57 ギルドに呼ばれました
「セレフィーちゃんが無理なら……提携してるギルドにこの仕事、回すけど?」
「うーん、学校を休む許可が出れば問題ないですけど……」
ギルドに呼び出されて来てみれば、仕事の〈要請〉だった。
Aランク以上の冒険者はその強さで困難な依頼を受けることが出来るゆえに、あらゆる優遇を受けることができる。そしてまたその見返りに国や自治体の〈要請〉があれば積極的に働く義務を負う。
今回の〈要請〉はAランク以上の女性、という指定。これは厳しい。Aランク以上の女性はいるにはいる。しかし、すぐに動ける立場というのは稀だ。まず、家族持ち……お子さんがいたりすると泊まりは厳しい。またAランク以上の女性とは社会的実力者になっている場合が多く、普通に仕事を離れられない。うちのおばあさまや、女性の要人の近衛などがその例だ。
「どうして女性限定なんですか?」
「えっとねえ。〈要請〉内容はマルシュ王国の王女様ご一行の警護。国境から、魔法学院までの道中概ね三日間。寝所やバスルームまで警護に入ってる。だからだね」
「え?一人くらい腕のたつ侍女連れてこないんですか?王族の寝所に冒険者入れるなんて、ちょっと常識的に……」
「うーん、理由はわからないけど、マルシュのギルドから最重要のマークがついてる。まあ王族相手だものね」
「いっそ女性騎士をジュドールに依頼したほうがいいと思うんだけど」
「まあ、国と国のあいだの借りを作りたくないってところでしょうね。冒険者を雇えば、そこには賃金しか発生しないから」
「魔法学院に用事なの?」
「留学だそうよ。王女様……11歳ね。特例で入学させるんでしょうね」
他国からの留学……ギレン陛下を思い出す。学院時代の彼、そして雪の夜の陛下。また顔が熱くなる。
それにしても……学院、鬼門だ。
『セレ、学院はならん』
ルーの声が厳しい。
でもギルドにはいつも無理を聞いてもらってるしな。ニックとアルマちゃんにもみんな顔は怖いけど優しくしてくれてるし。国相手なら、ギルドにも相当お金落ちるよね。
「ララさん、私は訳あって魔法学院には行けません。王都までの警護であれば請けましょう。あと、私の情報は漏らさないこと。謎の多い女冒険者枠を狙ってます」
「セレフィーちゃんステキ!オーケー!先方に確認してみるわ」
◇◇◇
国境の町の詰所で私 (とルー) は護衛対象と対面した。
先方は御者が1名、護衛の男性兵士2名、そしてお姫様。
私は膝をつく。
「はじめまして、私、ジュドール王国トランドル領のギルドに所属いたします、セレフィオーネと申します。短い道中ではありますが、よろしくお願いします」
王女は……私よりデカかった。私より三つも年下なのに!ちくせう!その王女が目を丸くして、隣に立つ黒髪の長髪を襟足で一つに結んだ大男に目配せした。
男は抜刀し上から切りつけてきた。私は軽くジャンプして左足で彼の手首に蹴りを入れ、剣を落とさせ、首の左に手刀を入れた。
「グッ……」
男がうずくまる。この間、1分?
