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54 ダンスパーティーが始まりました

卒業に向けてバタバタと過ごす大事な二人の先輩たちが、少しでも快適に楽しく過ごすことができるように、私とアルマちゃんはあれやこれやと気を配る。


たとえ来年度、カワイイ女子がたくさん入ってこようとも、私達四人のような絆は生まれない。私達は一緒に笑って、泣いて、怒って、毒飲んで、毒飲んで、毒飲んだ戦友なのだ。


でも、ちょっと嬉しい朗報もある。エリスさんは軍の王都駐留の部隊に、ササラさんは軍の情報本部に入隊することになった。エリスさんはこの一年でいろいろな考え(99%おばあさまと思うんだけど)に触れて、学校からダイレクトに神殿に仕えるのではなく、もう少し世間を知り、実践を知り、人脈を作ってから神殿に入ることにしたらしい。人脈……おばあさま押さえてるだけで十分な気もする……


だから、これまでのように毎日とは言わないまでも、たまに女子会をすることはできるのだ。バンザーイ!


で、とうとう明日は卒業式。卒業生は卒業式の後、一切の猶予なく、新天地に配属されていく。

自由なのは今日の、卒業ダンスパーティーまで。





今日の私達のドレスは……マーカス夫人と私の自信作!4人で色違いだ!

瞳の色をベースにしたドレスは、エリスさんは海のような落ち着いたブルー、ササラさんは明るい性格のままオレンジがかった朱色、控えめなアルマちゃんはアイボリーとチョコレート色のツートン、そして私白黒のモノトーン。


私達は騎士学校の生徒、残念ながらあちこちにアザや刀キズがある。だから首元は綺麗に鎖骨が見えるライン、袖も八分丈、極力肌は見せていない。スカート部分は踊りやすいようにたっぷりと生地を使った。そして両脇は同じ色味のレースを太ももより下に差し入れて、イザベラ様の時閃いたチラリズム。



エリスさん、ササラさんは先ほどから仲の良かった四年生の男子諸君と代わる代わる踊っている。初めは恥ずかしそうにしてたけど、なんてったって二人とも運動神経抜群!今は心底ダンスを楽しみ優雅にクルクル回っている。パートナーの皆さんは……夢見心地だ。こんな美女と踊れる機会なんて二度とないぞ!順番ジャンケンに勝ち上がれ!


で、アルマちゃんも、講堂のど真ん中でステップを踏んでいる。アルマちゃんのパートナーの順番待ちもかなりの列だ。はあ、上背があるとダンスが映えるなあ。


ここにいるのはほぼ軍人の卵。私の大好きな3人も、制服に身を包んだ男子生徒もみんな姿勢がいいのだ。体格が良く、姿勢がよく、運動神経がいい……社交ダンスの全国大会?ってレベル。


数人男子生徒の学外の彼女が参加しているけど、自分が踊るのを忘れ、ウットリとうちのネーサン方が踊るのを魅入っている。。その気持ちわかるわかる!



「おい、セレフィオーネ!プログラム補充しろ!」

「ふあーい」


そんな戦友たちを少し遠目に眺めながら、なーぜーかー受付嬢の私!真横ではコダック先生がギロリと見張っている。


「先生、そんな怖い顔で見張らないでも、私、逃げません!」

「あ、ああ、お嬢を見張っているわけじゃない」


「そーなの?じゃあ入場者もひと段落したから、パーティーに参加してきていい?」

「だ、ダメだ!踊るとは、異性と手を繋ぎ、腰に手を回し、力を預け、至近距離で談笑することだ」

「当たり前じゃん」

「魔王に殺されるだろっっっ!!!」

わけわからん。


「はあ、じゃあ、食べるだけ」

「俺が後で美味いもんたらふく食わせるから大人しくしてろ!」


「もう!わかった!受付だけならドレスなんて邪魔なもん着ていたくない。ちょっと制服に着替えてきます!」

「ダメだー!」

「はあ?」

「観賞の権利だけは魔王から学校が死ぬ気でもぎ取ったんだ!少しは勇気を称えてやれ!」

ますます意味不明……



宴もたけなわ、盛り上がりをみせるダンパ会場を尻目に、受付はもう入場する人もなく、超暇。


「あ……ふ……」

ついついあくびをすると、

「おい!カワイイあくびするな!あっちこっちで生徒が鼻血吹いてる!四年生はお嬢に全く免疫ないんだから!」

今日のコダック先生は口うるさい。

「はあ、わかりました。眠気覚ましに少し散歩してきていいですか?」

「また雪が降り出してるぞ?」

「大丈夫」


コダック先生は自分のマントを脱いで私にまとわせた。

「まあ、退屈だよな。閉会までには戻れよ。気配は絶つな!いざという時駆けつけられないから」

「はーい!」


私はマントのフードを深くかぶって外に出た。




ストっとルーが足元に降りる。

『どこに行くの?セレ』

「どうしようか……屋上でいいか?」


私とルーはタンっと講堂の屋上に跳躍した。


屋上は雪が30センチほど積もっていた。私はヒールを履いていたので自分の進む道筋だけ温風で溶かす。一段高くなっている柵沿いまで行くと私とルーのお尻の大きさだけ雪を溶かし、そっと座る。


真下から華やかな音楽が漏れ聞こえる。私は空を見上げる。雪がチラチラ舞う向こうに、冬の星座が瞬いている。オリオン座は……この世界にはなかった。


『セレ、残念だったね』

「まあね。しょうがないよ。アルマちゃんみたいにかわいくないし、男子には武術でやっつけ過ぎて敬遠されてるしね。それに……そもそもダンスにはいい思い出ないの。だから、いいんだ」


前世の私は……いつも壁の花だった。ガードナー殿下は愛おしそうにマリベルと踊り、王子の婚約者である私にダンスを申し込む度胸のある男は誰もいなかった。

今日、楽しく踊れたら……過去の苦い思い出を上書きできるかも、と思ったけれど。


イザベラさんが苦しんでいるのに、呑気にドレスをしたてたりしたから、バチが当たったのかな。


『……セレは美しいよ』


私は夜空を見上げたまま小さく笑う。ルーの身内びいきに救われる。

少し、寒い……






唐突に屋上にエネルギーを纏った一陣の風が吹く。

ルーが私の前に躍り出て、成獣サイズになる。私も立ち上がり魔力を引き上げる。


風があたりの雲を蹴散らし銀の月が輝く。

風は渦を巻き、つむじ風となって真っ白な粉雪をグルグル取り込み、月明かりが反射し……光輝く繭となり……その繭から、月の使者のごとき銀髪を煌めかせ、漆黒の軍服を着た堂々とした男が……降り立った。



私は目を見開いた。

圧倒的なパワーを見せ付けながら、私に向かってゆっくりと歩いてくる。私とルーの目の前まで来て……ありえない!膝をついた……


ルーがそっと脇によける。




私の手を取りキスをする。


「踊っていただけますか?我が姫」


低い、胸に響く声、忘れられないアイスブルーの瞳。口の端を上げて小さく笑うこの人は、かつての恩人……そのもの。


「ギレン陛下……」







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