58 護衛任務は大変でした
その後、私は土壇場土壇場で王都に入るルートを変更した。しかし、その度その度に刺客がやってくる。私は手持ちの術をアレコレ披露する気はサラサラなかったので、全員を一度目の要領で地の底に沈めた。
おかしい。
追尾魔法なんてものがマルシュにはあるんだろうか?私は今思いついた。今度暇な時作ってみよう。
ザッとトモエ姫の身体に視線を走らせる。私以外の魔力の痕跡はない。あれ?他人の痕跡だけでなく……魔力、感じないな……。
まあ、それは置いといて……裏切り者がいるってことでしょ。護衛兵士2名、御者1名、この内の誰?
敵の刺客、手駒を生かすってのも禍根を残すだけだよねえ。お優しいお姫様だからなの?まあ私はラッキーだけど。
『何もかも胡散臭い』
「うん。めんどいね」
結局、今日は進めるだけ進んだ。夜中近くに王都まであと馬で半日という町にたどり着き、宿を取る。ギルドを通して、可能性のある街全てに宿の予約をしていたので問題なく休めることとなった。
女部屋、ということで、小さなツインの部屋に私とトモエ姫は入る。私はドアの外の護衛……年かさの、朝切りかかってきたサカキさん、年若い兵士のヤマダくん……にニッコリ笑っておやすみなさいと挨拶し、パタンとドアを閉めた。サカキさんとヤマダくんは交代で寝ずの番。御者のおじさんは明日に備えて就寝済み。
室内に防音魔法と認識阻害魔法をかける。
部屋の中にはホカホカの食事が並べられていた。
トモエ姫はそれをジッと見つめる。
「失礼しますね」
私はその中の蒸した魚を一口食べる。はい、おばあさま曰くのナンバー3の毒が入ってましたー!
私はテーブルの上のものを全て片付けて〈 ナマモノ〉から今朝マツキの作ってくれた夕食を取り出した。
「さあ、トモエ姫、召し上がれ」
「これは……」
夕食の献立は、ウメボシオニギリと、チクゼンニと、タマゴヤキと、デザートにワラビモチ。
「マルシュ料理だわ……」
うちのマツキシェフ、マルシュの人と一緒に食べると伝えたら、ザ、お弁当を作ってくれた。マツキとうとう旨味と出汁の世界の和食に足を踏み入れたのね……。
私はガツガツ食べながら、
「美味しいよ!」
と声をかけると、トモエ姫はそっとオニギリを手に取り、舌先でチョピっと舐め、小さくかじって咀嚼したあと、ガブリとかじりついた。モグモグガツガツ、無言で食べる。
私もお腹が減っていたので、無言で食べた。ご飯くらいは依頼のうちだ。味わって食べてね。
「とっても、美味しかったわ。ありがとう」
トモエ姫は顔を赤らめてそう言った。
『マツキが作ったんだ。当たり前だ』
まあルー、抑えて抑えて。
「では明日も早いので、おやすみください」
「あの……セレフィオーネ、この後どこかに行ったりする?」
「いえ、トモエ姫の護衛である以上、隣で休むだけのつもりですが?」
ルーは気ままにお散歩に行くらしいけどね。
「そう……ならいいの。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
◇◇◇
翌日は夜明けとともに出発した。昨日と同じような襲撃を受けながら王都を真っ直ぐ目指す。結局襲撃されるのであれば、迂回するのもバカらしい。たまに魔法を唱えてくる相手もいたが発動前に叩いた。イエイ!
そして、正午すぎ、王都に到着ー!パチパチパチパチ。
私がニコニコと守衛にプレートを見せ、門内に入ると、首にプスリと後ろから針が刺さった。振り向くと、ヤマダくんが吹き矢を私に向けており、サカキさんと御者が抜刀し、王都の関所の衛兵たちを峰打ちで堕としていた。
やっぱり三人グル!なんつーか連携取れすぎてたもんね。淡々と、チグハグ感がないっていうか。にしてもここで狙ってきたかあ。確かにちょっと気が緩んだ瞬間だった。眼球に一瞬で膜がはり、私は膝をつく。
その間に御者がトモエ姫をズルズルと馬車から引っ張りだす。トモエ姫が大声をあげて抵抗する。
「あ、あなた方、裏切ったのね!ヒドイ!、はっ!セレフィオーネ!大丈夫よね?助けて!」
「……ナンバー8……ハチ毒だけに……」
「あなた達、ここはジュドールよ!そしてこのセレフィオーネは伯爵令嬢なのよ!どういうことかわかってるの!」
マルシュの男三人、苦しげに顔を歪める。
「伯爵令嬢を殺した罪、決して軽くはないわ。お前たちはジュドールで捕らえられ、ジュドールで裁かれるでしょう。二度とマルシュの土は踏めないわ。ざまあなさい。ふふふ!あ、足音が聞こえる。私の悲鳴でもう別の衛兵が駆けつけてよ!ここは王都の玄関口の砦。切っても切っても兵士はやってくる。どんなにもがいても、お前達が捕まるのは時間の問題ね!あはははは!」
「お前が、お前らが、性懲りも無く贅沢三昧ゆえに民は!」
ヤマダくんがトモエ姫を斬りつけようとするのを、サカキさんが止める。
「未来のあるお前が手を汚すことはない。オレが……」
そう言って、剣を振り下ろした。
「「サカキ様!!」」
「きゃあああ!」
「はあああ、はいストップ」
私はトモエ姫の前に出て、サカキさんの腹を蹴り上げた。
「ゴフッ!」
サカキさんは壁に吹っ飛ぶ。
「せ、セレフィオーネ、あ、あなた、なんで?」
「はあ、死んでないし!あんまり舐めないでくれる?」
「き、君!毒!マレ蜂の!致死量の!」
「はあ、慣れてますから」
こうも頻繁だとな!
先程から聞こえた足音が止み、ドアが開く。
カチャ!
「姫、お待たせしました。…………おや?カタがついたのか?」
「兵士よ!この者どもはグランゼウス伯爵令嬢を手にかけ、私も殺そうとしました。すぐに捕らえなさい!って、あら?」
〈兵士〉と正反対の……いかにも縁側のおじいちゃん、ジークギルド長がやってきた。