まあ、腕を試されたってとこだよね。
「えーと、私でご不満でしょうか?」
姫君がハッと正気に戻り、ブンブンと首を横に振る。
「いいえ!いいえ!セレフィオーネ、よろしくお願いします。私はトモエ。このようなマネをして、ごめんなさい!」
「色々と……事情がありそうですがお尋ねしません。ただ、よろしければ、どういった危険が想定されるかだけお聞かせ願えると助かります」
私は騎馬にて馬車のお姫様をガードするつもりだったけど、ホントに侍女がいないから、お姫様とともに馬車に乗り込む。前後を男性兵士に守られての出発だ。順調であれば途中の街で今夜一泊するだけで、明日の夜には王都に入るだろう。王都に入れば関所に魔法学院から迎えがくる手筈になっている。
「あの……セレフィオーネはホントに14歳なの?」
私がこの先どのルートを取るかアレコレ考えていると、オズオズとトモエ姫が話しかけてきた。
トモエ姫は腰まで届く真っ直ぐな黒髪に茶色の目、名前といい、前世の世界観に似ていて愛らしい。小学校高学年って感じだ。
「はい、ちっちゃいけど、ちゃんと14歳ですよ」
日はなかったけれど、少しは私のことを調べているようだ。
「何歳で冒険者になったの?」
「11歳でギルドの門をくぐりましたね」
「伯爵……令嬢なのに?」
貴族であることもたどり着いてるのね。
「いつまで伯爵令嬢でいられるかなんて、わからないでしょう?」
「そう……ところでセレフィオーネの服、我が国のものに似ているわ」
私は今日は万全を期すために、グレーの忍び装束。
「そうでした。この服は兄がマルシュの服を参考に作ったものです。兄が魔法学院に通っていたころも、マルシュからの留学生がいたようで」
「ああ……ケンジ兄様ね、きっと……」
トモエ姫の瞳に痛みが走る。
「ケンジ兄様はね。もういないの。私の一番大事にしていた侍女も殺された。我が国は動乱の最中。私は身の安全のために王に国を出されたの」
わーお!ヘビーな事情。どうしよう、これ以上聞きたくない。でもそんなわけにいかんよね。クスン。
「つまり現在進行系でトモエ姫は狙われているということでよろしいですね」
トモエ姫がこくんと頷く。
「ズバリ、誰に狙われているのですか?」
まさかガレじゃないよね?ジュドールに侵攻する前にマルシュを制圧とか、そんなシナリオなかったよね。
「宰相です。私の弟、第4王子が三年前に生まれまして、王子の母は宰相の娘、つまり王子は宰相の孫です」
「典型的なお家争いですか」
はあ、陛下じゃなかった。疑ってゴメンね。
「これまではどういった方法で狙われてきたのですか?」
「主に毒です」
おばあさま……おばあさまの懸念、大ヒットです。
「あとは……移動中に事故を装って殺される、ですね」
ん?それ、…………今でしょ?
4、いや5頭の馬の蹄の音が近づいてくる。
『セレ』
「うん。……姫、敵はどうされますか?生け捕り?それとも殺したほうがよろしいの?」
「え?」
「あなたのご依頼通り、私は動きます。もう来ます。3秒で決めて!1、2、……」
「こ、殺さないで!」
「わかりました。ここを決して動かないでください」
私は超音波でできた防御魔法をトモエ姫と私とルーにかける。敵のレベルがわからない以上油断は禁物。
私は馬車の扉を開け、屋根に飛び乗った。
「な、なんだ!」
護衛の兵士がギョッとする。
「前方より敵接近、悪いけど邪魔、両脇にどけて!」
「は、はい!」
ようやく敵が目視できた。
お姫様は殺さないようにとのこと。
トモエ姫に、救われた……敵じゃなくて、私が。
今回の仕事に命の危険などないと思っていた。
人を殺める可能性など考えていなかった。
A級以上の依頼の価格が高いのは、手を汚す駄賃なのだ。
その覚悟もないくせに……私は……愚かだ。
『手がいるか?』
「ルーは温存」
私は右手で風と雷を発動し、敵が100メートルの近さまで来た時に敵の目の前に術を落とした。
ザクッッッ!!! バリバリバリーッ!!!
切り裂く風と落雷で地面が裂ける。電撃を受けた人間は馬諸共裂け目深くに堕ちていく。
裂け目を覗き込むと20メートルほどの深さがあり、5組の人間と馬が転がっていた。
「トモエ姫、ジュドールで裁いてもいいですか?マルシュに連れて行かれますか?」
「……ジュドールの法で裁いてください」
「了解しました」
私はギルドに伝達魔法を送った。賊の引き取りと、マルシュの内情の情報を求めて。もちろん、うちのエンリケへのリスペクトで蝶だ。
「セレフィオーネは……魔法も使えるのね……」
「女は秘密でできてるんですよ」




