56 14歳、騎士学校二年生になりました
私、アルマちゃんは、この春、無事に騎士学校二年生になった。クラスもおんなじ1組!やった!ニックも一緒。そして担任もコダック先生が持ちあがった。
残念ながら、今年の新入生に女子はいなかった。よって私とアルマちゃん二人だけ。私は左の小指にある金の指輪を眺めた。
この金の指輪は私達女子四人の友情の証。
先輩方の卒業前、アルマちゃんが一粒の金を持ってきて、グランゼウスの力を借りたいと言ってきた。アルマちゃんは休日にギルドの依頼を受けながら、ずっと加工しやすい鉱物を探していたらしい。
「この金で……ちょっとで恥ずかしいんだけど……何か、四人を繋げるものを作りたいの……でも私には、何のツテもなくて……」
私は感激して涙ぐんだ。アルマちゃんも私達を大事に思ってくれてることがシミジミ伝わって。一方通行の思いではなかったことがわかって。
この世界であろうとも、金は高価。売れば100万ゴールドにはなるだろう。
お金の問題ではないけれど、お金よりも、私達とのこれまでとこれからを選んだのだ。
私は喜んでパパンにお願いして金細工師を紹介してもらった。繊細な、騎士学校を覆う蔦の模様の4本のリングが出来上がった。戦闘の邪魔にならない利き腕ではない小指用。
私は職人さんからそれを受け取ると、こっそり魔法をかけた。新作魔法。私以外の三人の生命の灯火が消えそうになるとそれを感知し、その元凶に電撃が放たれるように。3本に魔力を込めるとふらふらになった。
最初は危機に瀕した時、私に伝わって駆けつけられる魔法にしようと思った。でも、そのとき私が生きているとは限らないと気がついた。
卒業式の朝、エリスさんもササラさんもその場で身につけアルマちゃんと私を抱きしめてくれた。
私がいなくなっても、私の最初のお友達を、守ってくれますように。
そして、私のもう一つの増えたアクセサリー……と言うには重すぎるもの……ギレンのプレート。
触れるたび、目に入るたび、あの雪の夜を思い出す。あまりの恥ずかしさに、真っ赤になったり真っ青になったりしゃがみこんだり奇声を上げたりする私に、
『青春だな……』
『アス、ヤングはアオハルと読むらしいぞ?』
『マジでー?ウケるー?』
「……お前らあ!面白がってもー許さん!私にこんな思いさせるギレン諸共ハゲてしまえ!」
『セレ!悪かった!セレが言うとシャレにならん!コラ言葉に魔力乗せるな!』
『セレ!ギレンを巻き込むな!俺が制裁を受けるハメになる!悪ノリしてるのはお前の聖獣だ!』
アスを度々寄越すものの、もう少し現状で頑張るという私の意思を尊重してくれるギレン。
あと二年で私はギレンの隣に並べるほど強くなれるだろうか?
あと二年後も、ギレンは私を必要としてくれるだろうか?
あと三年後、断罪の17歳を迎えても…………私は誰かの愛される存在になりうるのだろうか?
◇◇◇
で、ランチタイムなう。テーブルには私とアルマちゃんとルーと……セシル。セシルも今年は同じクラスになった。
「セレフィオーネ様と、一緒に昼食を食べられるなんて、感激です!これが夢かどうか誰か張り倒して教えてほしい!」
アルマちゃんが、二年生になってますます磨きのかかった蔑みの目で血の繋がった兄を眺める。
ルーもセシルを一瞥したあと私の肩で悲しげにため息をつく。今日のルーは口数が少ない。
「セシル、例の件、報告!端的に!正確に!」
「はいっ!私、セレフィオーネ様の命を受けて、王宮で行われた花見の会に出席してきました!」
セシルは私の従順な犬になりつつある……決して私が仕向けたわけではない!こんな変態、私の手に余る!
「うん、続けて」
「招待客は上位貴族と要職につく皆様方。あ、財務相はお見かけしませんでした」
パパンが行くわけない。……魅了にやられるかもしれないじゃん。
「あ、シュナイダー第一王子殿下が珍しく最初の15分参列されてました。いらっしゃる間、王妃殿下が少しピリピリした雰囲気でしたね。体調は良さそうにお見受けしました」
まあ……仮病だろうからね。
「私めは、ガードナー殿下の友人枠で招待を受けました」
私はサラダを口に運びながら頷く。
「ガードナー殿下の招待客の中には、もちろん、イザベラ様、そしてマリベル嬢もおられました」
「ドリル令嬢どうだった?元気だった?」
アルマちゃんがサンドイッチを飲み込みながら尋ねる。同じ侯爵令嬢として気にかけているみたい。
「イザベラ様は落ち着いた、くすんだピンクのドレス姿で、輪の外で静かに花を眺めておられたのですが、あっという間にご令嬢達に囲まれて、ご衣裳をよくお似合いだと褒められておいででした」
私がデザインしたからね!
