命に抗おうと」


「それからはもう隠れなかったし隠さなかった。どうやら転生によって少し優秀な能力を持って生まれたようでね。努力すればどこまでも力は伸びるし、この世界の人にできないこともできる」


殿下もなにがしかのチートを持ってるんだ。


「そうなると私の周りが騒がしくなってね、毎日命を狙われるようになった。私は健康な身体を満喫して生きていきたいだけだというのに」

殿下は目を伏せ、ゆっくりと首を振る。


「王位など興味もなかったが、昨年、母が毒を盛られてね……未だ重態だ。前世っぽく言えば、僕はキレたのさ。もう、許さない」


王子殿下の瞳から熱が消えた。


「それに、いよいよヒロインも登場しただろう?ガードナーと数人の子息は『野ばキミ』通り骨抜きだ。セレフィオーネ、いつマリベルが王子を使って自分を排除するか、眠れない日々を送ってるだろう?」


図星だけに唇を噛む。


「恥ずかしがることはない。私もそうだ。マリベルと何度か話したが、『え、第一王子?どゆこと?この人いたら王妃になれないじゃん。でもこっちの方が王子っぽい。新しいルート?』とか言ってて笑ったよ。キミと私の苦労などまるでわかっていない。お気楽な転生者だ。しかしマリベルとガードナーの仲が深まって、意味不明な正義を振りかざされてもいいことなど何もない。危険の芽は早めに摘まねば」


殿下はマリベルに魅了されなかったらしい。転生者だからか?私と同じ、マリベルとガードナー殿下の幸せの障害になる〈悪役〉の割り振りだからか?


「キミはマリベルの思い通りになって幽閉され獄死したくない。私は病弱設定のまま殺されたくない。ほら、利害がバッチリあっている」


バッチリ……か。



「私と一緒に戦え。グランゼウス伯爵令嬢セレフィオーネ!」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 想像以上に愚かで読む気が失せかけたが、まだ話数あるし皇帝陛下との未来を見ていないので耐えよう。 自覚あろうが無かろうが『俺の為ならどれだけ周りに負担掛けても仕方がない』って理屈なんだよなあ。…
[一言] 転生者のクソボンか・・・こいつもバカだ 同類が、ここまで大きく立ち位置変えてんのにその認識かよ・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