「セレフィオーネ様が興味をお持ちになったマリベル嬢は、終始殿下の傍らから離れず殿下と学院の男子学生と談笑していました」
「男子学生って誰?」
「デュエル侯爵の次男であるカイン様とウエンツ子爵の嫡男ハリー様です」
宰相の息子枠とワンコ枠の二人ね。取り巻き少ないな……と思ったけど、魔法使い枠のアニキとマッチョ枠のセシルがそっちにいなけりゃそうなるか。
「それで、私の課したミッションは?」
「もちろん三つとも完遂致しました。まず一つ目、騎士学校の制服でマリベル嬢に挨拶に行き、礼儀正しく会話しました。二つ目、少し距離を取り、命令通り三分間じっとマリベル嬢を見つめました。最後の三つ目、会が終わったときもう一度挨拶に行きあなたはバラのように美しいと言い、握手を求めました」
「ご苦労。マリベル嬢はどんなご様子でしたか?」
「『あなたは素晴らしいからきっと騎士団長に卒業後すぐになれるだろう、あなたの槍で私を守って欲しい』と。私はこれからは騎馬して槍で敵を落とす時代ではないと見切りをつけて、入学早々弓しか手にしていないというのに。もちろん、セレフィオーネ様のおそばに少しでもいたくて弓にしました。うふふ」
『「「…………」」』
「『超上級な魔法師であれば、私が守ることなどないでしょう?』と問うと、『私の魔力は人を傷つけるためのものではない、だから騎士様守って』、と」
「へえ、で、セシルは何て答えたの?」
「『騎士は強きは守りません、私が守るのは魔力も力も持たない民です』と」
「セシルがマトモなこと言った!」
アルマちゃんが目をまん丸にした。
「マリベル嬢はなんて?」
「『あれ?おかしいな?落ちない』とかなんとか」
「最後に、マリベル嬢をどう思ったか?王妃の器か教えて?」
「はい、マリベル嬢は超上級の魔力のことを別にするならば、平民…じゃなかった、平凡だなと。いっつも私に騎士団長とか同じ話をふるので頭は弱いのかもしれません。身分どうこうではなく、まだ数度しか会ったことのない男に、タメ口というのも引きますね。握手した手はフニャフニャで、ぶたれるならセレフィオーネ様やアルマのように剣ダコのある手の平じゃないと嫌です。王妃は……厳しいでしょう。真剣に王族の教育を受けているイザベラ様のほうが国の未来は安泰だと思います」
「でもかわいいのでしょ?殿下がお気に入りになるほどに。殿下を押しのけてでもマリベルが欲しい!という強い気持ちにならなかった?」
「私はかわいいよりも強い女性を崇拝しておりますので、殿下と趣味はかぶりません」
セシルが私達二人を上目遣いに見つめて……顔を赤らめる。
私より30センチ以上デカイくせに乙女すんな!
「なるほど……セシル、ご苦労様、はいこれお礼!」
私はバニラアイスクリームを手渡した。
「ああ……セレフィオーネ様!私は今日の日を一生忘れない!」
セシルが涙ぐむ。
「ねえセレフィー、なんでご褒美はアイスなの?」
「セシルに後に残るもの渡したくない」
「ナルホド」
セシルが片手を頰に当てて幸せそうにアイスを食べる。
アイス一つでセシルが喜んで動いてくれるなら安いもんだ。セシルの前世での仕打ちは脳裏に焼き付いているけど、今、実際、ガードナー殿下の懐に入っているセシルは使える。だから利用する。未来、私の敵に再び回るかもしれないけれど、それは正直どうでもいい。歯向かってきたら、今度は全力で潰すだけ。
ただ、歯向かわない限り、特に敵視するつもりもない。私のマイスィートハートアルマたんの……双子なんだもの。
至近距離で語り、見つめ、触れた。しかしセシルの気持ちは全くマリベルに傾かない。
セシルは……今回は白だ。
「検証は終わったわ。ルー、覚悟を決めて?」
『…………』
◇◇◇
うららかな春の日の休日、グランゼウス領において、私は愛するルーとパパンに……かかと落としを……施した……
次の更新は週末です。
今後ともよろしくお願いします。